川嶋 直(かわしま・ただし)さん(日本環境教育フォーラム理事長) 聞き手/桜井 伸さん(生長の家国際本部職員、生長の家本部講師)写真/堀 隆弘 川嶋 直さんのプロフィール 1953年、東京都生まれ。早稲田大学卒。1980年に(財)キープ協会に入り、組織内に自然体験型環境教育事業を起業。大人対象の自然体験型環境宿泊プログラム「エコロジーキャンプ」を開催するなど、日本の環境教育事業化モデルのさきがけとなる。2005年の「愛・地球博」では、「森の自然学校・里の自然学校」の統括プロデューサーを務める。2007年〜2010年には、「企業と環境NPOとの協働を考える戦略会議」を主宰し、企業の環境コミュニケーション担当者の学びの場を提供。キープ協会常務理事を経て、現在、日本環境教育フォーラム理事長。著書に『就職先は森の中 インタープリターという仕事』(1998年小学館)、『KP法 シンプルに伝える紙芝居プレゼンテーション』(2013年みくに出版)などがある。●公益社団法人日本環境教育フォーラムのホームページのアドレス http://www.jeef.or.jp/ 

川嶋 直(かわしま・ただし)さん(日本環境教育フォーラム理事長)
約40年にわたって、環境教育の啓発、実践に取り組んできた川嶋直さん
聞き手/桜井 伸さん(生長の家国際本部職員、生長の家本部講師)写真/堀 隆弘

川嶋 直さんのプロフィール
1953年、東京都生まれ。早稲田大学卒。1980年に(財)キープ協会に入り、組織内に自然体験型環境教育事業を起業。大人対象の自然体験型環境宿泊プログラム「エコロジーキャンプ」を開催するなど、日本の環境教育事業化モデルのさきがけとなる。2005年の「愛・地球博」では、「森の自然学校・里の自然学校」の統括プロデューサーを務める。2007年〜2010年には、「企業と環境NPOとの協働を考える戦略会議」を主宰し、企業の環境コミュニケーション担当者の学びの場を提供。キープ協会常務理事を経て、現在、日本環境教育フォーラム理事長。著書に『就職先は森の中 インタープリターという仕事』(1998年小学館)、『KP法 シンプルに伝える紙芝居プレゼンテーション』(2013年みくに出版)などがある。

 人間の活動によって環境破壊が進む今、人間と地球環境との関わりについて理解を深め、環境の回復、保全に向けた知識や関心を高めるための「環境教育」が注目を集めている。そこで、環境教育の“草分け的存在”として知られる、日本環境教育フォーラム理事長の川嶋直さんに、同フォーラムが設立された経緯や、環境教育の実際、なぜ環境教育の道に進んだのか、今後の抱負などについて聞いた。

環境教育によって持続可能な社会の実現を目指す

inoti114_rupo_3──「日本環境教育フォーラム」(Japan Environmental Education Forum=JEEF:ホームページhttp://www.jeef.or.jp/)の理事長をされていますが、このフォーラムは、どのような目的で設立されたのでしょうか。

川嶋 日本環境教育フォーラムは、27年前の1992年、NGO(非政府組織)として設立され、2010年に公益社団法人に認定されました。国内外に環境教育を推進する団体、個人の会員を擁しています。設立の目的は、「環境教育によって持続可能な社会の実現を目指す」というものですが、もう少し詳しく説明するとこうなります。

 現在の環境問題を解決するには、「身近にある自然は、掛け替えのないもの」という感覚を持って、「自然と人間が共生し、持続的に発展していける社会を実現する」ことが大切であり、そのためにも、「自然体験を通した環境教育の普及」を図って、自ら課題を見つけ、学び、考えて行動できる人を育てていこうということなんです。

──設立に至る経緯は、どんなことだったんでしょうか。

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清泉寮(写真は川嶋さん提供)

川嶋 日本環境教育フォーラムの元になっているのは、キープ協会〈山梨県北杜市高根町〉が、1987年、清泉寮で開いた宿泊型の「清里環境教育フォーラム」(現、清里ミーティング)です。その趣旨は、多くの人々に自然体験の場を提供するための第一歩として、まずは、全国で自然教育や環境教育に取り組んでいる人たちの交流の場をつくり、そのノウハウを結集しようというものでした。

