酒井幸江(さかい・ゆきえ)さん(54歳)福岡県北九州市 取材/原口真吾(本誌) 撮影/堀 隆弘

酒井幸江(さかい・ゆきえ)さん(54歳)福岡県北九州市
自宅の台所で夫の洋輔さんと。「お米を研いだり、洗い物をしてくれる夫には、いつも助けられています」
取材/原口真吾(本誌) 撮影/堀 隆弘

 朝、起床後の神想観(*1)を終えると、冷蔵庫の中身をさっと確認し、手早く20分で、その日の夕食のメイン料理を一品作る。料理の写真をスマートフォンで撮ったら、コメントを添えて写真共有サービスの「インスタグラム」に投稿。デパートの和菓子売り場に勤める酒井幸江さんの出勤前の日課だ。

 酒井さんの料理は、すべて肉類を使わないノーミート。最近は「ベジタリアン」などのハッシュタグ(検索ワード)から、酒井さんの投稿を閲覧する人が増え、そのつながりは海外にまで広がっている。

「生長の家ではノーミート料理を広げる運動をしていますが、多くの人がノーミートに関心を持っていると分かり、すごく嬉しいです。そこから一歩踏み込んで、自然も人間も神のいのちにおいて一つであると説く『神・自然・人間の大調和』の教えまでお伝えすることができたらと思っています」

ノーミートを広めるツールとして、インスタグラムを活用する

ノーミートを広めるツールとして、インスタグラムを活用する

 酒井さんは18歳の時、父親から生長の家の本を手渡されて、教えに触れた。

「ある朝、父は神想観を始めたんですが、その時の招神歌(かみよびうた)(*2)と聖経(*3)読誦の、この世のものと思えないほど澄んだ声に感動し、『人間は本来神の子で、完全円満な存在である』という教えが、すっと心に入って来ました」

 その後は生長の家青年会(*4)に入会して教えを学び、23歳の時に洋輔さんと結婚。二男二女に恵まれた。

肉食をやめる

 平成18年、谷口雅宣・生長の家総裁のブログ「小閑雑感」(*5)に掲載された「肉食を考える」を読んだ酒井さんは、殺生の観点から肉食を控えるようになった。さらに、完全に肉食をやめようと思ったのは、谷口純子・生長の家白鳩会(*6)総裁の講話を聴き、肉食が飢餓の問題と深く結びついていると知ったからだ。

「家畜の飼育には大量の穀物が使われているんですね。穀物は世界の飢餓問題を解決できるくらい生産されているにも拘らず、家畜の飼料にされるため、発展途上国の食糧が不足し、多くの子どものいのちが失われる原因の一つになっています。その事実を知った時、涙が止まらなくなり、もう絶対に肉食はやめようと心に誓いました」

 その後、酒井さんは肉の代わりに、豆腐や大豆ミートを使うようになった。豆腐は料理にボリュームを持たせるのに重宝し、大豆ミートは肉と比べて約5分の1程度の金額で済んでしまう上に、1年以上の長期保存が可能で、備蓄の面からも優秀な食材である。

 生長の家では地球環境保全の面から「食品選択の優先順位」を提唱しており、酒井さんはそれを参考にして、栽培や輸送にかかる二酸化炭素の排出量が少なく、環境への負荷が少ない県内産の旬の有機野菜や食材を選んで買うようになった。

 さらに調味料を有機しょうゆと本みりんに切り換えたところ、風味が格段に良くなり、もう元の調味料には戻れなくなった。また、油も昔ながらの圧搾製法で作られたものを使ってみると、料理にコクが加わり、満足感が違った。こうした有機食材や、昔ながらの製法で丁寧に作られた調味料は高価だが、夫婦と娘一人で暮らす酒井家の食費は、月3万円程度に収まっている。

「お肉を買わなくなり、食事を一汁一菜にしたことで、食費は自然に減っていきました。以前はおかずを2つ3つ作っていましたが、食べ過ぎだったと感じています。今の一汁一菜が、私たちにとってちょうどいい量なんです」

リメイクを生活に取り入れる

siro109_rupo_3 一昨年(平成29年)、酒井さんが部屋の整理をしていたところ、4人の子どもたちが学生時代に着ていた服が大量に出てきた。処分するのはもったいないと感じ、インターネットで検索すると、着なくなったTシャツやカットソーなどを細長く切って作った「Tシャツヤーン」という編み糸があることを知った。リサイクル品のため元の服の色や柄がそのまま生かせるので、一点物の個性的な作品が作れるのがオシャレだとして注目されている。酒井さんは作り方もインターネットで調べ、こま編みのバッグを作った。

「Tシャツを無駄にすることなく、その“いのち”を生かすことができた嬉しさで、心が満たされました。仕事が忙しいと、帰宅は夜の11時を過ぎることもありますが、寝る前の30分だけでもクラフト作りの時間に充てると、いい気分転換になります。好きなことだから、逆に元気になれるんです」

