小池俊雄(こいけ・としお)さん(東京大学名誉教授、国立研究開発法人土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センター[ICHARM]長) 「気候の変動に、人間活動の増大で発生した温室効果ガスによる温暖化が影響しているのは確実です」と語る小池さん(つくば市のICHARMセンター長室にて) 聞き手:髙橋修二さん(生長の家国際本部勤務、生長の家本部講師) 写真/堀 隆弘 小池俊雄さんのプロフィール 東京大学名誉教授。国立研究開発法人土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センター長。1956年生まれ。1985年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(工学博士)。水循環にかかわる現地観測、衛星観測、数値モデリング、データ統合・解析研究および環境心理学研究に従事。日本学術会議会員、社会資本整備審議会河川分科会長などを兼務。2007年、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書統合報告書では、レビューエディターを務める。共著に『地球環境論』(岩波書店)、『大気圏の環境』(東京電機大学出版局)、『環境教育と心理プロセス』(山海堂)がある。

小池俊雄(こいけ・としお)さん(東京大学名誉教授、国立研究開発法人土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センター[ICHARM]長)
「気候の変動に、人間活動の増大で発生した温室効果ガスによる温暖化が影響しているのは確実です」と語る小池さん(つくば市のICHARMセンター長室にて)
聞き手:髙橋修二さん(生長の家国際本部勤務、生長の家本部講師)
写真/堀 隆弘
小池俊雄さんのプロフィール
東京大学名誉教授。国立研究開発法人土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センター長。1956年生まれ。1985年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(工学博士)。水循環にかかわる現地観測、衛星観測、数値モデリング、データ統合・解析研究および環境心理学研究に従事。日本学術会議会員、社会資本整備審議会河川分科会長などを兼務。2007年、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書統合報告書では、レビューエディターを務める。共著に『地球環境論』(岩波書店)、『大気圏の環境』(東京電機大学出版局)、『環境教育と心理プロセス』(山海堂)がある。

 近年、日本や世界で、これまで経験したことのないような大雨、洪水(こうずい)、竜巻(たつまき)、干魃(かんばつ)、台風などの異常気象が頻発(ひんぱつ)している。そうした気候変動の背景には何があるのか、温暖化はどこまで進んでいるのか、今、求められているパラダイムシフト(*1)などについて、東京大学名誉教授、国立研究開発法人土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM=アイチャーム)長の小池俊雄さんに聞いた。

ICHARM設立の趣旨と主な3つの活動内容

──まず、ICHARM設立の趣旨と、その活動内容について教えていただけますか。

小池 ICHARMは、ユネスコ(国際教育科学文化機関)(*2)の後援によるセンターなんです。ユネスコは、水分野の科学技術の振興を図(はか)るため、国際水文学(すいもんがく)計画(IHP)や水に関するユネスコセンターの設立を進めてきました。ICHARMは、水災害に対する知識、経験を有する日本の高い技術を世界の水災害の軽減に役立てるため、2006年、「土木研究所」(茨城県つくば市)内に設立されました。
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 活動としては、❶先端技術を用いた革新的な研究、❷効果的な能力育成、❸効率的な情報ネットワークを行っています。❶は、総合洪水解析(かいせき)システムの開発・普及です。これは、無償(むしょう)で入手可能なソフトによって、ほぼ全世界をカバーしている地形や土地利用のグローバルデータを用い、簡単に流出解析モデルを構築できるシステムのことです。それから、低平地での大規模な氾濫(はんらん)を迅速(じんそく)に予測するための手法として、降雨流出氾濫という新たな数値モデルの開発・普及、被災地の調査などを行い、水災害の研究をしています。

 ❷は教育ですね。個人だけでなく、防災組織としての災害対応能力の育成です。発展途上国の水災害担当者を対象とした短期研修を数多く開催するとともに、政策研究大学院大学と協力して、修士課程(1年間)、博士課程(3年間)を実施し、水関連災害リスクマネジメントに関する技術や知見(ちけん)を習得し、それぞれの国の水災害軽減に向けた政策をリードする人材を育てています。
 ❸は、国際洪水イニシアチブ(IFI)の活動です。IFIとは、ユネスコ、世界気象機関などの国連機関が、世界の洪水管理推進のために協力する枠組みのことです。ICHARMは、IFIの事務局を担当しており、IFIのパートナーと協働して、水災害リスクの軽減を目的とした「水と災害に関するプラットホーム」構築の活動に取り組んでいます。