 当時、キープ協会の職員で、事務局長となった私は、ジャーナリストとして環境問題を追い続けていた読売新聞の記者、岡島成行さん(現JEEF会長)や、環境問題に造詣が深い環境庁の職員、瀬田信哉さんと共に、このフォーラムを開くと、参加者から大きな反響がありました。とはいえ、いつまでも走り続けるわけにはいかないので、1991年の5回目の開催で一区切りつけようということになったんです。しかし、その間、環境庁、地方の行政、いろんな企業、市民団体の方々、大学の教員や学生などさまざまな人たちとの関係ができたので、そのまま終わってしまうのはもったいないということになったんですね。 

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 それで、小さくてもいいから何か団体をつくってこの活動を継続させようということで、1992年に日本環境教育フォーラム(JEEF)が設立されたわけです。

幅広く多岐にわたるJEEFの活動

──日本環境教育フォーラムとキープ協会との深い結びつきがよく分かりました。JEEFでは、どんな活動をしているんでしょうか。

川嶋 JEEFで行っている活動は、主に❶環境教育の普及・啓発、❷自然体験を通した環境教育、❸指導者の養成、❹国際環境協力、❺教材作成・調査研究の5つです。それぞれ代表的な取り組みについて紹介してみたいと思います。

「GEMS」で、大きなシャボン玉を飛ばす子ども。豊かな感性が育まれる

「GEMS」で、大きなシャボン玉を飛ばす子ども。豊かな感性が育まれる

 まず❶では、企業とのパートナーシップ事業として、損保ジャパン日本興亜との共催で、1993年から「市民のための環境公開講座」を開いています。これは、「認識から行動へ」をテーマに、市民の皆さんに環境問題を正しく理解していただき、それぞれの立場で、環境問題の解決に向けた、具体的なアクションを起こしてもらうことを目指しています。毎年異なるテーマを設定し、社会人、学生、主婦など幅広い層から、これまで延べ2万人の人たちに参加してもらっており、JEEFで最も歴史ある事業の一つです。

 もう一つは、子どもたちを対象に行っている「GEMS(Great Explorations in Math and Science)〈ジェムズ〉」ですね。アメリカ、カリフォルニア大学バークレー校の付属機関であるローレンスホール科学教育研究所で研究開発されている、幼児から中高生を対象とした科学・数学の参加体験型プログラムのことで、巨大なシャボン玉を飛ばしてみたりする(写真①)など、子どもたちが想像力と創造力を使って実験を企画し、話し合って答えを導き出すというものです。五感をフルに使って実際に体験することで、子どもたちの豊かな感性が育まれます。

 その他、高齢者向けの「シニア自然大学」(写真②)、地域のリーダーを育成する高校生向けの「若武者育成塾」、大学生向けの環境合宿「森の人づくり講座」なども行ってきました。

自然体験を通した環境教育に力を入れて

──GEMSは、子どもたちが喜びそうな企画ですね。❷の自然体験を通した環境教育では、どんなことをしているんでしょうか。

シニアを対象にした学びの場「シニア自然大学」

シニアを対象にした学びの場「シニア自然大学」

川嶋  この取り組みでもっとも大切なのは、私たちが生きている地球とはどんなものなのか、そして私たちは、自然からの恵みを受け、この地球に生かしてもらっているんだということを頭で知るだけでなく、体感することなんですね。そうした意味で、この自然体験を通した環境教育には、大変力を入れています。

 具体例を紹介すると、まず「わたしの自然観察路コンクール」があります。これは、全国の小・中・高生を対象に行っているもので、毎日何気なく歩いている通学路、遊んでいる原っぱや小川、海辺などで自然を観察したり、動物、植物との触れ合いなどを絵地図にし、文章で表現してもらいます。毎年6月から9月に作品を募集し、優秀な作品には、環境大臣賞が贈られます。

 体験型の環境プログラムとしては、王子ホールディングス(株)とJEEFが協働で実施している「王子の森・自然学校」(写真③)があります。王子ホールディングスが所有する北海道の苫小牧山林、静岡県の朝霧山林で行われ、参加した子どもたちは、プロの木こりと一緒に間伐などの森づくりを体験したり、間伐材などを使ったクラフト作りをしたり、森の恵みである木が紙になる工程を工場で学びます。

 また、小学校低学年の子どもと保護者を対象に、「きのこ・たけのこ里山学校」〈(株)明治との協働〉(写真④)という、薪に火をつけるところから始まるカレー作り、森の散策、森の材料を使って工作などをする自然体験型プログラムもあります。

