A 自然権の思想を骨格とし、社会権の保障などを取り入れた現代立憲主義の憲法として、立憲主義の本流に位置づけられます。

hidokei105_kenpou 第二次世界大戦が終わり、ファシズムや占領から解放された国々には、新たな憲法が次々と制定されていきました。日本国憲法(1947年)の他、フランス第四共和国憲法(1946年)、イタリア共和国憲法(1947年)、ドイツ連邦共和国基本法(1949年)などが制定されています。

 これらの憲法では、基本的人権の保障、権力分立、国民主権という近代立憲主義の諸原理にさらなる改良が加えられました。つまり、人権尊重の重要性が国際的に認められるようになったことを受け、基本的人権の保障がより拡大され、人間が人間らしく生きるための社会権の保障が定められるとともに、法律や行政処分などが憲法に違反していないかを裁判所が審査する違憲審査制が導入されました。最高裁判所裁判官の国民審査など、直接民主制が部分的に採用された憲法もあります(*1)。

 こうして世界の憲法の多くは現代立憲主義の憲法となりました。日本国憲法もその一つであり、日本国憲法のなかには、立憲主義が長い歴史のなかで培ってきた理念が含まれています。その代表が、近代立憲主義の成立に大きな役割を果たし、憲法の骨格として採用されたロックの自然権思想(自然権、社会契約、抵抗権の概念)(*2)です。

 自然権の概念は、第11条「この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる」という一文に見て取れます。また、社会契約の概念は、前文第一段落の中の「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって」という一文に表現され、さらに抵抗権の概念は、同じく段落の最後の部分「われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」という一文に込められています(*3)。

 外見的立憲主義(*4)の明治憲法では、国民の権利は制限され、社会契約や抵抗権の概念はありませんでした。つまり、日本国憲法は明治憲法とは根本的に異なり、立憲主義の本流に位置づけられる憲法なのです。

*1 辻村みよ子著『比較のなかの改憲論』16ページ、岩波新書刊
*2 人は誰でも生まれながらにして自由かつ平等で、生命、自由、財産の権利という「自然権」を持っているとする思想。市民は自然権を守るために社会契約によって政府をつくり、権利が不当に制限される場合は政府に抵抗できると考えられた。『日時計24』5月号、40ページ参照
*3 伊藤真著『憲法問題』245〜248ページ、PHP新書刊
*4 人権保障と権力分立を形式的に備えつつも、君主制を維持する目的のために、国家権力(君主の権力)を強くする内容を備えた憲法のこと。『日時計24』6月号、40ページ参照