さまざまな画像を駆使しながらインタビューに答える小池さん。左は、聞き手の髙橋さん

さまざまな画像を駆使しながらインタビューに答える小池さん。左は、聞き手の髙橋さん

人間活動の増大によって地球温暖化が進む

──異常気象(①)は、気候変動によって起こると言われますが、そもそも気候とは、どのようなことを言うのでしょうか。

小池 気候と表裏(ひょうり)一体をなす言葉に、気象があります。よく混同されるんですが、気象と気候を明確に使い分ければ、気象とは、日々刻々と移り変わる大気の現象に焦点(しょうてん)をあてたものです。気候とは、ある地域でそうした気象の観測を長期間積み重ね、平均した状態、及びその変動を科学的に分析して得られるものです。それによって例えば、「ロンドンは霧が多い」「日本の夏は高温多湿である」などということが分かるわけですね。inoti96_rupo_3

──気候も常に変動するんですね。

小池 そうです。気候という言葉には、平均的な性質と、その振れ幅である変動の両方の性質が含まれます。例えば、ある地域の夏の気温の30年程度の平均値は、これまではほぼ一定で、年によって暑い夏や涼しい夏となるような変動がありました。

 なぜ気候が変動するのかを知るためには、気候システムを理解する必要があります。気候システムは、大気、海洋、地表面、雪や氷、生態系などの要素で構成され、太陽エネルギーによって大気と海が循環し、水、その他の物質をやりとりすることで、複雑に相互作用する内部の作用によるものと、外部からの作用によるものとがあります。前者の代表的なものが、「エルニーニョ」や「ラニーニャ」(②)で、後者は、火山の噴火、太陽活動の変動、地球の軌道や自転軸のブレなどのことです。

──その気候が大きく変化している?

小池 はい。例えば、先の夏の気温の例で言いますと、平均値が上昇することに加えて、その振れ幅も大きくなるという変化が顕在化(けんざいか)してきています。その結果、これまでに経験したことのない、堪(たま)らなく暑い異常な夏が出現するようになってきました。これは、産業革命以降、人間活動の増大にともなって、大量の温室効果ガスが大気中に放出された結果と言っていいと思います。

気候の変化に大きな影響を与える地球温暖化

──温暖化が進んでいるという話が出ましたが、温暖化によって気候は変化するんでしょうか。

小池 正確に申しますと、地球の気候は温暖化という変化をしているということになります。inoti96_rupo_5
 「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第四次評価報告書統合報告書」(2007年)では、「世界平均気温」(図3)、「世界平均海面水位」(図4)、「北半球積雪面積」(図5)などのデータに基づき、気候システムの温暖化は、「unequivocal」という結論が出されました。「unequivocal」とは、「あいまいでない、明確な」という意味です。

 私はこの第4次評価で、科学的結論をまとめる仕事をさせてもらい、以前、『いのちの環』(*3)にも登場された江守正多さん(国立環境研究所・地球環境研究センター気候変動リスク評価研究室長)らといろいろ議論しました。その時に、この「unequivocal」を日本語にどう訳すか、大変苦心しました。議論した挙げ句、「気候システムの温暖化には疑う余地がない」ということで落ち着いたんです。

 それから、2014年の気候変動に関する政府間パネル第5次評価報告書統合報告書でも、第4次評価報告書後の7年間に集まったさまざまなデータを加味し、「気候システムの温暖化には疑う余地がない」という全く同じ結論が出ました。inoti96_rupo_6

 図6を見てください。1880年から2012年の間に、世界平均地上気温が0.85℃上がり、図7「世界平均の海面水位の変化」では、海面が上昇し続けていることが分かりますね。また、図8「北極域の海氷面積の7、8、9月(夏季)の平均値」を見ても、海氷面積が減り続けているのが一目瞭然(いちもくりょうぜん)で、気候変動に温暖化が影響しているのは確実です。

 こうしたデータに基づき、第5次評価報告書では、温暖化の要因は、「人間活動で排出された温室効果ガスによる可能性が極めて高い(発生確率95%)」と結論づけられ、第4次評価報告書の際の「可能性が非常に高い(同90%)から1ランク上がったわけです。私はこの結論が、2015年のパリ協定(⑨)の採択に、大きな影響を与えたと思います。

豪雨と渇水が頻発(ひんぱつ)するその原因は何か?