指導者の養成、国際環境協力、教材・調査

──次に、❸指導者の養成について教えていただけますか。

山林で森づくりを体験する「王子の森・自然学校」

山林で森づくりを体験する「王子の森・自然学校」

川嶋 今年度開かれるものに、「教職員等環境教育・学習推進リーダー育成研修」(主催:環境省、協力:文部科学省)があります。環境教育等による環境保全の取り組みに関する法律(環境保全活動・環境教育推進法)において、環境教育は「持続可能な社会の創り手の構築を目指すもの」とされ、新学習指導要領では、学校教育において、持続可能な社会の創り手に必要な資質・能力を育成することが掲げられています。

 そうしたことを実現するために、教職員の環境教育に対する理解、カリキュラム、マネジメントなどの実践力、学校全体の取り組みの向上を目的に行われるのが、この研修ですね。

 また、アクティブ・ラーナー(能動的に学習に参加する人)の育成を目指した「主体的・対話的で深い学び」を実現する対話型授業の手法と、それを支えるファシリテーター(プログラムを企画し、進行役を務める人)としての教師像を学ぶことを目的とした「教員免許更新講習」も昨年から始めており、私も講師を務めています。

──❹国際環境協力、❺教材・調査についてはいかがですか。

小学校低学年の児童と保護者向けの「きのこ・たけのこ里山学校」

小学校低学年の児童と保護者向けの「きのこ・たけのこ里山学校」

川嶋 まず❹についてですが、インドネシア(写真⑤)とか、バングラデシュ、ブータンなどのアジア諸国で、環境教育の普及のお手伝いをしています。今年(2019)の2月には、インドネシアのジャカルタ、西ジャワ、北スマトラで環境や国際協力の分野で働きたい青年のための海外研修を行い、環境問題やSDGs〈持続可能な開発目標〉の達成に向けた事例について、講義やフィールドワーク、地域住民との対話を通して学びました。

 ❺については、環境教育について学ぶ教材作りが中心ですね。これまでに、『日本型環境教育の提案』、『日本型環境教育の知恵』(いずれも小学館)などを出版しているほか、発展途上国の学校で使えるような教材を、その国のNGOの方たちと一緒に作ったり、企業人教育のための動画教材なども手がけたりしています。

インドネシア、バングラデシュ、ブータンなどのアジア諸国で、環境教育普及の手伝いをしている。写真は、インドネシアでの活動の様子

インドネシア、バングラデシュ、ブータンなどのアジア諸国で、環境教育普及の手伝いをしている。写真は、インドネシアでの活動の様子

 優れた教材を使うことで、いい環境教育ができる機会が増えるわけですから、これからも教材の開発に力を入れていきたいと思っています。

キープ協会の職員として環境教育を実現する

──川嶋さんが、環境教育の道に進まれるようになったのは、どんなことからだったんでしょうか。

川嶋 やっぱり、キープ協会の職員になったことでしょうね。もともと自然が好きで、大学生の頃から「自然と人間の橋渡し役をする、環境教育のような仕事がしたい」という思いを持っていました。ところが、当時の日本にはそんな仕事はありません。考えあぐねていた時、高校時代に清泉寮でアルバイトをしたことを思い出し、自然環境も申し分ない清里で、自分なりに環境教育をやってみたらどうかと1980年にキープ協会の職員になったんです。

 その思いは、すぐ形になるような簡単なことではありませんでしたが、自分にできることを少しずつやっていこうと、まず、清泉寮に宿泊したお客様を対象に、スライドショーを行いました。これは、清里の美しい四季折々の自然の写真をスライドにして見てもらうというもので、現在でもキープ協会の環境教育の一環として活用されています。

──その後、どう進展していったんですか。

inoti114_rupo_11川嶋 清里の自然を生かし、教育に活用する方法を探るために、私は休日を利用して日本鳥類保護連盟、日本野鳥の会など、自然教育に関心がありそうな団体を訪ねて、話を聞かせてもらっていました。これは仕事ではなく、個人的にやっていたことだったんですが、その結果、1983年に私の思いが実現したんです。

 キープ協会と日本野鳥の会の協働で、キープ協会の敷地を「キープ清里サンクチュアリ(野鳥たちの聖域)」として管理し、教育の場に活用していくことが決まり、道が開けました。翌年には、ネイチャーセンターがオープンし、キープ協会の自然や野鳥に関する情報を地図に提示するようになりました。

