ニールセン北村朋子(きたむらともこ)さん デンマーク・ロラン島在住のジャーナリスト、コーディネーター、アドバイザー。会社員、アメリカ留学を経てフリーの映像翻訳家として独立。2001年、ロラン島に移住したのがきっかけで、環境・エネルギー問題や持続可能な社会への関心が芽生え、取材活動を開始。日本のメディアや企業のための取材、撮影、視察コーディネートを幅広く手がける。再生可能エネルギー、環境、食など地球と人にうれしいライフスタイル追求がライフワーク。デンマーク人の夫と小学生の息子と暮らす。『ロラン島のエコ・チャレンジ』(野草社)などの著書がある。http://www.atree.dk 聞き手:岡田慎太郎さん(生長の家国際本部総裁室講習会企画室室長補佐、SNI自転車部部長、生長の家本部講師) 写真/堀 隆弘 自動車優先の日本とは全く正反対の、自転車優先の社会を実現しているデンマークの自転車事情について語るニールセン北村朋子さん

ニールセン北村朋子(きたむらともこ)さん
デンマーク・ロラン島在住のジャーナリスト、コーディネーター、アドバイザー。会社員、アメリカ留学を経てフリーの映像翻訳家として独立。2001年、ロラン島に移住したのがきっかけで、環境・エネルギー問題や持続可能な社会への関心が芽生え、取材活動を開始。日本のメディアや企業のための取材、撮影、視察コーディネートを幅広く手がける。再生可能エネルギー、環境、食など地球と人にうれしいライフスタイル追求がライフワーク。デンマーク人の夫と小学生の息子と暮らす。『ロラン島のエコ・チャレンジ』(野草社)などの著書がある。http://www.atree.dk
聞き手:岡田慎太郎さん(生長の家国際本部総裁室講習会企画室室長補佐、SNI自転車部部長、生長の家本部講師) 写真/堀 隆弘
自動車優先の日本とは全く正反対の、自転車優先の社会を実現しているデンマークの自転車事情について語るニールセン北村朋子さん

 国民の多くが自転車を愛好し、人口当たりの自転車保有率が世界第3位と言われるデンマーク。自転車専用道路、自転車専用レーンの普及はもとより、時速20キロで走ると、信号待ちをせずに走れる「グリーンウェーブシステム」、雪の場合も自転車専用道路を優先して除雪するなど、インフラの整備も進んでいる。先を走る自転車王国、デンマークの自転車事情について、同国ロラン島在住のジャーナリスト、ニールセン北村朋子さんに聞いた。

自然エネルギーの島ロラン島に移り住んで

──北村さんは、どんなきっかけでデンマークに住むようになったのでしょうか。

北村 デンマークに移住したのは2001年の10月で、きっかけはデンマーク人の今の夫と知り合って結婚したことです。日本に住む選択肢もありましたが、デンマークに決めたのは、「もし子どもが生まれたら、森のようちえんに入れたい」という思いがあったからなんです。「森のようちえん」は、1950年代にデンマークで始まったもので、自然の中で子どもを保育するという幼稚園なんですが、一度、その様子を見せてもらった時、子どもたちがすごく楽しそうだったんですね。それで「こんな環境で子どもを育てたい」と思って、デンマークに住むことに決めたんです。

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──環境ジャーナリストとしても活躍されていますが、環境ジャーナリストになったのは、どんな理由からですか。

北村 ロラン島に住むようになったことからですね。ロラン島は、大きな風車がたくさん立っているところで、それにまず興味を持ったのが始まりでした。いろいろ調べていくうちに、自然エネルギー、再生可能エネルギーの取り組みが進んでいる島だということが分かってきたんです。デンマークにも日本人が結構いるので、「誰かがこうしたことを発信しているのかな」と思ったら、誰もされていなかったので、自分から発信するようになったんです。

環境先進国デンマークの意欲的なエネルギー政策

──デンマークは、自然エネルギーの利用が進んでいる環境先進国と言われています。実際はどのような状況なんでしょうか。

北村 国全体で意欲的なエネルギー政策を打ち出していて、2050年までに化石燃料から完全に脱却し、電力、熱、産業、輸送すべてにおいて再生可能エネルギーに変えていくという目標を掲げています。

 その段階として、2020年までに全電力消費量の50パーセントを風力発電で賄(まかな)い、2030年までに石炭、火力を全廃すること、2035年までに電力と熱供給を再生可能エネルギーで賄うということが決まっています。

