桑谷重行(くわたに・しげゆき)さん│75歳│島根県松江市  取材/久門遥香(本誌) 写真/遠藤昭彦 「油絵の具とシルクスクリーン印刷という、普通の人ではやらないようなことを私なりに極めていきたいですね」と桑谷さん。

桑谷重行(くわたに・しげゆき)さん│75歳│島根県松江市 
取材/久門遥香(本誌) 写真/遠藤昭彦
「油絵の具とシルクスクリーン印刷という、普通の人ではやらないようなことを私なりに極めていきたいですね」と桑谷さん。

 島根県松江市で印刷、看板(かんばん)制作の会社「有限会社美芸社」を営む桑谷重行さんは、休日になると、自宅2階のアトリエで絵の制作に励(はげ)んでいる。

 主に手がけているのは、仕事で扱うシルクスクリーン印刷と、油絵の具を組み合わせて描く抽象画(ちゅうしょうが)。鮮やかな色彩や不思議な幾何学模様、鏡に模様をプリントした作品もあり、独特の世界を醸(かも)し出している。

「その時々のニュースや生活の中で、ふと目に留まったものからイメージを膨(ふく)らませて作品にしています。画材にしてもモチーフにしても、面白いと思ったものをどんどん取り入れ、常に新しいことに挑戦するというのが私の信条です」

  子どもの頃から絵を描くのが好きで、「画家になりたい」という夢を持っていた桑谷さんは、昭和37年、20歳の時に上京。知人の紹介で洋画家、斎藤泰樹(さいとうたいじゅ)氏に師事し、同氏が営む印刷会社で働きながら指導を受け、油彩画を学んだ。

「絵の先生は花や植物を描くのに秀でた方で、習い始めた頃は具象画をメインに描いていました」

「絵の先生は花や植物を描くのに秀でた方で、習い始めた頃は具象画をメインに描いていました」

 24歳で独立し、故郷の松江に戻って印刷会社を立ち上げてからも絵を続け、二科展で3年連続入選して実力を認められた。しかし、仕事が忙しくなるにつれ、次第に創作活動から遠ざかった。

「会社や家族のことを考えて絵の道は諦(あきら)め、仕事一筋になりましたが、心の奥に、『絵を描きたい』という思いを持っていました」

 再び本格的に絵筆を執るようになったのは平成2年頃から。所属している地元の絵画グループの仲間から展覧会に出品するよう誘われたのをきっかけに絵の制作を再開し、今日に至っている。

 生長の家の教えには、中学生の頃、母親を通して触れ、印刷業を始めたのを機に、栄える会(*1)、相愛会(*2)の一員となり、一層真剣に信仰するようになった。

「もともとプラス思考でしたが、物事の明るい面を見るという教えを学び、その考え方がさらに確かなものになりました。仕事で行き詰まった時も、神想観(*3)をすることで、『神様がついてくれている』という安心感が得られ、何度も救われました」

 平成24年には、島根県立美術館で個展を開催。今も現役で仕事を続ける傍(かたわ)ら、所属する現代美術家協会の展覧会に毎年出品するなど、精力的に創作活動を続けている。

「これからは、地元の伝統文化や芸能を題材にした作品を制作したいと、アイデアを練(ね)っている最中です。次の展覧会では、『石見神楽(いわみかぐら)』をモチーフにした絵を描き、入賞を目指したいですね」

 作品の構想について語る桑谷さんの目は、意欲に溢(あふ)れていた。

*1=生長の家の産業人の集まり
*2=生長の家の男性の組織
*3=生長の家独得の座禅的瞑想法