──温室効果ガスが増え、温暖化が進むと、小池さんの専門である水災害はどうなるんでしょうか。inoti96_rupo_7

小池 図10と図11は、「1時間降水量50ミリ以上の年間発生回数」と「1時間降水量100ミリ以上の年間発生回数」を記録したものです。これを見ると、図10では、昭和51年から62年、平均162回だったのが、平成10年から19年には、約1.5倍の238回、図11では、同じく1.8回が3.7回と約2倍以上増えています。図12は、日本周辺域の豪雨の日数を予測したもので、これを見ても明らかに増加傾向が見て取れます。inoti96_rupo_8inoti96_rupo_9

 これは日本だけに限りません。図13、図14は、それぞれアメリカとドイツの極端事象(豪雨)の変化を表したものですが、90年、120年という長期スパンのデータからも、豪雨の回数が増えているのがお分かりいただけると思います。
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 その一方、極端に降水量が少ない年も頻発するようになっています。図15、「日本の年降水量変動」を見ると、赤丸がついた昭和53年、60年、平成6年と約10年単位で極端な渇水に見舞われています。

──豪雨と渇水、こうした極端な現象は、どんなことが原因で生まれるんでしょうか。

小池 図16をご覧ください。地球は太陽の放射エネルギーによって、大気や地表面が加熱され、上向きに赤外放射して、最終的には熱が宇宙に逃げていくんです。しかし、二酸化炭素やメタンなどによってこの赤外放射が吸収されて気温が上昇します。これが温室効果です。これによって大気から下向きの赤外放射が増え、地表面の過熱が増します。そうすると、地表面付近でより温かく湿った空気が形成されて狭いところで上昇します。

 そのため、そこの空気がなくなってしまいますので、周りから空気が集まってくるんです。上昇した空気は宇宙まではいかず、また下りてきます。このような空気の流れを対流といいます。つまり温室効果に伴って対流が加速されます。対流によって、狭いところで湿った空気がバンと上がり、雨雲が発生しますから、狭い地域に強い雨が降り、雨として水蒸気を消費するため乾いた空気となり、それが下降すると温度が上がり、乾燥してしまう。

 だから、狭い地域で強い雨が降り、その周りは乾燥するという一見矛盾するような事態が起きてしまうわけです。(図17)

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豪雨、渇水が増え、台風は大型化する

──今後、豪雨や渇水の頻度はどうなっていくと予測されているんでしょうか。

小池 ⑱は、「気候と水循環の変動」をまとめて表したもので、4次報告は赤、特別報告は青、5次報告は黒文字で示してあります。それによると、「大雨の頻度(ひんど)、強度、大雨の降水量の増加」の「将来変化の可能性」では、4次報告が「ほとんどの陸域で可能性が非常に高い(発生確率90%)」なのに対し、5次報告でも、「中緯度の大陸のほとんどと湿潤な熱帯域で可能性が非常に高い」となっています。
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  「干ばつの強度や持続期間の増加」においては、4次評価報告書、5次評価報告書共に、「可能性が高い(同66%)」となっています。ですから、今後、大雨の発生頻度は非常に高く、渇水の可能性も高いということで、科学的知見が固まっているんですね。

──台風はどうですか。

小池 図19の「世界平均海洋表層の貯熱量の変化」を見れば分かるように、海の温度が上がっていますから、その熱をもらって台風は強くなります。inoti96_rupo_15

 ただ、一つ一つの台風の強度は強まるんですが、一つ大きな台風ができると次のエネルギーを貯(た)めるまで時間がかかるので、発生の回数は減ると予測されています。inoti96_rupo_16

環境破壊がもたらしたヒートアイランドと“環八雲(かんぱちぐも)”

──ヒートアイランド現象という言葉をよく耳にします。これについて教えていただけますか。inoti96_rupo_17

小池 図20は、1959年6月4日のロンドンにおける最低気温の分布を示したものです。黒くなっている部分が市街地で、このところの最低気温は15℃、市街地から離れるにつれて気温が下がり、テムズ川が流れている辺りは10.6℃です。土壌だったら太陽熱が蒸発して逃げていくんですが、市街地はコンクリートやアスファルトで覆(おお)われ、乾燥しているので熱が蓄積されてしまう。

