山本良一さん│東京大学名誉教授 聞き手:佐藤香奈美さん(生長の家白鳩会会長、生長の家参議、生長の家本部講師) 写真/堀 隆弘 山本良一さんのプロフィール 昭和21年、茨城県生まれ。昭和44年、東京大学工学部卒業。49年、同工学系研究科大学院博士課程修了、工学博士。同大学工学部助教授、同大生産技術研究所教授を経て、平成22年から同大名誉教授。現在、東京都市大学特任教授、国際基督教大学客員教授。国際グリーン購入ネットワーク名誉会長、日本エシカル推進協議会代表、宗教・研究者エコイニシアティブ副代表。著書は、『地球を救うエコマテリアル革命』『1秒の世界』『温暖化地獄』『残された時間』など多数。編著に『未来を拓くエシカル購入』などがある。

山本良一さん│東京大学名誉教授
聞き手:佐藤香奈美さん(生長の家白鳩会会長、生長の家参議、生長の家本部講師) 写真/堀 隆弘
山本良一さんのプロフィール
昭和21年、茨城県生まれ。昭和44年、東京大学工学部卒業。49年、同工学系研究科大学院博士課程修了、工学博士。同大学工学部助教授、同大生産技術研究所教授を経て、平成22年から同大名誉教授。現在、東京都市大学特任教授、国際基督教大学客員教授。国際グリーン購入ネットワーク名誉会長、日本エシカル推進協議会代表、宗教・研究者エコイニシアティブ副代表。著書は、『地球を救うエコマテリアル革命』『1秒の世界』『温暖化地獄』『残された時間』など多数。編著に『未来を拓くエシカル購入』などがある。

 大量生産・大量消費の時代から持続可能な社会に導くエシカル(倫理的)生産・消費の時代へ─日本エシカル推進協議会代表としてエシカル消費(倫理的消費)の啓蒙に努める山本良一・東京大学名誉教授に、エシカルな生活とは何か、なぜ、エシカルな生き方が求められるのか、私たちは何をすべきなのかなどについて伺った。

地球温暖化─生きるか死ぬかの瀬戸際に立つ人類

─山本さんは、ご著書『温暖化地獄』などで、早くから地球環境問題に警鐘を鳴らされています。始めに、地球温暖化の現状についてお話しいただけますか。

山本 今、注目されているのは、昨年(2015)12月30日に報道された「北極点の気温が一時期0℃を超えた」というニュースです。異常な低気圧が北極圏を覆い、南側から暖かい風が入ったため、半日ほど北極点の温度が0℃を超えたというものですが、このようなことが続くと北極の氷が溶けてしまうという心配があるんですね。

 IPCC第五次報告書(*1)では、このまま温暖化が進むと、海面水位が最大80センチ上昇すると言われていたんですが、南極、北極の氷河が急速に溶けているため、1メートルから3メートルは上がると予想されるんです。アメリカのNGO(非営利研究組織)「クライメート・セントラル」では、世界の平均気温が2℃、さらに4℃上がると、ニューヨークは水没したり、インドのムンバイはそれまで陸地だった所が沈んでしまうと予測しています。

 昨年(2015)、パリで「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議」(COP21)が開かれ、パリ協定が採択されました。その決定は、産業革命以前に比べ、気温の上昇を2℃以下、できれば1.5℃に抑えたいというものになりました。大方の予想を裏切る目標が設定されたわけで、私は、各国の首脳が地球温暖化の現状をよく認識し、「死にものぐるいで温暖化と戦うと決意した」ということだと思っています。

 しかし、この目標を達成するのは、大変なことなんですね。「1.5℃の目標を達成するには、2016年以降の世界のCO2排出量をゼロにすれば可能」というコンピュータシミュレーションがあるように、今年、世界のCO2排出量をゼロにしないと、1.5℃にならない。科学的には、ほとんど不可能に近いにもかかわらずこの文言を入れたのは、温暖化で水没しかねない国々がたくさんあり、そうした国の人たちの要求を入れざるを得なかったということなんです。

