杉村哲男(すぎむら・てつお)さん│65歳│静岡県島田市 「筆を執っていると何もかも忘れて夢中になれる、これが至福のひと時なんです」と杉村さん 取材/久門遥香(本誌)写真/堀 隆弘

杉村哲男(すぎむら・てつお)さん│65歳│静岡県島田市
「筆を執っていると何もかも忘れて夢中になれる、これが至福のひと時なんです」と杉村さん
取材/久門遥香(本誌)写真/堀 隆弘

 書に関する資料が書棚にずらりと並び、表装された自作の書が壁に掛けられた和室で、杉村哲男(雅号・正峰(せいほう))さんは、書道紙を前にふっと息を調える。筆に墨汁を含ませ、ゆったりと動かすと、力強く伸びやかな隷書(れいしょ)体の文字が紙の上に現れた。

上:中国唐朝の詩人、王維の詩を書いた作品/下:中国の仏教書『無門関』第六則を書いた作品

上:中国唐朝の詩人、王維の詩を書いた作品/下:中国の仏教書『無門関』第六則を書いた作品

「当たり前ですが、書はやり直しが効かず、同じ字は二度と書けません。ですから、毎回、真剣勝負のつもりで、一点一画に集中して取り組んでいます」

 書との出合いは小学2年生の時で、友だちが習い始めたのに触発され、近所の書道塾に通い出したのがきっかけだった。書道塾は7年ほどでやめたが、書道の魅力に惹かれて独学で学び続け、平成14年、48歳の時から、県内の書道グループに所属。書家の指導を受けて本格的に学ぶようになり、現在も毎年、そのグループの作品展に出品している。

「尊敬できる師を持ち、グループの仲間から刺激を受けることが、向上心やモチベーションの維持につながっています」

 波打つような独特のはねやはらいが特徴の隷書を得意とする杉村さんだが、作品によっては、篆書(てんしょ)、楷書、行書、草書と、さまざまな書体を書き分ける。また、筆や紙の違いによっても作品の印象が変わり、幅広い表現ができるのが書の面白さであり、難しいところでもあるという。

「まずは自分がどんなものを書きたいのか、しっかりとしたイメージを持つことが大切です。私の場合、筆を執る前に神想観(*1)を実修して心を落ち着かせると、自然に良いアイデアが湧いてきます」

 生長の家の教えには、両親の影響で子どもの頃に触れた。

「『人間は神の子で、乗り越えられない問題は与えられない』といった教えに感銘を受け、中学生の時には生長の家の書籍などから、気に入った真理の言葉を紙に書いて貼っていました。そのお陰で教えが心に刻まれ、辛いことがあった時などにふと思い出し、何度も助けられました」

 高校を中退した後、県内の会社に就職し、その傍ら青年会(*2)の活動にも励んだ。平成4年からは、生長の家静岡県教化部(*3)の職員として働いている。

「以前は、ただ『上手く書きたい』という気持ちが強かったんですが、信仰を深めるにつれ、書に対する姿勢にも変化が生まれました。美と調和を表現するには、祈りによって心を澄ますことが必要不可欠で、書と信仰は一体のものだと感じるようになりました」

書体によって、太さや毛質の異なるさまざまな筆を使い分ける

書体によって、太さや毛質の異なるさまざまな筆を使い分ける

 今年(2019)6月で定年を迎える杉村さんは、退職後、書と向き合う時間を増やしたいと意欲を燃やす。

「ゆくゆくは書道教室を開いて、子どもたちに書の楽しさを伝えられたらと思っています。そのために今後もさらに練習を重ね、腕を磨いていきたいですね」

 ひたむきに書の美と調和を追い求める姿がそこにあった。

*1=生長の家独得の座禅的瞑想法
*2=12歳以上40歳未満の生長の家の青年男女の組織
*3=生長の家の布教・伝道の拠点