平野 裕都(ひらの・ゆうと)さん 新潟市・24歳・会社員 取材●長谷部匡彦(本誌)/撮影●遠藤昭彦

平野 裕都(ひらの・ゆうと)さん
新潟市・24歳・会社員
取材●長谷部匡彦(本誌)/撮影●遠藤昭彦

平野裕都さんは、高校時代に体調を崩して入院した際に、周りの人を喜ばせたいという思いから、子どもの頃に教わった折り紙を折った。現在は、地元の郷土玩具「鯛車(たいぐるま)」を手作りして学んだ技法を、独自の灯籠(とうろう)づくりに応用して、自己表現する喜びを感じている。

 新潟市内にある平野裕都さんの自宅を訪ねた1月中旬、日本上空にはマイナス30度の寒波が流れこみ、普段は積雪が少ない新潟市内にも、30センチの雪が積もった。自宅の軒先で雪かきをしていた平野さんは手を止めて、笑顔で迎えてくれた。

 部屋に招き入れられると、ピアノを弾くのが趣味という平野さんは、人気テレビ番組『笑点』のテーマ音楽を、しっとりとしたピアノ曲にアレンジして披露(ひろう)してくれた。そのピアノの上には、平野さんが手作りしたという鯛車(たいぐるま)や灯籠(とうろう)が飾られていた。

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 鯛車とは、新潟市西浦区の巻(まき)地区に江戸末期より伝わる郷土玩具。お盆になるとロウソクを灯(とも)して、子どもたちが町内を引き歩いたという。

 平野さんは2年前に、自宅近くの商店街で「鯛車復活プロジェクト」の教室が開かれている所に飛び込みで参加した。教室の人達と一緒に作ること、そして故郷(ふるさと)、巻の郷土玩具である鯛車を作ることに魅力と温かさを感じた。そして、一つとして同じものがないことに面白さを感じるようになった。

「鯛車を作るうちに、もっと自由に作ってみたい、という思いが湧いてきたんです。それで、鯛車で学んだ制作方法を生かして、灯籠を作るようになりました」

自由な表現を楽しめる

 平野さんのつくる灯籠の材料は、竹ひごと和紙、そして木工用ボンド。最後に電飾を灯すと、灯籠の内側から柔(やわ)らかい光が浮かびあがる。

「灯籠に和紙を貼らずに赤や緑の毛糸で巻いて、葉っぱを使い、頂上には星の飾りをつけてクリスマスツリーを模して作っても、面白いと思うんです」

 完成したところを想像しながら、指先を使って灯籠を作っていると、いろいろなアイディアが浮かんできて、時間があっというまに過ぎていくという。

 平成28年、生長の家新潟教化部(*1)で開催された「自然の恵みフェスタ(*2)」に、平野さんは友人と合作で、丸みを帯びた灯籠を出品した。

平野さんが作った灯籠に、友人がイラストを描いてくれた

平野さんが作った灯籠に、友人がイラストを描いてくれた

「竹ひごを火であぶって曲げて、灯籠の骨組みに丸みをもたせました。それに友達が可愛らしいイラストを描いてくれました。作品は皆さんからとても好評で、描いてくれた友人も、すごく喜んでくれて自分も嬉しくなりました」

 手づくりの作品は、ちょっと形が整っていなくても、それが個性となって温かみを醸(かも)し出(だ)し、市販品では得られない特別な想いが自然に生まれるという。

 平野さんは、小学2年生の頃から、生長の家の教えを信仰している祖母の薦(すす)めで練成会(*3)に参加するようになった。

「練成会で、『人間は神の子である』と教えられて嬉しかったです。参加者全員が、感謝や讃嘆を心掛けている温かい雰囲気も好きでした」

手づくりのきっかけ

 平野さんは平成21年4月、高校2年生の時に突然、統合失調症による幻覚や妄想に悩まされるようになって入院した。祖父母は、一心に生長の家のお経『甘露(かんろ)の法雨(ほうう)』を読誦(どくじゅ)し続けた。すると1カ月も経つ頃には、意識がはっきりするようになった。

 生長の家の教えを学び、物事の明るい面に心を向けることの大切さを知っていた平野さんは、気持ちが沈みがちな入院患者たちを喜ばせたいと考えるようになった。病棟内で一緒に散歩をしたり、難しい折り紙を折って驚かせ、一緒に笑ったりした。

「ただ話かけるよりも、蟹(かに)などの生き物に似(に)せて作った折り紙を見せた時の方が表情が和(やわ)らいで、自然に笑顔になってくれたのが嬉しかったです。あとで知ったのですが、散歩をしたり、指先を使ったりすることは、精神的な症状の改善につながるらしいんです」

入院中に他の患者さんを喜ばせるために作った、カニの折り紙

入院中に他の患者さんを喜ばせるために作った、カニの折り紙

 入院患者の気持ちを和(なご)ませ、喜ばせる行動は、平野さん自身の心も落ち着かせ、症状の改善につながった。3カ月経った時、医師から退院の許可が出て学校に復学することができた。

 現在、平野さんは地元のブドウ園のワイナリーで働きながら、休日に手づくりを楽しむ会を、商店街の空きスペースで開いている。

「どんな人も、自由に手づくりを楽しめる場所を作りたかったんです。表現することを楽しみながら、新しい人とのつながりもできて、充実した時間を過ごしています」

*1 生長の家の布教・伝道の拠点
*2 地元の自然の恵みを活かし、開催されるクラフト・食・自転車のイベント
*3 合宿して教えを学び、実践する集い