 ここまではっきりとした政策を打ち出したのはデンマークが初めてで、その後、いろんな国が追随(ついずい)してきました。

──国として、そこまでの方針を出せるというのがすごいですね。

北村 2050年までには政権が何度も交代すると思うんですが、こうした長期的な目標が出せるのは、デンマークのエネルギー政策はどうあるべきかについて、今、国会運営に関わっている大多数の政党のコンセンサスを得ているからなんです。

沖縄本島とほぼ同じ面積を持ち、自然エネルギー100パーセントのロラン島には、たくさんの風車が立ち並ぶ(写真提供:ニールセン北村朋子atree)

沖縄本島とほぼ同じ面積を持ち、自然エネルギー100パーセントのロラン島には、たくさんの風車が立ち並ぶ(写真提供:ニールセン北村朋子atree)

 日本の場合は、民主党政権の時に2030年までに原発を止めると決めたものの、自民党政権になったら白紙に戻すといった具合で、政治にすごく左右されてしまう。そこがデンマークと日本の一番大きな違いだと思います。

5人に4人は1年中自転車に乗っている

──では、本題のデンマークの自転車事情についてですが、どんな状況ですか。

北村 デンマークでは、100年ぐらい前から自転車の普及に力を入れていますが、コペンハーゲンでは、ここ10年から15年ぐらいの間に特に進んできました。大人も子供も自転車を使い、街中、郊外に自転車専用レーンがあります。オフィス街に勤める人をはじめ、政治家も自転車を使いますし、除雪が行き届いているため、雪の日でも走れますから、5人に4人は、1年中自転車に乗っているという感じです。

 国会で閣僚が任命される時、女王陛下に報告に行くんですが、みんな自転車で王宮まで行くんです。皇太子ご夫妻も、ご自分の子供を自転車で送り迎えしているんですよ。

デンマークでは、自転車専用レーン(上)、自転車専用道路(下)が至るところにある(写真提供:ニールセン北村朋子atree)

デンマークでは、自転車専用レーン(上)、自転車専用道路(下)が至るところにある(写真提供:ニールセン北村朋子atree)

──自転車利用を促進するインフラは、どのように整備されているのでしょうか。

北村 「グリーンウェーブ」というシステムがあります。これは、通勤ラッシュ時に時速20キロで自転車専用レーンを走ると、全部青信号ですいすい走れるという仕組みです。

 それから、オーフス市(デンマークで2番目に大きな都市)で試験的に行っているのは、自転車を買ったら市からチップがもらえ、それを前輪に付けると、信号のセンサーと連動するようになっているだけでなく、センサーに触れたチップが貯(た)まると信号が自転車用に早く変わるというものです。

──電車やバスに自転車は持ち込めるんでしょうか。

北村 はい。タクシーも必ず自転車を運べるキャリアを積んでいるので、途中まで自転車で行って、帰りはタクシーを使うことができるんです。レンタル自転車も充実していて、コペンハーゲンでは、ナビ付きの電気自転車があります。返却はどこででも可能なので便利ですね。

──デンマークならではの自転車の利用法があれば教えていただけますか。

北村 自転車の霊柩車(れいきゅうしゃ)というのがあります。自転車をずっと愛好していて、人生の最期もクリーンに終えたいと思っている人には、こういうサービスもあるんですね。あと、荷台が付いていて、そこに人や物を乗せる「クリスチャニアバイク」というのもあります。また、「ブリット(BULLITT)」は、いろんな使い方ができる自転車で、これでコーヒー屋をしたり、カバーを付けて子どもを乗せる人もいます。

ロラン島から始まった自転車専用レーンの色分け

──北村さんがお住まいのロラン島では、自転車の利用状況はどんな感じですか。

北村 ロラン島では、早くから自転車の取り組みをしていて、自転車専用レーンを色分けするというのは、ロラン島から始まったんです。それをコペンハーゲンが取り入れてブルーにしたんですが、ロラン島では、赤っぽいエンジ色だったんですね。

上/自転車専用の信号 下/信号に従い、ブルーの自転車専用レーンを走る人たち(写真提供:ニールセン北村朋子atree)

上/自転車専用の信号 下/信号に従い、ブルーの自転車専用レーンを走る人たち(写真提供:ニールセン北村朋子atree)

