橋本淳司(はしもと・じゅんじ)さん(水ジャーナリスト、アクアスフィア・水教育研究所代表) 聞き手/田中明憲さん(生長の家国際本部職員、生長の家本部講師) 写真/堀 隆弘 橋本淳司さんのプロフィール 1967年、群馬県生まれ。学習院大学卒業。水ジャーナリストとして、水問題やその解決方法を調査、発信している。アクアスフィア・水教育研究所を設立し、自治体、学校、企業、NPO、NGOと連携しながら、「みずから考える人」「水を語れる人」を養成するなど、水問題、水リテラシーの普及活動(国や自治体への政策提言やサポート、子どもや市民を対象とする講演活動、啓発活動のプロデュース)を行う。著書に『67億人の水 「争奪」から「持続可能」へ』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る水ジャーナリストの20年』(文研出版)、『水がなくなる日』(産業編集センター)などがある。

橋本淳司(はしもと・じゅんじ)さん(水ジャーナリスト、アクアスフィア・水教育研究所代表)

聞き手/田中明憲さん(生長の家国際本部職員、生長の家本部講師) 写真/堀 隆弘

橋本淳司さんのプロフィール
1967年、群馬県生まれ。学習院大学卒業。水ジャーナリストとして、水問題やその解決方法を調査、発信している。アクアスフィア・水教育研究所を設立し、自治体、学校、企業、NPO、NGOと連携しながら、「みずから考える人」「水を語れる人」を養成するなど、水問題、水リテラシーの普及活動(国や自治体への政策提言やサポート、子どもや市民を対象とする講演活動、啓発活動のプロデュース)を行う。著書に『67億人の水 「争奪」から「持続可能」へ』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る水ジャーナリストの20年』(文研出版)、『水がなくなる日』(産業編集センター)などがある。

 国家間の紛争が多発し、環境問題が深刻の度合いを増している21世紀において、世界を脅かすグローバルリスクとして注目されているのが水問題。日本や世界の水問題を取材し、講演や著作などを通して啓発活動を行っている水ジャーナリストで、アクアスフィア・水教育研究所代表の橋本淳司さんに、水問題とは何か、また、100年後の水を守り、持続可能な社会を実現していくにはどうしたらいいかなどについて聞いた。

人口の増加、農業や工業の発展で急激に増えた水の使用量

──「世界経済フォーラム」(ダボス会議)の「グローバルリスク報告書」(2019年版)によりますと、「最も負のインパクトが大きいとされたリスク」の4番目に上がっているのが水問題です。今、水の何が問題なのか、水の問題がなぜグローバルリスクなのかについて教えていただけますか。

橋本 まず、私たちが今使える水はどれくらいあるのかという話をします。図を見ていただくと分かりやすいと思うんですが、これは、地球全体の水を風呂桶に例えているものです。よく“地球は水の惑星”などと言われ、宇宙からの映像を見ると青く輝いて見えますが、そのほとんどは海です。海水は地球全体の水の97.5パーセントを占め、残りわずか2.5パーセントが淡水なんですね。

橋本淳司『水のなくなる日』(産業編集センター)より

橋本淳司『水のなくなる日』(産業編集センター)より

 しかし、この淡水もその7割は、凍った氷河だったりして使えない。使えるのは、汲み上げるのが容易な比較的浅いところにある地下水、川や湖沼の水で、地球全体の水を風呂桶1杯分の200リットルとすると、私たちが使える水は、その0.01パーセント、スプーン1杯分の20ミリリットルしかないんです。私たちはずっと昔から、これと同じ量の水を使ってきたわけですが、人口の増加や農業、工業の発展に伴って、水の使用量が急激に増えたことが、一つの問題です。

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 その利用可能な淡水の約7割は、農業に使われています。私たちが食べているパンやご飯の原料となる小麦、米をはじめ、どんな農作物を作るにも水が必要です。例えば、食パン1斤作るのに必要な300グラムの小麦を育てるためには、630リットルの水が必要です。茶碗1杯のご飯、米75グラムを作るために278リットルの水が必要になります。

 野菜はもちろん、家畜を育てるにもたくさんの水が要ります。家畜を育て、食肉にするまでに使う水をすべて計算すると、鶏肉は1キログラムあたり4,500リットル、豚肉は5,900リットル、牛肉は20,600リットルという膨大な量になります。

 世界の人口は、現在約75億人ですが、2025年には81億人に増加すると言われています。それに比例して多くの食料が必要になるため、今後50年間に、水の使用量は2倍近くに増えると予測されていて、深刻な水不足になることが懸念されるのです。

2050年、10人に4人は水が得られなくなる!

