一枚の絵からは、そこに描かれている形象だけでなく、作者が何を思い、どう考えて生きたのかという、心の軌跡が浮かび上がってくるものです。絵が描かれたいきさつ、それにまつわる作者の人生を紹介していきます。(絵と文 川崎善張)

『虹の中で』(2016年作。P3号)

『虹の中で』(2016年作。P3号)

絵と文 川崎善張(かわさき・よしはる) 大分県豊後高田市在住の画家。1957年、大分県生まれ。東京造形大学卒業。白日会会員を経て、現在、生長の家芸術連盟(生芸連)会員。2002年に生光展賞。生長の家地方講師、生長の家相愛会大分教区連合会副会長。

絵と文 川崎善張(かわさき・よしはる)
大分県豊後高田市在住の画家。1957年、大分県生まれ。東京造形大学卒業。白日会会員を経て、現在、生長の家芸術連盟(生芸連)会員。2002年に生光展賞。生長の家地方講師、生長の家相愛会大分教区連合会副会長。

『虹の中で』は、「私自身が色彩の中に入っていく」ということを強く意識して描くようになった第1作目として、心に残っている絵である。

 モデルとなった女性は、表情がとても豊かで、心のあり様(よう)がそのまま話し方、動作に表れるような人である。この女性と会話中、一瞬の表情に「描きたい」という衝動が湧き上がった。

 遠くを見るような視線に、波紋(はもん)に映る光に色彩が絡(から)み、結び合い、細かく振動して、緩(ゆる)やかに遠くに広がっていく風景が、重なり合うような形で心に浮かんできたのである。

 そのイメージをキャンバスに表現するために、アクリルメディウム(*1)に雲母(きら)を混ぜたもので下地を作った。内側から光り輝く色を表現したかったからだ。画材には、顔料(がんりょう*2)濃度が高いために発色がよく、卵黄テンペラとの相性がよいマッチ社製の水彩絵の具、油性色鉛筆、卵黄テンペラ、油樹脂ワニスを使用した。この画材を交互に使い分けながら、現象として見えている色の内側の色を表現しようと試みた。

 不透明、半透明、透明な色、その上にかぶせるワニスの透明な層、さらにそれらを重ね、心に浮かんだ「波紋に映る光に色彩が絡み、結び合う風景」と、それと重なり合う「遠くを見るような視線」のイメージを、心が赴(おもむ)くままに表現していった。

 キャンバスに色をおくたびに、その色彩の奥深くに私が入り込んでいくような、経験したことがない新しい感覚を味わい、ワクワクしながら描き進めることができた。とても新鮮で、楽しい経験だった。

 五官の世界から解放された気持ちがして、改めて、渋谷晴雄(*3)氏が書いた「いつも見なれている自然というのは本当の姿ではない(中略)、自然の内部につつまれ、自然と一つになった自分が、それこそが本当の自分」(『光と風を聴く』138頁、日本教文社刊)という文章が思い起こされた。

 この『虹の中で』では、五官を通して、「心に見えた内側の色と、現象として見えている色を一枚の絵に表現する」という新しいテーマをもらった。そのきっかけを与えてくれた、虹のような、清(すが)しいこの女性に感謝している。

*1=絵具と一緒に使ってさまざまな表現をサポートするメディウム(媒体)。 絵具と混ぜてつやや透明感を変えるもの、画面に塗って作品を保護するためのもの、下地を調整するための地塗り材や盛り上げるための素材などがある
*2=着色に用いる粉末で水や油に不溶のものの総称
*3=故人。元生長の家長老、元生長の家本部講師