一枚の絵からは、そこに描かれている形象だけでなく、作者が何を思い、どう考えて生きたのかという、心の軌跡が浮かび上がってくるものです。絵が描かれたいきさつ、それにまつわる作者の人生を紹介していきます。(絵と文 川崎善張)

『虹のしずく』(2015年作。P10号)

『虹のしずく』(2015年作。P10号)

絵と文 川崎善張(かわさき・よしはる) 大分県豊後高田市在住の画家。1957年、大分県生まれ。東京造形大学卒業。白日会会員を経て、現在、生長の家芸術連盟(生芸連)会員。2002年に生光展賞。生長の家地方講師、生長の家相愛会大分教区連合会副会長。

絵と文 川崎善張(かわさき・よしはる)
大分県豊後高田市在住の画家。1957年、大分県生まれ。東京造形大学卒業。白日会会員を経て、現在、生長の家芸術連盟(生芸連)会員。2002年に生光展賞。生長の家地方講師、生長の家相愛会大分教区連合会副会長。

 ミクストメディア(*1)の絵、『虹のしずく』のイメージは、下地として塗った日本画の顔料(*2)<小豆茶 13号(*3)>の塗り斑(ぬりむら)から生まれた。

 下塗りの終わったカンバスをイーゼルに立てかけ、ぼんやりと眺めているうちに、筆跡と小豆茶の色の濃淡の内から、何か浮き上がって来ているように見えた。意識を集中して目を凝(こ)らすと、いろいろな形が浮かび上がってきたのである。

「この目に映っている色斑(いろむら)の奥底に感じられる形(想念)を表現しよう」と筆を滑(すべ)らせていくと、最初は、ぼんやりと輝く岩肌として現れ、さらに描き進めていくうちに、岩肌の周囲から、やや明るい光のような色が噴(ふ)き出してきた。そしてその色は、次第に強さを増し、やがて花びらのような形としてカンバスに顕(あらわ)れてきた。それが、『虹のしずく』である。

 この絵を描きながら気づかされたことがあった。現象として見える斑からも、見方次第、感じ方次第で、素晴らしいイメージが膨(ふく)らむこと、そして、イメージを膨らませられるかどうかは、自分の心の在り方によるということだった。

 心は自由自在である。同じ現象に遭遇しても、それをどう受け取り、どう感じるかは人それぞれで、現象世界は、人の心の数だけ存在する。

 以前、手で摘(つま)んだ真っ白の紙を見せられ、「この紙に何が見えますか?」と聞かれたことがある。目に映る紙だけを見れば、それは、親指と人差し指で摘(つ)ままれて、蛍光灯(けいこうとう)の光を受け、少し揺らめきながら白のグラデーションを変化させているにすぎない。ただ見ているだけでは、それ以上のものは見えてこない。心が伴ってこそ何かが見えてくる。

 私の前に在る白い紙を、“心の眼”で見るとき、この世界での全ての存在の一瞬、一瞬が“神からの贈り物”であり、それは、見逃してしまうほどの小さな出来事の中に常にあることに気づかされる。その連続する一瞬に、「ありがとうございます」と感謝の言葉を伝える時、美しい世界が見えてくる。

『虹のしずく』は、そんな日常の小さな出来事への感謝の想いを込めてつけたタイトルである。

*1=複数の異なった素材や技法を用いること
*2=着色に用いる粉末で水や油に不溶のものの総称
*3=日本画の材料として供給されている顔料、岩絵具(いわえのぐ)のひとつ