──農業や工業において、水はどんな使われ方をしているんでしょうか。

橋本 最近は、世界各地で機械式の大規模な農業が行われるようになっています。大量の地下水を汲み上げて使うので、地下水が涸れたり、地盤沈下が起きたり、砂漠化するという問題が起こっているんですね。これは工業も同じです。

 大規模な農業や工業は、一時的に収穫量や生産量を増やしますが、水を使い過ぎてしまうと地下水が涸れ果て、農業も工業も営めなくなってしまう。しかも、農業や工業の発達によって水の汚染が進み、水の使用量が増えているのに、使える水の量はますます減るという状況に陥ってしまうんです。その結果、「2050年、10人に4人は水が得られなくなる」というショッキングな予測も出てくるわけです。

橋本淳司『水のなくなる日』(産業編集センター)より

橋本淳司『水のなくなる日』(産業編集センター)より

 そうしたことに追い打ちをかけているのが温暖化です。気候が変動すると、水、生態系、食料などさまざまな分野に影響が出ます。水について言うと、気温の上昇によって蒸発量が増え、水のある場所にはたくさんあるけれども、ない場所にはほとんどない“水の偏在”という状況が生まれ、それがより激しくなります。

上:地下水を飲む少女。水使用の増加で水位が下がっているという。(インド)/中:カトマンドゥの共同水場。降雪量が減ったことが心配されている。(ネパール)/下:長い時間をかけ、水源に水を汲みに行く人(インド)=写真は、橋本淳司さん提供

上:地下水を飲む少女。水使用の増加で水位が下がっているという。(インド)/中:カトマンドゥの共同水場。降雪量が減ったことが心配されている。(ネパール)/下:長い時間をかけ、水源に水を汲みに行く人(インド)=写真は、橋本淳司さん提供

 水がたくさんある場所では、豪雨による洪水や土石流、土砂災害が増加し、水がないところでは干ばつになってしまう。その意味で、この“水の偏在”ということが、現在の一番大きな水問題と言っていいかもしれません。

安全な水が飲めない国。国際河川での水の争奪戦

──橋本さんは、世界各地の水問題について取材されていますが、その中で特に顕著だと思われる国や問題についてお話しいただけますか。

橋本 やはり、一つはインドでしょうか。インドでも、工業の発達の影響で水が汚染されている上、下水道が整備されていないので、生活排水がそのまま垂れ流されて地面に浸透し、日頃使う水に混じってしまうという危険な状態になっています。

 しかし、こうしたことはインドだけの話ではもちろんありません。例えば、カンボジアのトンレサップ湖の周辺には、ベトナムから避難してきた大勢のボートピープルが住んでいますが、その人たちの“いのちの綱”が、この湖なんです。水を飲み、顔を洗い、洗濯をし、魚を捕って食べ、生活排水も湖に流している。そのため、汚れた水を飲んだ子どもたちが下痢をしたり、発育不良になったり、場合によっては死んでしまったりしているんです。 

──そうした地域には、国際河川における水の争奪戦という問題もあると聞きますが……。

inoti110_rupo_6橋本 その典型がメコン川です。この川はチベット高原に源流を発し、中国の雲南省、ミャンマー・ラオス国境、タイ・ラオス国境、カンボジア、ベトナムを通って南シナ海に抜ける、全長約4,200キロに及ぶ国際河川ですが、下流で水が足りなくなって、水の争奪戦が起きているんです。 

 日本には国際河川がないので、こうした問題を対岸の火事のように考えがちですが、それは大きな間違いです。食べ物を作るためには大量の水が必要ですから、食料のほとんどを海外からの輸入に依存している日本は、輸入元の水が足りなくなれば、たちまち食料に窮してしまう。ですから、国際河川で起きている水の争奪戦は、日本にとっても決して人ごとではないんです。

危機に瀕する日本の水道事業。インフラの更新が喫緊の課題

──日本は森が多く、水が豊かな国と言われますが、橋本さんは2009年に放映されたテレビ番組の中で、「5年後、日本人はおいしい水が飲めなくなる」と警告されました。その理由は、どんなことだったんでしょうか。