 バッグ作りの腕も上がり、昨年は市販の編み糸を使って、リュックにもなるツーウェイバッグを作った。バッグの肩掛けのベルトは、使わなくなったショルダーバッグのベルトを再利用し、職場でも「オシャレだね!」と好評だった。いくつも作るうちにどんどん改良されていき、上達していくのがとても楽しいという。

 最近では不要になったTシャツを提供してくれる友人が現れ、白い生地が大量に集まったので、賞味期限が切れた紅茶を使って染色にも挑戦した。初めてのことで色にむらができてしまったが、それも手づくりならではの味わいと、酒井さんは朗らかに笑う。

 また、SNIクラフト倶楽部(*7)に入部し、生長の家福岡教区で開かれるミニイベント(*8)の講師を務め、皆でわいわい話をしながら、手づくりする楽しさを味わっている。参加者から時々、「材料は100円ショップの物ではダメなんですか?」と聞かれることがある。そんな時、酒井さんはこう答えている。

シャツを互い違いに切っていき、一本のひも状にしてTシャツヤーンを作る。「無心になって、ざくざく切っています」

シャツを互い違いに切っていき、一本のひも状にしてTシャツヤーンを作る。「無心になって、ざくざく切っています」

「安い物って、その背後に発展途上国の児童労働の問題があったりして、どこかに歪みが生じているかもしれないんですよ。多くの人の幸せを願いながら、物を選び、物を作る、それが一番良いことですね」

 クラフトを始めてから、ほしいものがあったら自分で作れないかと、真っ先に考えるようになり、物を買うときは本当に気に入ったものだけと決めている。現在愛用している紺色のハーフコートは、丈の長さから襟の細かいデザインまで、希望にぴったりだった。

 少しでも好みと違ったり、迷うところがあったら、決して購入に踏み切らない姿勢からは、無駄な出費を抑えるだけでなく、好きな物を長く大切に使っていきたいという、酒井さんの心情が見て取れる。

環境問題と四無量心

 生長の家の行も熱心に取り組んでいる酒井さんは、生長の家の讃歌である『観世音菩薩讃歌』(生長の家総裁・谷口雅宣著、生長の家刊)を繰り返し読誦する中で、ある日、讃歌の中にある「現象の中に完全を求むることなかれ。/現象は時間と空間の制約を通し/実相(*9)が展開する過程なり」という言葉にはっとした。

上:職場の同僚にも好評だった、手作りのツーウェイバッグ/下:Tシャツヤーンで編んだハンドバッグの数々。作っているうちに、次の作品のアイデアが湧いてくるという

上:職場の同僚にも好評だった、手作りのツーウェイバッグ/下:Tシャツヤーンで編んだハンドバッグの数々。作っているうちに、次の作品のアイデアが湧いてくるという

 生長の家では「現象は、完全円満な実相が不完全に映し出された仮の姿であって、本来無い」「不完全な現象は、実相の素晴らしさを顕し出せば、自然に消えていく」と説いている。酒井さんは環境問題という“現象”も、本来無いものであると気がついた。

「私は喜びながら、生活の中で実相を表現していけばいいんだと分かったんです。それは、動物、植物、菌類、鉱物など神のいのちの表現であるすべてのものに対して愛を深め、“四無量心(しむりょうしん)”を行ずることです。それを現代の言葉に当てはめると、『エシカルな生活』になるんだと思うんです」

「四無量心」とは、仏教で説かれる「慈悲喜捨(じひきしゃ)」の4つの心のこと。「慈」の心は他人の苦しみを自分の苦しみと感じて、それを除いてあげたいという心、「悲」の心は他人に楽を与えたいという心、「喜」の心は他人の喜びを自分の喜びと感じる心、そして「捨」の心は人や物への執着を去る心を表している。酒井さんはこの四無量心と、自然や地球に暮らす人々に思いを馳せながらエシカル(倫理的)に暮らすことが、結びついたのだ。

 環境に配慮した生活はお金がかかると思われがちだが、酒井さんが特に生活費を切り詰めなくても、出費を抑えたエシカルな生活ができるのは、自分にとって「ちょうどいい暮らし」を知っているからだろう。

「テレビの広告や流行に惑わされず、自分が本当に気に入ったものだけを選んで、買い過ぎず、持ち過ぎず、ちょうどいい分量にすることです。『足るを知る』ですね。そうすれば、自然にお金のかからないエシカルな生活ができるんですよ」自然体で生活できる今が一番充実していると、酒井さんは微笑んだ。

*1 生長の家独得の座禅的瞑想法
*2 生長の家独得の座禅的瞑想法である神想観実修の時に唱える神をよぶ歌
*3 生長の家のお経の総称
*4 12歳以上40歳未満の生長の家の青年男女の組織
*5 生長の家総裁がかつて運営していたブログ。現在は「唐松模様」
*6 生長の家の女性の組織
*7 生長の家が行っているPBS(プロジェクト型組織)の一つ。他にSNI自転車部、SNIオーガニック菜園部がある
*8 「倫理的な生活」の意義を伝えるために、生長の家のプロジェクト型組織のメンバーが開催するイベント
*9 神によって創られたままの完全円満なすがた