 いずれにせよ人類は、今、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされていると言っていいと思います。

日本人が昔からやってきたエシカルな消費と生活

─そのためにも、エシカルな生き方をしなければならないと思いますが、まずエシカルということの意味について教えていただけますか。

山本 エシカルの直接的な意味は、倫理的、道徳的ということですが、こう訳してしまうと誤解が生まれる可能性があるんです。「価値観や道徳観はみんな違うから、一口にエシカルと言っても、社会の共通な規範にはなりにくい」という人がいます。

 そこで私は、道徳と倫理と法律を分けて考えた方がいいのではないかと思うんですね。道徳というのは、個人あるいは少数の人たちの社会的な規範であり、社会の50パーセントほどの人たちがそういう規範を認めるようになると倫理になり、さらにそれを、国が規制することになれば法律になる。ですからエシカルとは、法律にはなっていないけれども、個人個人のばらばらな価値観ではなく、共通の社会的規範のことを指し、地球環境、社会の課題に配慮した正しい行動をとる、正しい生き方をするという意味だと思います。

─エシカルが言われ出したのはいつ頃からなのでしょう?

山本 歴史的には古く、1980年代、イギリスで『エシカルコンシューマー(倫理的な消費者)』という雑誌が発売されるようになったのが、その淵源でしょうか。

 そして、サッチャー(*2)さんの後に誕生したトニー・ブレア(*3)政権が、エシカルを特に重要な政策課題にしたため、広く知られるようになりました。サッチャーさんは自由経済論者で、市場経済を貫徹させたんですが、やりすぎたためにたくさんのひずみが生じた。それでブレア首相は、エシカルということを言い出し、市場経済原理主義ではない方向へと舵(かじ)を切り、経済政策ばかりではなく、政治においてもエシカルを追求したんですね。

 現代の社会は、科学技術とグローバルな市場経済の発展によって、豊かで便利になったものの、同時にいろんな問題も起きました。私たちはどこの誰が、どのように製造したのか分からない商品を選択させられているわけです。その意味では、私たちは知らないうちに間接的に悪事に加担し、犯罪を犯しているかもしれないんです。

─山本さんは、「エシカル消費」「エシカルな生活」ということは、「日本人が昔からやってきたことだ」と言われていますが……。

山本 近江商人(1)には、「売り手よし、買い手よし、世間よし」、いわゆる「三方よし」という商売の理念がありました。近江商人は、地元の特産品を行商しており、いかに自分が周囲から信頼されるかが、継続的に商売をするための大前提だったため、「三方よし」をモットーにし、それが「先義後利」「義理を先にして利益は後にする」という商人道になっていった。これは、孟子(*4)の言葉ですが、「三方よし」は、まさにエシカル消費、エシカルな生活の一つの源であると思います。

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エシカルの動きは第二次精神革命

─現在のエシカルの動きは、「第二次精神革命」ともおっしゃっていますが、それについて教えてください。

山本 伊東俊太郎(*5)・東京大学名誉教授によると、人類の歴史は六つに分けられ、最初は「人類革命」だったというんです。私たち人類の種は、大体25種あったけれども、みんな滅びてホモサピエンスが出現するという人類革命があった。

 その次は1万年ほど前、前の氷河期が終わった頃に「農業革命」が起き、食糧がたくさん生産されるようになった。すると今度は政治権力を握る人たちが出てきて、その人たちが都市に集まって「都市革命」が起きた。

 そして、紀元前7世紀から5世紀には、富の集中、都市化などの問題をどう乗り越えるかということで、有名な哲学者とか宗教家が輩出した。それが「精神革命」で、その後、17世紀から18世紀に「科学革命」が起き、21世紀に入って、「環境革命」が起きている─。

 これが伊東先生の文明論なんですが、私はさらにソクラテス(*6)、孔子(*7)、孟子、釈迦(*8)などは「第一次精神革命」を起こした人であり、21世紀に入った今は、「第二次精神革命が起きつつある」と捉えたい。なぜかと言うと、人類及び他の動物植物は、古今未曾有(ここんみぞう)の危機に直面しているからです。

