A かえって日本の安全保障環境が悪化する恐れがあります。相手国への安心供与がないからです。

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 近年、北朝鮮が核兵器や弾道ミサイルの開発実験をしたり、中国の船が尖閣(せんかく)諸島周辺の日本の領海(りょうかい)へ侵入したりする動きが目立っています。

 こうした状況に対して、安倍首相は2014年7月1日、集団的自衛権の行使を合憲(ごうけん)とする“解釈改憲(かいしゃくかいけん)”を閣議決定した際の記者会見で、「万全(ばんぜん)の備えをすること自体が日本に戦争を仕掛けようとする企(たくら)みをくじく大きな力を持っている」と述べ、「抑止力(よくしりょく)」が重要だと主張しました。

 安倍首相の言う「抑止力」は、中国や北朝鮮を敵視し、その脅威(きょうい)に強硬(きょうこう)な姿勢で臨(のぞ)むべきだと訴える日本会議の主張と軌を一にしています。

 しかし、そうした抑止力は、本当に日本を安全にするのでしょうか?

 国際政治学の一分野である安全保障論には、「安全保障のジレンマ」と呼ばれる考え方があります。これは、「A国が自国の安全保障を高めようとして軍備を増強した場合、それを警戒して、周囲の国々も軍備を増強する結果、A国の安全保障環境が軍備増強の前よりもかえって悪化することです」(*)。

 こうした状況は、A国と周囲の国々の間に信頼関係がない場合に起こります。つまり、「A国は先に攻撃してこない」と安心できないと、たとえA国に攻撃の意思がなくても、周囲の国々は先制攻撃を恐れて軍備を増強します。しかし、今度はそれがA国には攻撃目的に見えるので、さらに軍備を増強するという悪循環に陥(おちい)ってしまうのです。

 そのため、脅威(きょうい)を強調し、自ら敵を作り出す安倍首相の安全保障政策は、こうした「安全保障のジレンマ」に日本を陥らせる危険があります。

 抑止力が効果を発揮するためには、相手国と信頼関係を築くことが重要です。そのためには、報復の脅(おど)しをかけたり(懲罰的(ちょうばつてき)抑止)、自国の防御を固めたりする(拒否的抑止)だけでなく、「先に攻撃されることはない」という安心を相手国に与えていくことが重要なのです。

* 生長の家総裁・谷口雅宣監修『“人間・神の子”は立憲主義の基礎 ──なぜ安倍政治ではいけないのか?』50ページ。生長の家刊