工藤愼悟(くどうしんご)さん│66歳│栃木県那須町 取材/多田茂樹 写真/堀 隆弘 1年がかりで造った自慢のログハウスのベランダは、自然の風を満喫できる空間でもある

工藤愼悟(くどうしんご)さん│66歳│栃木県那須町
取材/多田茂樹 写真/堀 隆弘
1年がかりで造った自慢のログハウスのベランダは、自然の風を満喫できる空間でもある

1年がかりで森の中に完成させたログハウス

 東北自動車道を那須インターで降り、那須ロープウェイに向かって北に進むと、道の両側に観光地らしい洒落(しゃれ)たレストランやショップが目に飛び込んでくる。しかし、少し外(はず)れて脇道に入ると、そこは時折、クマやサルが出没することもあるという鬱蒼(うっそう)とした森林が広がる、那須高原の雄大な自然のまっただ中だ。

木の香りが漂う、洒落たログハウスの内部。ロフトに続く階段で愛犬とともに

木の香りが漂う、洒落たログハウスの内部。ロフトに続く階段で愛犬とともに

 道に沿って車を走らせること5分余り。行く手に2階建てのログハウスが見えてきた。これが工藤愼悟さんの自宅だった。

「このログハウスは、建設業者の手を借りながら自分でも作業し、ほぼ1年がかりで、平成18年の末に完成したものです。昔から自然が大好きで、どうしても自然の中にログハウスを造って暮らしたいと思っていたものですから」

 業者に委託した屋根、外壁、床、天井などの施工を除き、窓や内壁、トイレの棚、部屋の仕切り、簡単な電気の配線、井戸掘りなど自分でできることについては、当時、住んでいた那須塩原市内のアパートから足繁(あししげ)く通って作業し、ログハウスを完成させた。

「ここに住み始めて、そろそろ10年になりますが、自然の中で暮らしていると、生まれ育った故郷にいるような気がして、本当に心が安らぎます。生長の家で教えられている、『自然と人間とは一体』ということを実感しますね」

自衛官を36年務め、その間、教えに触れる

 工藤さんは、津軽海峡の沿岸に位置し、イカ釣りの漁業や林業で知られる青森県下北郡大畑町(おおはたまち)の出身。父親が営林署に勤務していたため、子供の頃から山の中を遊び場所として育ち、いつしか自然への憧れを持つようになった。

 地元の高校を卒業した後、海上自衛隊に入り、13年間、潜水艦に乗務した。34歳からは陸上勤務となって、定年の54歳で退官するまでの36年間、自衛官を勤め上げた。

 妻の隆美(たかみ)さん(61歳)と結婚したのは、神奈川県横須賀基地で働いていた38歳の時だった。その頃、生長の家信徒の隆美さんから教えを伝えられた。

「真剣に生長の家を信仰するようになったのは、職場の人間関係で悩んでいた47歳の時、妻から勧められて神奈川教区の練成会(*1)に参加してからのことでした。祈りの中で、相手を赦(ゆる)し、感謝することで、人間関係がスムーズに運ぶようになったんです」

「自然の中で暮らしたい」沸々とした思いが湧いて

 以来、誌友会(*2)や講習会などに参加して生長の家の教えを学ぶようになった工藤さんは、自衛隊を退職した後、自ら希望して栃木県那須近郊の生命保険会社に再就職し、那須塩原市に住むようになった。他にも雇ってくれるという会社がある中で、なぜ、那須近郊にしたのかというと、「自然の中で暮らしたい」という思いが、沸々(ふつふつ)と湧き上がってきたからだった。

間伐された木を一定の長さに切りそろえ、薪にしていく。「森がきれいになって、地主も喜び、私も必需品の薪が手に入るので一石二鳥です」と語る工藤さん

間伐された木を一定の長さに切りそろえ、薪にしていく。「森がきれいになって、地主も喜び、私も必需品の薪が手に入るので一石二鳥です」と語る工藤さん

「潜水艦に乗っている時は、狭苦しい空間で働いていましたから、広々とした自然の中で暮らしたいと切実に思っていました。それで、横須賀基地で働くようになってから、家内と自然豊かな場所を見て回った結果、何度も遊びに行っていた那須がいいということになって土地を購入し、その近くの矢板市の会社で働くことにしたんです」

 平成18年、横須賀市から那須塩原市に転居した工藤さんは、仕事の傍(かたわ)らログハウス造りに着手。前述したように建設業者の手を借りながら、自らも休日を利用してログハウス造りに励み、約1年をかけて完成させた。