橋本 5年後というのは、ちょっとオーバーだったかもしれませんが(笑)。日本でおいしい水が飲めるかどうかを決める要素は2つあって、1つ目は水道事業が健全に運営されていること、2つ目は水源となる森が保護・保全されていることです。しかし今は、その2つ共に黄色信号が点っています。

 まず水道です。蛇口から出てくる水をそのまま飲めるという国は、世界に15カ国ほどしかなく、日本はその一つなんですが、現在、各地の水道事業経営が危機に瀕しています。上下水道のインフラが更新の時期を迎えているからです。

 日本の上下水道は、高度経済成長時代の1960年代に整備されましたが、それから半世紀以上を経て、水道管も浄水場も老朽化しています。耐用年数を超えた水道管は、地球1周分より長い45,000キロメートルにも及び、現に年間1,200件の水道管破裂事故、4,700件もの下水管陥没事故が起きてしまっています。

 まさに“更新待ったなし”の状況なんですが、2025年までに上水道で40兆円、下水道に80兆円という多額の費用がかかるため、国も水道事業者も二の足を踏んでいるのが現状です。

日本の森が抱える2つの問題。森の買収と森の荒廃

──水源となる森の保全・保護はどうなっているんでしょうか。

橋本 今、日本の森は、「買収」と「荒廃」という2つの問題を抱えています。まず、買収についてですが、森を買収しているのは国内の企業だけではありません。政府の発表によれば、外国資本が買収した国土は、森林が累計299件、総面積は5,789ヘクタールで、この8年間で7倍になっています。

 日本の土地取引は、所有者と購入希望者の合意で成立し、合法的なことであるため、領土問題にはなりません。しかし、取得後の所有権が強いので、木を伐採し、地下水を汲み上げるなど、その土地を自由に使うことができ、過度な伐採、地下水の汲み上げによって、水涸れ、地盤沈下などの被害が出ることが危惧されるのです。日本には地下水に関する法律がないため、法整備が喫緊の課題ですが、遅々として進んでいないというのが現実です。

 2つ目の問題は、森が荒廃しているということです。戦後、植えられた大量のスギ、ヒノキなどの人工林は、荒れたまま放置されているため、太陽が当たらず、地面には下草もなく、生物も少ないので、森としての機能を果たしていません。

 「豊かな森が水を育てる」と言われますが、森というのは太陽、動植物が渾然一体となってつくられるものですから、その点から言うと、今の日本にはほとんど森がない状態と言っていいと思います。

観光、防災、生態系保全など森林を総合的に考える

──水を育む日本の森が、危機的状況にあることがよく分かりました。この問題を解決するには、どうしたらいいとお考えですか。

橋本 日本の森の多くは人工林ですから、人の手を入れて間伐し、整備することが大切です。間伐された森の土は、粒と粒がくっついている部分と隙間の空いた部分があって、粒と粒がくっついている部分に水が溜まります。隙間の空いたところには水が流れてきて空気が入り、保水性があって水はけがいいという、一見相反することが見事に両立しているんですね。

 また、今後はもう奥山を開発せず、人工林を天然林に戻していくことも重要だと思います。他にも、崩れ始めている山には植林して、木の根の踏ん張りによって崩れにくくしたいんですが、根をしっかり広げて山が崩れるのを防ぐ低木の細い樹種を植えたくても、国からの補助金が使えない。補助金は林業で儲けるためのものだからです。しかし、森林は林業だけのものではありません。観光、防災、生態系保全などの面から総合的に考えていく必要があると思います。

 日本は、もともと温暖な気候で雨も多く、豊富な水と豊かな森がある国でした。私たち日本人は、そうした自然の恵みを神からの授かり物とし、森羅万象に神が宿ると考えて生きてきたわけです。時代は流れ、世界中がインターネットで結ばれる時代になっても、森や水の大切さは変わりません。未来世代においしい水を残す持続可能な社会の実現を考えた時、人の手で森を守るのはもとより、もっとも大きなパワーとなるのは、私たち日本人の心の奥底に宿る神や自然への感謝の気持ちではないかと思います。

