A 緊急事態に内閣が憲法を一時停止する権限です。日本の場合、憲法に条項を導入しなくても緊急事態に対応することは可能です。

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 2011年の東日本大震災をきっかけに、「緊急事態条項(きんきゅうじたいじょうこう)」を憲法へ導入(どうにゅう)することが、自民党で議論されてきました。10月の衆議院総選挙では、同党の選挙公約のなかに、憲法改正4項目が盛り込まれ、その1つに同条項が「緊急事態対応」として挙げられました。

「緊急事態条項」は、憲法学では「国家緊急権」と呼ばれ、「戦争・内乱・恐慌(きょうこう)・大規模な自然災害など、平時(へいじ)の統治機構(とうちきこう)をもっては対処できない非常事態において、国家の存立(そんりつ)を維持するために、国家権力が、立憲的な憲法秩序を一時停止して非常措置(ひじょうそち)をとる権限(けんげん)」(*1)と定義されます。アメリカ、ドイツ、フランス、韓国など、多くの国で採用されています。

 2012年に自民党が公表した『日本国憲法改正草案』(*2)には、緊急事態条項が98条と99条として盛り込まれています。しかし、その内容は、内閣が必要だと考えただけで緊急事態を宣言でき、「他の国々には見られない規模と範囲で、内閣に権限を集中させるもの」(*3)で、「内閣独裁権(どくさいけん)条項」(*4)と呼べる危険な内容となっています。具体的には、緊急事態が宣言されると、①内閣は法律と同じ効力を持つ政令を制定し、②内閣総理大臣は独断で財政支出することができ、③地方自治体を内閣の指示に従わせ、④国を守るという理由で人権侵害(しんがい)が許されるようになります。(*5)

 一方、他国の場合、「アメリカ憲法で緊急時に大統領に与えられているのは、議会を招集する権限だけ」(*6)です。また、フランスや韓国では、大統領が立法できる要件は厳格(げんかく)に制限されています。

 実は、日本では、緊急時に衆議院が開けないときには「参議院の緊急集会」を開くことができ、その緊急集会も開けない場合は内閣へ一時的に立法権を付与できること等、緊急事態への対応がすでに憲法や法律に定められています。(*7)つまり、憲法に緊急事態条項を導入しなくても緊急事態に対応することは可能なのです。

*1  芦部信喜(あしべのぶよし)『憲法 第六版』376ページ。岩波書店刊
*2  自由民主党憲法改正本部ホームページ http://constitution.jimin.jp/draft/
*3、4 生長の家総裁・谷口雅宣監修『“人間・神の子”は立憲主義の基礎 ──なぜ安倍政治ではいけないのか?』53ページ、生長の家刊
*5  前掲書。55〜57ページ
*6  前掲書。58〜60ページ
*7  永井幸寿(ながいこうじゅ)『憲法に緊急事態条項は必要か』18〜19、25ページ、岩波ブックレット刊