 またこの年には、ボランティアの皆さんの手でトレイル(自然観察路)ができました。キープ協会の敷地にあるカラマツ林を中心に、明るくアップダウンの少ない森の中を散策するAトレイル、八ヶ岳横断道路の北側、川俣林道を歩き、天然記念物の大ヤマツツツジを巡るBトレイル、清泉寮のinoti114_rupo_12裏手からアカマツやミズナラの森を歩いて川俣渓谷の美しい景観を楽しむCトレイルが整備されたんです。そのおかげで多くの人たちがネイチャーセンターを訪れ、トレイルを歩いてくれるようになりました。

五感を駆使することで出合えることがある

──そこから、宿泊型の自然教育プログラムへと発展していくわけですね。

川嶋 そうです。最初は、探鳥会や自然観察会のようなことをしていたんですが、短時間で伝えられること、体験してもらえることには限界があって、しかも、どこにでもあるプログラムと同じになってしまう。キープ清里サンクチュアリの最大のメリット、他にない特徴は、何より宿泊施設を持っていることであり、これを生かさない手はないと思ったんですね。そこで1985年に、日本野鳥の会でボランティアに参加したり、探鳥会でリーダーを務めるような人たちがもっと腕を磨く、指導者養成のための「レンジャートレーニングキャンプ」と、自然に興味のある人たちに気軽に参加してもらえる「エコロジーキャンプ」を3泊4日で開きました。

inoti114_rupo_13 レンジャートレーニングキャンプでは、地形図の読み方、天気図の書き方、自然観察の方法論から森の構造、水生昆虫の調査などのプログラムを行い、エコロジーキャンプでは、五感訓練、昆虫の生態、早朝観察会、森林の仕組み、夜の野外観察などの野外実習を中心に行いました。

──参加者の反応は、どのようなものでしたか。

川嶋 エコロジーキャンプを始めた初期の頃に、参加者の皆さんが感激し、深く心に残る出来事がありました。

 夏の夕暮れ、辺りが暗くなりかけた時、月見草の花がふんわりと膨らみ始め、数秒で見事な花が開いたんです。生命の力強さを実感させられる瞬間を目の当たりにした参加者から、歓声と感嘆の声が湧き上がりました。

 私もスタッフも時間を忘れて、薄暗闇に咲く月見草の花に見入っていたんですが、その時、「自然の中で学ぶといっても、結局大切なのはこういうことなんだ」とはっきり感じたんです。森の中に佇み、五感を駆使することによって出合えるものが確かにある、知識を詰め込むことより、こうした出合いや感動こそが大切なんだと確信した出来事でした。

 この時の体験が大きな核となって、清里環境教育フォーラムなどの活動に繋がっていったと思います。

人間中心、物質中心の考え方を改めるとき

──参加者の皆さんの感動がありありと伝わってくるお話ですね。最後になりますが、JEEF理事長としての抱負をお聞かせください。

新緑が目に鮮やかな自宅近くの清里の森で、清里の自然の魅力について語る川嶋さん

新緑が目に鮮やかな自宅近くの清里の森で、清里の自然の魅力について語る川嶋さん

川嶋 全体としての基本的なミッション(使命)は、環境教育のさらなる普及ということですが、4つの重要課題をあげたいと思います。

 第1は、「人間は自然の一部である」と認識して初めて人は環境問題を理解できるわけですから、その足がかりとなる、自然と触れ合う自然体験活動をより普及させたいということです。第2は、広く環境問題に対する啓発活動を行っていくこと。第3は、若い優秀な人材を育成するために、日本社会に環境NGOを根付かせることであり、第4としては、今掲げた3つのことを確実に行うためにも、多くの皆さんの協力をいただいて、経営の安定を図っていきたいということですね。

 環境問題が深刻化し、地球規模の危機に瀕している今、技術や規制などによる対処療法的な対策の見直しだけでなく、政治、経済、テクノロジー、ライフスタイルなどあらゆる領域において、人間中心、物質中心の考え方を改め、新しい価値観、世界観を創造することが求められています。いずれにせよ、人々の環境に対する意識が変わらないと、環境の保護・保全に向けた具体的な行動には結びつかないわけですから、これからもさまざまな取り組みを通して、環境教育を浸透させていきたいと考えています。

 生長の家さんも、JEEFの賛助会員になってくださっていますので、さまざまな環境教育の取り組みにご参加いただくとともに、何かいいアイデアがあったら、ぜひ提供していただきたいと思います。

──今日は、大変参考になる貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。(2019年6月2日、北杜市清里の森、川嶋直さん宅にて)

写真①〜⑤は川嶋さん提供