山梨県北杜市の清里高原にある公益財団法人キープ協会は、さまざまなイベント等を通じて、多くの人に環境意識を高めてもらう活動を行っている。同協会の環境教育事業部主席研究員で、環境教育の第一線で活躍している増田直広さんは、自然体験などを通し、自然の発するメッセージや意味をわかりやすく解説する「インタープリター」として全国を回り、美しい自然を守りながら次世代に受け継いでいくことの大切さを伝えている。自然と人との関わり方、森に入ることの楽しさや意義などについて、増田さんに聞いた。

増田直広(ますだ・なおひろ)さん 公益財団法人キープ協会 環境教育事業部主席研究員 増田直広さんのプロフィール 群馬県桐生市出身。埼玉大学卒業。同大学大学院教育学研究科修了。財団法人キープ協会環境教育事業部主席研究員、山梨県立八ヶ岳自然ふれあいセンター館長、山梨県地球温暖化防止活動推進センター長。環境教育とインタープリテーションの普及を図るとともに、「普段着インタープリター」を増やすべく日々全国を飛び回っている。都留文科大学非常勤講師、日本大学非常勤講師、帝京科学大学非常勤講師、立教大学ESD研究所客員研究員。著書に『インタープリター・トレーニング 自然・文化・人をつなぐインタープリテーションへのアプローチ』(共著、ナカニシヤ出版)他がある。 取材●中村  聖(本誌) 撮影●堀  隆弘

増田直広(ますだ・なおひろ)さん
公益財団法人キープ協会 環境教育事業部主席研究員

増田直広さんのプロフィール
群馬県桐生市出身。埼玉大学卒業。同大学大学院教育学研究科修了。財団法人キープ協会環境教育事業部主席研究員、山梨県立八ヶ岳自然ふれあいセンター館長、山梨県地球温暖化防止活動推進センター長。環境教育とインタープリテーションの普及を図るとともに、「普段着インタープリター」を増やすべく日々全国を飛び回っている。都留文科大学非常勤講師、日本大学非常勤講師、帝京科学大学非常勤講師、立教大学ESD研究所客員研究員。著書に『インタープリター・トレーニング 自然・文化・人をつなぐインタープリテーションへのアプローチ』(共著、ナカニシヤ出版)他がある。

取材●中村 聖(本誌) 撮影●堀 隆弘

──山梨県の清里にあるキープ協会は、「清泉寮」があることで有名ですが、どんな活動をされているんですか?

増田 もともとはアメリカ人牧師のポール・ラッシュ博士が、関東大震災の復興のため来日した際、日本を気に入り、キリスト教指導者研修施設として清泉寮を建てたのが始まりです。ポール・ラッシュ博士は、人類への奉仕のための4つの理念である「食糧・信仰・保健・青年への希望」を柱に、農業技術を若者に無償で教えたり、無医村地域だった清里に診療所を開設したりするなどの活動を行っていました。

 その後、昭和31年に、財団法人キープ協会として認可されました。4つの理念に「環境教育」「国際交流・協力」を加え、現在ではガイドウォークなどのイベントを通し、多くの方に自然に親しんでもらえるような環境教育にも力を入れています。

──ポール・ラッシュ博士からは、キリスト教的な博愛精神が感じられますね。

増田 ポール・ラッシュ博士が残した有名な言葉に、「Do your best, and it must be first class.」(最善を尽くしなさい、しかもそれは一流でなくてはならない)というものがあります。ポール・ラッシュ博士に接したことのある人の話では、ボランティア精神とフロンティア精神にあふれ、果敢に物事に取り組み、地域のために自分は何ができるかを、常に考えていた方だったようです。

原体験は川遊び

──増田さんが、キープ協会で働こうと思われた動機はなんだったんですか?

野外活動中の増田さん。愛称は「ますやん」(写真提供=増田直広さん)

野外活動中の増田さん。愛称は「ますやん」(写真提供=増田直広さん)

増田 私は地理学や地誌学といった分野が好きだったので、埼玉大学の教育学部で地域文化などについて学んでいたんです。3年生になって入ったゼミで、日本の環境教育の第一人者であり、恩師でもある阿部治先生と出会ったのが大きなきっかけになりました。阿部先生を通して環境教育という分野があることを知り、その面白さに強く惹かれると共に、社会にとっても必要な分野だと思い、環境教育に関わっていきたいと思うようになったんです。

 その後、大学院の教育学研究科の修士課程を終え、初めは博士課程まで進んで研究者になろうと考えていました。ただ、当時は環境教育の分野で博士課程の大学院が少なくて、阿部先生から実践の場も大事だと言われていたこともあり、以前から関わりのあったキープ協会で働きはじめるようになったんです。

──環境教育に惹かれたのは、生まれ育った環境なども関係していますか?

増田 あると思いますね。私は群馬県桐生市の渡良瀬川の近くで生まれ育ちました。子どもの頃から釣りがすごく好きで、よく友だちと森や川で遊んだときの楽しかった思い出が、私の自然に対する「原体験」になっていますし、今、自分がこういう仕事をする上でも、それが一番のベースになっていると感じています。

 当時はウグイやオイカワといった魚のほか、水がきれいだったので、ヤマメなども捕れました。その後、護岸工事によって、慣れ親しんでいた川の環境が変わっていくのを目の当たりにしたことは、子どもながらに強く印象に残っています。

 振り返ってみれば、渡良瀬川の上流に、日本の公害問題の原点とも言える足尾銅山があったことや、河川改修で、それまで捕れた魚が捕れなくなったことなどが、その後、人と自然との関わりについて考えていくことにつながったのではと感じています。

「インタープリテーション」とは?