 なぜ、色分けしたかといいますと、車の増加に伴って自転車の事故が増えたため、それをなんとかしようということで、自転車で走る人が見やすいように、自転車専用レーンの色分けをしたんです。そしたら事故が激減したので、コペンハーゲンでも習ったということです。

──ロラン島が先駆的な役割を果たしたということですね。

北村 ロラン島は地方なので、都市部のように、自転車でどこへでも行けるというわけでありません。ある程度の距離のところに行く時は、車を使う人も多いのですが、夏場は自転車に乗る人が増えますし、通勤、通学用、レクリエーションとして自転車に乗る人がすごく多いんです。サイクリングルートも充実しているので、ドイツなどヨーロッパからロラン島に来る人は、自転車で島を回る人が多いですね。

専用レーンを走り、きちんと信号を守るルールの徹底

──デンマークでは、自転車が優先されていますけれども、もちろんルールがあると思います。それについても教えてください。

北村 まずは自転車専用レーンを走るということ、逆走しないこと、それから、自転車専用レーンの信号を守るということでしょうか。

 信号で止まった時には、地面に足をおろさなくてすむようなフットレスラックがありますし、自転車で走りながらものを食べたりしている人が、ゴミを入れられるようなゴミ箱が道路沿いに置かれたりしていてとても便利です。が、へルメットの着用は義務づけられていません。

──手信号とかは、どうなんでしょう?

北村 手信号は、必ずみんなやりますね。小学校の時に授業の一環として習うということもありますが、大人になってもきちんと守っています。そのルールを守っているから、あれだけたくさんの自転車が走っていても、事故が少ないんです。

──日本だと、ママチャリも本格的な自転車も、一緒の道を走るので危ないことが多いんですが。

北村 デンマークでは、自転車専用レーンの幅を広く確保することで、そうした危険性を回避しています。遅い人は右寄りを走り、速い人が左側からそれを追い抜いていくことになっていて、車の走行車線と追い越し車線のような住み分けができているんです。

デンマークでは自転車の種類も豊富。人や物を載せる荷台が付いているクリチャニアバイク(上)、車椅子ごと乗せられる自転車(中)、ナビ付きのレンタル電動自転車(下)もある(写真提供:ニールセン北村朋子atree)

デンマークでは自転車の種類も豊富。人や物を載せる荷台が付いているクリチャニアバイク(上)、車椅子ごと乗せられる自転車(中)、ナビ付きのレンタル電動自転車(下)もある(写真提供:ニールセン北村朋子atree)

 これはルールではありませんが、日本に来て気づくのは、高さが合っていない、低い自転車に乗っている人がすごく多いということですね。

──ママチャリなどは、ほとんどそうですね。

北村 サドルが低いと危ないし、漕(こ)いだパワーの半分ぐらいしか自転車に伝わらないので効率も悪いです。買った時に、自分のサイズに合わせて、きちんと高さを調整することが必要なのではないかと思います。

 例えば、オーフス市では、年に1回、「自転車整備デー」という、自転車を無料で整備してくれる日を設けています。デンマークの場合、きちんと整備をして自転車に乗るということが、自治体の政策の一環としてあるので、それが大きいですね。

日本を、もっと自転車が走りやすい街にするために

──デンマークから日本に帰ってこられると、あまりにも車優先社会であることに驚かれると思います。日本の自転車事情について、率直な感想と何か提言がありましたら、お聞かせください。

北村 日本は、もっと自転車が乗りやすい街になってもいいんじゃないかと思っています。1960年に東京オリンピックを開催した時、モノレールができましたが、2020年のオリンピックには、モノレールの自転車バージョンを造ってもいいんじゃないかなと考えています。例えば、ビルの合間を縫(ぬ)って、羽田空港から街中に早く入れる、あるいは選手村から会場まで行ける、屋根付きの自転車専用道路を造るのもいいんじゃないかと思うんですね。

 そういう道路をある程度の幅を持って造っておけば、災害が起きた時など、屋根の上に太陽光パネルを設置して自家発電ができますし、一般道がダメになっても、自転車専用道路を使い、緊急用として軽量の電気自動車を走らせることもできます。東京の一般道、高速道路は老朽化しているわけですから、地震などの災害対策にもいいと思います。

