A 立憲主義が緊急措置権の悪用によって機能しなかったからです。その危険な緊急措置権に相当する緊急事態条項を、自民党は憲法へ導入しようとしています。

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 ナチス(*1)は、民主主義的な選挙によって第一党になりました。ところが、ナチスは、ワイマール憲法の緊急措置権を悪用して全権委任法(授権法)を成立させ、立法権を手に入れると、憲法無視の法律をいくつもつくりました。そして、多くの人命を奪う政治を行い、国を戦争へ導きました。この歴史的事実は、民主主義の下でも立憲主義が損なわれれば独裁(多数者の専制)が起こり、その結果、人権を踏みにじる政治が行われる恐れがあることを証明しています。

 つまり、立憲主義の原理である人権保障と権力分立に安易に例外をつくらない憲法こそが、多数者の意思から少数者の人権を守り、一つの国家機関に権力が集中することを防ぐのです。日本国憲法も、そうした憲法の一つです。

 しかし、現在の自民党は、人権保障と権力分立を無力化できる改憲を目論んでいます。2012年10月に自民党が公表した『日本国憲法改正草案』のなかの「緊急事態条項」(98条、99条)が、それです。

 この条項は、内閣が必要だと考えただけで緊急事態を宣言でき、アメリカやフランス、韓国など「他の国々には見られない規模と範囲で、内閣に権限を集中させるもの」で、「内閣独裁権条項」とも呼ぶべき内容となっています(*2)。具体的には、内閣は法律と同じ効力を持つ政令を制定し、内閣総理大臣は独断で財政支出することができ、地方自治体を内閣の指示に従わせ、国を守るという理由で人権を侵害できます(*3)。まさにワイマール憲法の緊急措置権に相当する内容なのです(*4)。そのため、もしもこの条項が現実化すると、緊急措置権によってナチスが自由に改憲できるに等しい全権を手に入れたように、“政府与党による独裁”への道が開けます。

 2017年に行われた衆院選で、自民党は憲法改正を公約に掲げ、改正項目の一つに「緊急事態対応」を挙げました(*5)。“独裁”の危険性は今、目の前の現実となっているのです。

*1 アドルフ・ヒトラーを党首としたドイツのファシスト政党。国家社会主義ドイツ労働者党
*2 谷口雅宣監修『“人間・神の子”は立憲主義の基礎』53ページ、生長の家刊
*3 『日本国憲法改正草案』、24〜25ページ(自民党憲法改正推進本部ホームページ)http://constitution.jimin.jp/draft/(2018年8月25日アクセス)
*4 長谷部恭男、石田勇治著『ナチスの「手口」と緊急事態条項』5〜6ページ、集英社刊
*5 「自民党政権公約2017」、18ページ(自民党ホームページ)https://jimin.ncss.nifty.com/pdf/manifest/20171010_manifest.pdf(2018年8月25日アクセス)