──ガイドウォークなどの野外活動を指導されるインタープリターをされていますが、インタープリテーションとはどういうものなんですか?

増田 インタープリテーションの一般的な定義は「自然解説」ですが、あえて言うなら「○○解説」のことだと私はよく説明しています。「○○」に入るのが、「自然」の場合もあれば、京都や奈良の文化を学ぶ体験だったら、「歴史」や「文化」が入ります。そうした「○○解説」を行いながら、参加者の方にさまざまな気づきを促す教育活動がインタープリテーションです。

──インタープリテーションの大きな特色をあげるとしたら何でしょうか?

増田 まず第一に、その地域の資源を活用するという点があります。例えば沖縄県の北部には、いま世界自然遺産になろうとしている山原(やんばる)という地域があります。そうした地域資源を、どう地域の学校教育などに活かしていくかが重要になってきます。このキープ協会周辺であれば、八ヶ岳ならではの豊かな自然をいかに守り、活かしていくかといったことについて考えることが大切です。

──地域性を活かすということですね。

増田 それはすごく重要ですね。さらにインタープリテーションでは、双方向という視点も重要なポイントになります。一方的にこちらが説明するのではなく、参加者が実際に自然の中で体験するということです。森の中を散策する「森のガイドウォーク」でも、たとえば、モミの葉の香りを嗅いだときに「いい匂いだな」と実感する。それにより自分の感性も高まりますし、自分と自然との「つながり」を意識することにも通じています。

──ご共著の『インタープリター・トレーニング』(ナカニシヤ出版)にも書かれていますが、「ものごとの背後にある、本質に迫ろうとする体験を重視した教育活動」が大切だと?

増田 そうですね。私は「心が動く」という言葉を使うんですが、森の中に入って、「きれいだなあ」とか「気持ちいいなあ」というように、いろんなことで心が動く。すると、その感動を誰かに伝えたくなる。感覚的に見えているものだけではなく、その背後にある「つながり」だとか「本質」を感じとってもらうのがインタープリテーションなんです。

 そうして普段都会にいて自然と親しむ機会が少ない人が、自然のなかでさまざまな体験をすることで、自然との一体感を取り戻し、自然の大切さに気づくきっかけになります。いま、自然の中に身をおくことの大切さが注目されてきましたが、自然に触れて「心が動く」という体験をしてもらえたらいいなと思っています。

身近な自然に目を向ける

──ご自身として、森の中に入ることにどんな楽しさがあると感じていますか?

増田さんが館長を務める「山梨県立八ヶ岳自然ふれあいセンター」の館内

増田さんが館長を務める「山梨県立八ヶ岳自然ふれあいセンター」の館内

増田 森の中に入って、気がつくことは多いですね。この前も、仕事で小笠原と沖縄に行ってきたんですが、向こうの森だと、このあたりの森にはほとんどないような照葉樹がたくさんあります。そうした地域の特性が見えてくるんです。森は生物多様性の場と言われます。いろんな生き物がつながりあって、生きている様子が見られるのが面白いなと思いますし、それが森の一番の魅力だと感じますね。

──自然に触れながら、近年の気候の変化を感じることがありますか?

増田 私はよく、地球温暖化にからめてセミの話をするんですが、本来であればこの清里高原周辺は、エゾゼミやエゾハルゼミといった冷涼な気候に住んでいるセミたちがいました。でも、近年は麓の方にいたアブラゼミなどが上の方にまで上がってきています。そうした変化は気になりますね。

──気候変動に対して、我々はどのように対処すべきでしょうか?

増田 地球環境問題は、問題解決へのアプローチの仕方が難しいところがあります。それにはやはり、私たち一人ひとりが「自分ごと」として、周囲の自然と向き合っていくことが大切だと思います。

 たとえば、都会に住んでいて、自然豊かな田舎と同じ体験ができなくても、近くの公園で緑を感じたり、季節の移り変わりに心を留める。さらには日々の生活を見直して、たとえばペットボトルを使う量を減らしてみたりとか、ゴミを減らすにはどうしたらいいかとか、一人ひとりが自分にできることから始めていくことが大切ではないでしょうか。

「誰にとっても平和な社会」を作るために

──今後、人と自然の関係はどうあるべきだとお考えですか。

増田 私たちが活動のなかでやっているのは、「人と自然」「人と人」という2つの関係を改善することだと思っています。環境問題がなぜ起きたかというと、前者で言えば、人と自然との関係が壊れてしまったからで、自然から多くの恵みを頂いていた人間が、いつの間にか錯覚して人間の方が自然より上だと思うようになってしまったわけです。後者で言えば、私はよく環境問題を引き起こす最大の要因は戦争だと言っているんですが、戦争が起こると、多くの人間や生き物の命が奪われ、自然も破壊されてしまいます。

 環境問題では「持続可能な社会」という言葉がよく使われますが、私はそれを「誰にとっても平和な社会」と置き換えているんです。今、生きている人々だけではなく、未来に生きる人々や生き物、そして自然のことを考えて行動することが大事なのではないでしょうか。

──自分たちだけでなく、未来のことも考えて行動するということですね。

増田 環境問題が、自分とは縁遠いものではなく、自分の生活につながっているということにぜひ気が付いて欲しいと思います。私はいつも「普段着インタープリターのすすめ」ということを言っているんですが、自然と人間のつながりを意識して生活するような、「インタープリター的なセンスを持った人を増やしていきたい」と思っているからです。職場や学校など、それぞれの立場で、環境意識を持って活躍してくれる仲間を、これからも増やしていきたいと思っています。

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