──なるほど。その他に何かありましたらお願いします。

北村 住み分けをして行く必要があるのではないかと思いますね。地理的に、自転専用レーンを新しく作るのは難しいというエリアもすごく多いでしょうから、新興開発地域などで、試験的に車線を一車線減らし、自転車専用レーンを造ってみたらいいと思います。

都会と地方のバランスの見直し そこから自転車の活路が開ける

──私ども生長の家は、都会に人口が集中して都会偏重(へんちょう)になっている現状を是正(ぜせい)しなければ環境問題も解決できないと考え、平成25年に東京・原宿にあった国際本部を山梨県北杜市の八ヶ岳南麓に移し、日本初のゼロ・エネルギー・ビル(*1)を建てて活動しております。その活動の一つとして始めたのが、自転車のよさを見直して、もっと自転車に乗ろうという呼びかけです。3年前、SNI(生長の家)自転車部が発足し、現在は私が部長を務めさせていただいていますが、それについて何かアドバイスをいただければと思います。

北村 今、都会偏重というお話がありましたが、私はいろいろな集まりのプレゼンで、利便性が高く万能な感じがする大都市も、持続可能性の点から考えると、全然違って見えてくるという話をしているんです。

 大都市というのは、小児病棟の保育器に入れられている赤ちゃんなんじゃないかと思うんですね。なぜかと言うと、保育器の中の赤ちゃんは、周りから全てを供給してもらわないと生きられない。大都市もそうで、食糧、エネルギー、水、労働力などを地方から供給してもらって初めて都市として機能するわけで、それが1個でも欠けると1日も持ちません。その意味で、都市と地方は対等の関係なんだ、ということに気づかなければいけない時に来ているんだと思います。

 今後、再生可能エネルギーだけでやっていこうとしているデンマークでは、どうしても地方自治体の力が必要なんです。だから、地方自治体にクリーンエネルギーを作ってもらうため、都市は何ができるのかという話し合いが進んでいて、それによって都市にないといけないと思い込んでいた物が、実は地方にあった方が便利だとか、そういうことが見直されてきているんです。そうした形で都市に集中していた物を地方に移すことができれば、都会にスペースができて、自転車も走りやすくなると思うんです。

 自転車のことだけを考えていると、なかなか前に進まないかもしれませんが、都会と地方の全体的なバランスをもう一度再構築するという視点に立つと、自転車の活動を進展させるヒントが生まれてくるんじゃないかと思います。

「乗ったら楽しい気持ちにさせてくれるのが自転車」とニールセン北村朋子さん。右は、岡田慎太郎さん

「乗ったら楽しい気持ちにさせてくれるのが自転車」とニールセン北村朋子さん。右は、岡田慎太郎さん

風を切って走る楽しい気持ちになるのが自転車

──よく分かりました。私たちの自転車部では、愛好家が集まって坂を登るヒルクライム(*2)というレースをしたりしていますが、まだ緒(しょ)に就(つ)いたばかりなので、今はまず、「自転車に乗る人を増やしていこう」という活動をしています。

北村 自転車に乗るって無条件に楽しいことなので、とりあえずまたがってもらう、そこからですよね。走ってみると、何とも言えない爽快感(そうかいかん)がありますものね。

──なるべくハードルを下げ、どんな自転車でもいいから、ともかく乗ってもらうということでしょうか(笑)。

北村 電動自転車なら、若くない人や体力に自信がない人でも乗れますしね。

 デンマークでは、面白い取り組みをしていて、高齢者とか障害者で自転車にもう乗れない人を自転車に乗せてあげるというボランティアがあります。皆さん、自転車に乗って、もう一度風を味わいたいと言うんですね。こうした活動が、今、すごい人気です。

──それは、二人乗りの自転車でということですか。

北村 二人乗りだったり、前に荷台がついている自転車などですね。

 それから、最近デンマークでは、車いすごと乗れる自転車が開発されたので、その自転車に車いすの人を乗せてあげ、漕(こ)いであげるというボランティアをする人もいます。これに乗って、森に出かけたり、買い物に行ったりするんです。

──インフラを整えるのも大事ですが、「乗ったら楽しい」ということを大切にしないと自転車も広まりませんね。

北村 「いくつになっても風を切って走りたい」──そういう楽しい気持ちにさせてくれるのが自転車だと思います。

──今日は、いろいろ参考になるお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

*1=創エネ、省エネの技術により、建物内の年間エネルギー使用量を実質ゼロにするビルのこと*2=登坂競技のこと