 現在は、那須塩原相愛会(*3)の会長として、このログハウスで毎月1回、誌友会を開き、信徒仲間と教えの研鑽(けんさん)に励んでいる。

ボランティアで森を整備し、整備した木を薪として利用

 一昨年(平成27年)、仕事を辞め、ログハウスで悠々自適(ゆうゆうじてき)の日々を送るようになった工藤さんが、今、一番力を入れているのは、自宅周辺の森の整備。人の手が入らず、放置されたままの森が増えている昨今、工藤さん宅の周辺の森も例外ではない。福島第一原発事故によって、放射能の影響が取り沙汰(ざた)され、ますますその傾向が強くなっていたことに胸を痛め、ボランティアで森の整備を始めた。

上:薪ストーブの上では常にお湯が沸いていて、室内の湿度を心地よく保ってくれる/下:「5年分の薪を確保してあるので、欲しい人には分けてあげたりしています」

上:薪ストーブの上では常にお湯が沸いていて、室内の湿度を心地よく保ってくれる/下:「5年分の薪を確保してあるので、欲しい人には分けてあげたりしています」

「この辺りには、広葉樹のナラが一番多く、スギやヒノキ、マツもありますが、ともかく誰も手を入れないので、荒れ果てる一方なんですね。見ていられなくなって、地主さんの了解を得て、森の整備を始めたんです」

 整備した木は自由に使っていいとのことで、薪(まき)ストーブ用の薪が必需品の工藤さんにとっても、無報酬(むほうしゅう)で森の整備をしてもらえる地主にとっても願ったり叶(かな)ったりだった。

 薪ストーブの燃料としては、燃えやすく、炎が柔らかいクリやナラなどの広葉樹が適しているが、勢いよく燃えすぎて薪ストーブを傷(いた)めやすいと言われ、敬遠されがちなスギなどの針葉樹も、工藤さんはうまく利用している。

「スギはあまり細くせず、太い丸太のままくべるといいんです。すると熾火(おきび)(*4)に近い燃え方になって、長時間温かい。自然からの恵みは少しも無駄にしてはいけませんから、工夫して使っています」

 自らの手によって周囲の森が整備され、きれいになるのを見るのが何よりの楽しみという工藤さんは、自宅周辺はもとより、近隣の道路沿いの草苅りも自主的に行い、地域の人たちから喜ばれている。

暮らしの中でさまざまな省エネの工夫

 そんな日々の暮らしの中で、工藤さんは省エネにさまざまな工夫を凝(こ)らしている。ユニークなのは、屋根の樋(とい)から雨水をパイプでタンクに引き、水洗トイレの水として使う装置を自作したことだ。

「前から思っていたんですが、台所と同じ上水道の水を水洗トイレにも使うというのは、あまりにもったいない。そこで雨水をトイレ用に使えばいいと考え、自作してみました。一度トイレを使ったら、外の雨水タンクから専用ポンプでトイレの水槽に水を注いで、それを使うようにしています」

上:水洗トイレ用の雨水タンク/下:雨水を屋根からタンクに引くためのホース

上:水洗トイレ用の雨水タンク/下:雨水を屋根からタンクに引くためのホース

 さらに、雨水を徹底的に無駄なく使い切るため、浄化槽を通ってきれいになった水を再び中水道として使うための装置も、近々作る計画という。

 また、電車を利用する用事がある場合、晴れた日には、JR黒磯駅までの約10キロの道のりを、車ではなく電動アシスト付きの自転車で行き来している。

「ログハウスに差し込んでくる日の光で目覚めて一日が始まり、日中は、森の中で森の整備に勤(いそ)しみ、心地よい汗を流して、日没とともに一日を終える、そんな毎日を送っていると、『自然に癒され、生かされているのが人間なんだなあ』としみじみ感じます」

*1=合宿形式で生長の家の教えを学び、実践するつどい
*2=生長の家の教えを学ぶ小集会
*3=生長の家の男性の集まり
*4=薪が燃えたあとの赤くなったもの

この地に住んで本当によかった! 工藤愼悟(談)
「森林整備の作業を終えた後などに、森の中で椅子に座って一休みすることがあります。すると、時折、鳥の声にまじって風が流れ、汗ばんだ体に爽(さわ)やかに染みていく。その時、ふるさとの野山を駆け回っていた少年時代のことなど、さまざまなことが心をよぎり、何とも言えないほのぼのとした気持ちになるんですね。
 また、冬の夜、愛犬を連れて外に出ると、文字通りの満天の星が空に瞬(またた)いていて、宇宙の神秘を感じ、厳粛(げんしゅく)な気持ちになります。この地に住んで、本当によかったと思います」