「リデュース」「リユース」で大切な水を無駄に使わない

──素晴らしいお話ですね。水資源を守るには、水を無駄に使わないことも大切だと思いますが、私たちは、毎日の生活の中で、どんなことをしたらいいでしょうか。

inoti110_rupo_8橋本 普段から水の2R(Reduce=リデュースとReuse=リユース)を心がけていただけたらと思います。

「リデュース」とは、使う水の量を減らすことです。私たちは、普通毎日約300リットルの水を使っているわけですが、もっと少なくてもやっていけるのではないかという観点から、生活を見直してみてください。例えば、歯磨きの場合、水道の蛇口をひねって30秒間開けると、約6リットルの水が出ますから、口をゆすぐ時は、蛇口を開けたままにせずコップに水を汲んで使う。シャワーも、何分と時間を決めて使う。洗車する時も、ホースで水を流すのではなくバケツに汲んで洗うなど、こうしたちょっとした工夫で、使う水の量が随分違ってきます。

  「リユース」は、1度使った水を捨てずに、もう1回、別の用途に使うことです。例えば、野菜を洗った後の水は、食器や調理器具などのおおまかな汚れ落としに、うどんやパスタのゆで汁は、食器洗いに使うなどです。

  「リデュース」「リユース」に積極的に取り組むことで、水の使用量が減り、大切な水が守られます。

グローバルな視点から水問題を研究される皇太子殿下

──ところで、今年(2019)5月に新天皇に即位される皇太子殿下(徳仁親王(なるひとしんのう))は、昨年(2018)、ブラジルで開かれた「第8回世界水フォーラム」で、「繁栄、平和、幸福のための水」と題して基調講演をされ、「水問題を解決することが、平和に繋がる」と話されるなど、昔から水問題に大変深い関心を寄せられています。そのことについて、どう思われているでしょうか。

橋本 私が皇太子殿下のご講演を初めてお聴きしたのは、平成15年に京都・大阪・滋賀で開催された「第3回世界水フォーラム」でのことでした。この時、殿下は琵琶湖、淀川、英国テムズ川の水運の話をされました。日本と世界各地の事例を比較されたり、歴史をひもときながら都市の発展に言及されたり、さらに科学的な見地から水災害対策の話もされるなど、ご講演の内容は多岐に渡っていました。

 殿下のように、幅広い教養と知見に基づいて、一般の人も水問題を自分のこととして捉えられるように語られるご講演は、とても貴重なものだと思います。

 2007年、大分県の別府市で開催された「第1回アジア・太平洋水サミット」では、開発途上国の女性についてお話しになられました。水を得るための家事労働から解放されないため、地位向上が阻まれていること、子どもも、水汲みに時間を取られて学校へ行けないという現状について語られました。

 殿下は、水問題を論じ、行動する時は、水だけに目を向けるのではなく、貧困、食料、衛生、環境、教育、ジェンダーなどさまざまな面から、トータルに考える必要があることを教えてくださっています。

 オランダのオレンジ公、英国のチャールズ皇太子も、国際的な水問題を解決するために活動しておられるので、その意味でも、皇太子殿下が水問題の研究を続けてくださることは、心強い限りです。

東京・港区赤坂にある「生長の家赤坂“いのちの樹林”」で。右は、聞き手の田中明憲さん

東京・港区赤坂にある「生長の家赤坂“いのちの樹林”」で。右は、聞き手の田中明憲さん

多くの人に、水の大切さ、水の価値に気づいてもらいたい

──最後になりますが、今後の活動の抱負を聞かせてください。

橋本 多くの人に水の大切さ、水の価値というものに気づいてもらう啓発活動を続けていきたいと思っています。多くの皆さんが、水の大切さ、価値に気づくことで、水の正しい使い方ができ、水を生み出すことに結びついていくわけですから。

──本日は、貴重なお話をありがとうございました。(平成31年2月5日、東京・港区の日本教文社にて)

皇太子殿下の水問題に関するご事績を知るには
・水問題に関するご講演などについては、宮内庁のHPに掲載されている。http://www.kunaicho.go.jp/activity/activity/02/activity02.html
・YouTubeには、「ブラジル訪問中の皇太子さま水問題解決を呼びかけ」「皇太子殿下『水と災害に関する特別会合』基調講演」などのニュースがアップされている。
・4月には、皇太子殿下が長年取り組まれてきた水問題についての講演、講義をまとめた本『水運史から世界の水へ』(定価:1728円)がNHK出版から発刊される。