 これがいわゆるヒートアイランド現象ということで、まさに“都市化の影響”によるものです。1959年の時点でこの状態ですから、都市化が進んだ現代では、なおさらです。

 図21は、東京・大手町における過去100年間の日最高気温、平均気温、日最低気温を示したグラフですが、いずれも上昇しており、中でも最低気温がより高くなっていることが分かります。

 “環八雲”というのをご存じでしょうか。これは、天気の良い日の午後、都心の周囲を走る道路、環状八号線に沿った空に出現する雲のことで、1990年頃から話題になりました。排ガスによってできる雲ではないかなどの仮説が出たんですが、結局、次のようなことが分かったんです。

 天気の良い日、内陸部は周りの海域(東京湾や相模湾)よりも温度が高くなる。このため、午後になると、東京湾から都心に向かって海風(南東風)が入るようになるとともに、相模湾からも海風(南西風)が入り、ちょうど環状八号線沿いで両方の風が出合うために上昇気流が生じ、道路に沿って雲が形成されます。つまり“環八雲”とは、東京が持つ海風という自然の冷却効果を“見える化”した現象だったのです。

 ところが我々は、ウォーターフロント開発と称して沿岸に高層ビルを建てて、ヒートアイランドを緩和(かんわ)するこの恵みの風の流入を遮(さえぎ)っているのです。
 逆に言うと、なぜ、そうした海風を利用した都市造りをしないのかということなんですね。例えば、ドイツのシュトゥットガルトでは、山風を都市の中に採り入れるという町の造り方をしています。それなのに日本は、ウォーターフロント(河岸、海岸通の土地、水辺)にビルを建てて風を遮ってしまっています。シミュレーションによって、ビルを建てたらどうなるか分かるはずなのに、人間の欲望が勝り、ヒートアイランド現象を促進させてしまっているんですね。

空間的・量的拡大から縮小・撤退の時代へ

──小池さんは、『環境教育と心理プロセス』の中で、「環境問題を解決していくためには、われわれの考え方や行動規範のパラダイムシフトが必要」と書いておられます。
  私ども生長の家では、自然と人間とが調和した“新しい文明”の基礎づくりをしようと、日本初のゼロエネルギービル(*4)である“森の中のオフィス”(国際本部)を建設し、会員・信徒には、温暖化の原因となるCO2をできるだけ排出しない倫理的な生活を心がけることを呼びかけて、一人一人が地道に実践することで温暖化防止、環境問題の解決に向けて貢献したいと考えています。今後、私たち一人一人がどのような考え方をしていけばいいのか、アドバイスをいただければと思います。

小池 生長の家の皆さんの真摯(しんし)な活動には、心からの敬意を表したいと思います。

 我が国では、狭い国土と乏しい資源の中で慎(つつ)ましく生きる知恵であった閉鎖系環境倫理意識を身につけていたわけですが、それが戦後わずか数十年で、大量生産、大量消費、大量廃棄という開放系型の倫理観にすりかわってしまいました。人間の活動によって温暖化、環境悪化が進む今こそ、考え方や行動規範のパラダイムシフトが迫られている時であり、空間的・量的拡大から、縮小・撤退をも辞さない、新たな文明を創生する考え方に変わっていかなければならないと思います。

ICHARMセンター長の執務室で

ICHARMセンター長の執務室で


 日本だけに限りません。世界的にも近代化の中で生じた人間活動と環境の軋轢(あつれき)を明らかにした上で、個人の価値観の変容(へんよう)とその社会化、さらにはそれを支える新しい基礎づくりを考える必要があると思っています。

──本日はありがとうございました。(平成29年12月1日、つくば市のICHARMにて)

*1=ある時代に支配的なものの見方や考え方の枠組が変わること
*2=1945年に設立された国際連合の経済社会理事会の下におかれた教育、科学、文化の発展と推進を
目的とした専門機関。フランス、パリに本部がある
*3=No.50(2014年5月号)の特集「今、地球の気象はどうなっているのか?」
*4=創エネ・省エネの技術により、建物内の年間エネルギー使用量を実質ゼロにするビルのこと