山下貴大(やました・たかひろ)さん 大阪府寝屋川市・27歳・団体職員 取材●長谷部匡彦(本誌) 撮影●中橋博文

山下貴大(やました・たかひろ)さん
大阪府寝屋川市・27歳・団体職員
取材●長谷部匡彦(本誌) 撮影●中橋博文

通勤のため、朝から満員電車に揺られていた頃は苦痛で、気持ちも滅入(めい)っていた。
自転車通勤を始めて1年半、街中でも自然の営みを身近に感じ、自然と調和したライフスタイルの大切さを実感するようになった……。

大阪府寝屋川(ねやがわ)市にある淀川(よどがわ)河川敷の一部に設けられたサイクリングロードの彼方に、小さな人影が見えたかと思うと、あっという間に大きくなってきた。滑るようにロードバイク(*1)を駆(か)って、山下貴大さんが現れた。
「自転車さえあれば、どこまでも行けます。いまでは隣の京都まで自転車で行くこともあります」

新鮮な日々

 山下さんは以前、自宅から大阪市内の職場まで、約20キロの距離を電車通勤していた。朝、30分以上も満員電車に揺られるのは苦痛で、気持ちが滅入ってしまっていた。

 思い立って平成27年3月から、自転車通勤を始めたところ、電車から眺めていた街の印象が一変した。街の空気を肌で感じながら自転車で走っていると、微妙な季節の移ろいを実感するようになり、刻々と変わる雲の流れや空の色などにも感動を覚えるようになった。

「通勤途中の大阪城に植えられた木々の葉の間から差し込む光を、全身に受けると、気持ちが常にリセットされて、一日がとても清々(すがすが)しいんですね」

自宅近くで。「自転車に乗る時は、必ずヘルメットと手袋をして安全に気をつけています」

自宅近くで。「自転車に乗る時は、必ずヘルメットと手袋をして安全に気をつけています」

 もともと内向的な性格だったが、すれ違いざまに、自転車に乗っている人と挨拶を交わしたり、信号待ちで会話が弾(はず)むようになった。

「自転車通勤のおかげで、普段は話さないような通りすがりの人とも、ちょっとした話ができて、色々な刺激を受けています」

自分が変わる

 屈託のない笑顔で話す山下さんだが、小学3年生の時に父親を亡くした。2歳違いの兄と自分を、母親が女手一つで育ててくれた。

 平成21年、当時22歳だった兄が交通事故に遭って足にケガをし、歩行障害が残ると診断された。だが、生長の家の信徒である母親の勧めで、生長の家宇治別格本山(*2)の練成会(*3)に参加し、「人間は神の子である」という教えを学ぶうちに、障害が残ることもなく歩けるようになった。

 そんな兄の姿に刺激を受け、山下さんも1カ月後に宇治別格本山の練成会に参加。練成会の行事の一つ「浄心行」(*4)を受け、心の奥に眠っていた父親への思いが湧き上がってきた。

「父には、もっと生きていて欲しかったという思いがあって、恨んでいたわけではないんですが、父に感謝できていなかったんです」

 浄心行のなかで、両親への感謝の言葉を唱え続けているうちに、子どもを残して亡くなった父親の悔しさに気づいた。そして「父から深く愛されていたのだ」と思えるようになった。

 心の奥深くにしまわれていた感情が浄化されると、気持ちがすっきりして前向きになり、生長の家の教えを真剣に学びたいという意欲がわいてきた。

変わる意識

 平成25年10月、生長の家は、東京・原宿にあった国際本部を、山梨県北杜市の八ヶ岳南麓の“森の中のオフィス”へと移転させた。そして、自然と人間とが調和する社会の実現に向け、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を極力排出しない低炭素のライフスタイルの実践を勧めていた。

「生長の家総裁・谷口雅宣先生が、二酸化炭素を排出せず環境への負荷が少ない自転車を活用することは、世界平和につながっていると訴えられるお話を聞き、心に響きました。満員電車に嫌気がさしていたので、運動不足の解消にもなり、自然を愛する方法の一つでもあると知り、自転車通勤をしようと思ったんです」

 平成27年3月から、自転車通勤をはじめると、以前は気にもとめていなかったゴミが、街中に落ちていることに気づき、信号待ちの時などにゴミ拾いをするようになった。また、夜遅くまで煌々(こうこう)とついている電灯などをみると、資源を使い捨てにする都会の生活スタイルに違和感を覚えた。

淀川の河川敷にあるサイクリングロードで。「京都に行くときは、このあたりを走ります。気持ちが良くなりますね」

淀川の河川敷にあるサイクリングロードで。「京都に行くときは、このあたりを走ります。気持ちが良くなりますね」

「ムダに資源を使っている生活を、本気で変えなければ、地球環境は変わらないと実感しました」

 山下さんは、自転車を通して感じたことや、自然と調和した生活に変えていく必要性を、周りの人にも伝えていきたいという。

*1 舗装路を速く走ることを突き詰めた自転車
*2 京都府宇治市にある生長の家の施設
*3 合宿して教えを学び、実践する集い
*4 過去に抱いた悪感情や悪想念を紙に書き、生長の家のお経を読誦しながら、その紙を燃やして心を浄める行