 アンドリュー・バルノスキーというカリフォルニア大学の生物学教授は、世界の生物学者のコンセンサスを得て、レポートを出しているんですが、それによると、「今、動植物が第六次大量絶滅時代に入っていて、その原因は私たち人類にある」というんです。

 人類は今や、雪や氷に覆われていない地表の43パーセントを占有し、2025年になると50パーセントに達するため、行き場を失った他の生物が絶滅に追いやられてしまう。このままでは私たちの子供や孫が、きわめて劣化した自然生態系を受け継ぐことになるというのが、このレポートの結論なんです。

─とても衝撃的な話ですね。

山本 それだけではありません。今年1月、スイスのダボスで開かれた「世界経済フォーラム」(2)のレポートでは、2050年に、海中のプラスチックゴミの総量が魚の総量を上回るという報告がなされました。現在、海中には1億5千万トンのプラスチックゴミがあり、ゴミと魚の量の比率は1対5ですが、2050年には1対1以上になると予想される。生物が絶滅したらもう取り返しがつかないわけですから、私は、宗教的叡智(えいち)による「第一次精神革命」の成果に、科学革命で得た科学的叡智を足し合わせた「第二次精神革命」、即ちエシカルな生き方が求められていると考えているのです。

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「自然資本主義と」エシカルな生活のあり方

─山本さんは、編著『未来を拓くエシカル購入(*9)』の中で、「自然資本主義」を提唱されています。これについて教えてください。

山本 十何年か前に、ポール・ホーケン(*10)らが本を出して、ナチュラル・キャピタリズム、「自然資本主義」を提唱しました。私たちは、膨大(ぼうだい)な種類の動物植物のお世話になり、それがなければ一日たりとも生きていけないんですが、そういうことが人類の産業経済システムには反映されていない。だから、生態系と、生物種の価値を適切に市場経済に取り入れる必要があるというのが、「自然資本主義」の考え方なんです(3)。その意味でも、エシカルということについて、もっと深く徹底的に考えなければいけないと思います。

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─なるほど。

山本 2011年、上智大学で創立百周年の記念シンポジウムが行われた時、私は科学者の立場からある提案をしました。現在、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)、国際資源パネル(IRP)(*11)、それから生物多様性に関する科学者の集まり(IPBES)もあるんですが、哲学とか宗教など倫理に関してのパネルはない。ですから私は、「なぜ、倫理パネルを作らないのか」という提案をしたんです。そうしたら、アメリカのキリスト教神学者が大賛成してくれ、2012年の「リオ+20」(*12)の国際会議で提案されたんですが、採択されなかった。それなら自分でやるしかないと、「日本エシカル推進協議会」(4)を作ったんです。

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─エシカルな生活のあり方というものは具体的に言うと、どのようなことでしょうか。

山本 それは、「環境への配慮」「社会への配慮」「地域への配慮」の三つに集約されます。

 1つ目の「環境への配慮」については、❶グリーン購入、❷自然エネルギーの利用、❸エコマーク付き製品の購入、❹有機農産物の購入、❺国産材の使用、❻車はレンタル、シェアにするなどですね。

 2つ目の「社会への配慮」は、❶障害者が作った製品の購入、❷製品の流通段階で、児童労働などの社会的問題、環境問題を引き起こしていないフェアトレード製品やエシカルファッションを選ぶなどが上げられると思います。

 3つ目「地域への配慮」は、❶地産地消の物を購入する、❷地元商店での買い物、❸その他の応援活動を積極的に行うなどです。(5)

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環境に配慮した生活肉食を控える生き方

─生長の家では、「環境への配慮」として、組織の会員に対して、太陽光発電装置、電気自動車の導入推進に加え、今年から定置用リチウムイオン蓄電池の導入の助成(1kWhあたり1万円)を開始しています。これらもエシカルな消費と考えますが、いかがでしょう?

山本 もちろんです。宗教的信念の下に、エシカル消費を展開していただくというのは大変素晴らしいと思います。生長の家の中でも力を持つ白鳩会(*13)が中心になって、エシカルな生活を進めていただくと、日本の社会を動かす大きな力になると思います。財布を握っているのは女性ですからね(笑)。

─他にも生長の家では、肉食を控えることも推奨(すいしょう)しています。エシカルな生活においても、肉食を控えることがもっと訴えられても良いのではと思いますが……。

山本 私にも責任があるんですが、日本のグリーン購入では、動物のいのちを大切にするという観点が抜け落ちていたんです。イギリスのエシカルコンシューマー運動には、動物の福祉、動物実験の問題などが含まれていますから、エシカルな生活において肉食を減らすのは、きわめて重要なことだと思います。

電力自由化の今こそエシカルな電力の購入を

─今年(2016)の4月から電力販売の全面自由化が始まりました。生長の家では、購入する電力がどのようなプロセスで発電されているのかを考慮し、環境負荷が少ない再生可能の自然エネルギー(太陽光、水力、風力、 地熱など)を電源とする電力会社を選択することを推進しています。電力会社の選定は、すべての家庭で行いますから、そこにエシカルな視点を入れて判断することが望まれると思います。

山本 その話を神谷光德・生長の家栄える会(*14)名誉会長から伺い、大変素晴らしいので、もっと大々的に宣伝して欲しいと思っています。電力を選べる時代になったわけですから、私たち消費者は、日本の再生可能エネルギー電力の導入が世界最低水準という信じがたい状況をよくよく踏まえ、今こそ化石燃料、原発と決別し、将来の世代にツケを回さない自然エネルギー、再生可能エネルギーによる電力、本当の意味でのエシカルな電力を購入しなければなりません。そして、エシカルな生き方をもって、大量生産・大量消費の時代から持続可能な社会を実現していかなければならないと考えます。

「生長の家の白鳩会の皆さんが、エシカルな生活をどんどん進めていただきたい」と山本さん。左はインタビュアーの佐藤さん(生長の家赤坂“いのちの樹林”で)

「生長の家の白鳩会の皆さんが、エシカルな生活をどんどん進めていただきたい」と山本さん。左はインタビュアーの佐藤さん(生長の家赤坂“いのちの樹林”で)

─今日伺いましたエシカルな生活のあり方を実践するとともに、多くの方々に伝えていきたいと思います。本日は、ありがとうございました。
(2016年2月15日、東京港区赤坂の日本教文社本社で)

*1=気候変動に関する政府間パネルが2013~2014年に公表した地球温暖化に関する報告書
*2=マーガレット・ヒルダ・サッチャー。第71代、イギリス初の女性首相(1979~1990)。1925~2013
*3=アントニー・チャールズ・リントン・ブレア。第73代の首相。1953年生まれ
*4=紀元前372~289年。戦国時代の中国の儒学者。言行をまとめた書『孟子』がある
*5=1930年生まれ。日本の科学史家、文明史家
*6=紀元前469年頃~399年。古代ギリシアの哲学者
*7=紀元前552年〜479年。春秋時代の中国の思想家、哲学者
*8=紀元前5世紀頃の北インドの人物で仏教の開祖
*9=2012年、環境新聞社刊
*10=アメリカの環境活動家、起業家、ジャーナリスト。『自然資本の経済──「成長の限界」を突破する新産業革命』『フィンドホーンの魔法』などの著作がある
*11=世界の資源の管理に向けた総合的アプローチを開発し、経済成長を資源利用と環境劣化から切り離すこと(デカップリング)に向けた科学的推進力となるため、2007年に設立された
*12=1992年にリオデジャネイロで開催された地球サミットから20年後に開かれる会議という意から、2012年にリオデジャネイロで開催された「国連持続可能な開発会議」の通称
*13=生長の家の女性の組織
*14=生長の家の産業人の集まり