可部貴恵(かべ・たかえ)さん│55歳│島根県益田市 取材/久門遥香(本誌) 写真/中橋博文 「自分の理想とする表現に少しでも近付けるよう、さらに絵を描きたい」とキャンバスに向かう可部さん

可部貴恵(かべ・たかえ)さん│55歳│島根県益田市
取材/久門遥香(本誌) 写真/中橋博文
「自分の理想とする表現に少しでも近付けるよう、さらに絵を描きたい」とキャンバスに向かう可部さん

 可部貴恵さんの自宅を訪ねると、室内には、風景、人物、静物など、さまざまなテーマで描かれた油彩画がずらりと並んでいた。

船止めの綱を描いた作品の一つ。静かに役目を全うする綱の存在に惹かれて描いたものだという

船止めの綱を描いた作品の一つ。静かに役目を全うする綱の存在に惹かれて描いたものだという

 その中で目を引いたのは、船止めの綱(つな)を描いた50号の作品3点。モチーフも斬新(ざんしん)だが、青、黒などの重厚な色調の中に、光に照らされて浮かび上がる綱の存在感が際立っている。

「港で船を見ている時、ふっと綱が目に留まり、『あっ、これだ』と思ったんです。普段何気なく見ているものでも、自分の見方次第で、魅力あるモチーフになるんですね。だから、絵を描く際には、対象をよく観察し、どこから見たら一番美しいか、どこに感動するのかを常に考えています」

 油彩画をはじめたのは、長女が生まれた平成5年。高校時代に美術部に所属するなど絵が好きだった可部さんは、子育ての合間の息抜きにと絵画教室に通い始めた。8年前から益田市美術展などに出品するようになり、現在も臨床検査技師の仕事の傍(かたわ)ら、月に1度、教室に通って油彩画を学んでいる。

「朝、仕事に行く前や、寝る前などのちょっとした合間に描いています。どんなに忙しくても、どんなことがあっても、絵と向き合い、自分の世界に没頭すると、すべて忘れられるんです」

 生長の家の教えには、平成8年、近所に住む信徒から誘われ、母親教室(*1)に参加して触れた。明るい雰囲気に惹(ひ)かれて教えを学び始めたが、信仰を深めたのは、平成20年、当時中学2年の次女が、学校生活が上手(うま)くいかず、悩んでいた時だった。

「絵を描くようになって、どんなものにもいのちを感じるようになりました」

「絵を描くようになって、どんなものにもいのちを感じるようになりました」

「地方講師(*2)に相談すると、『子供のよい面を見て褒(ほ)めれば、神の子としての完全円満な姿が現れる』と教わり、その通り実践しました。すると、私の心に余裕が生まれ、子供に穏やかに接することができるようになって、問題も少しずつ改善していきました」

 次女はその後、高校に進学。中退はしたものの、専門学校で書道を学び、今は東京で筆耕(ひっこう)(*3)の仕事をして、元気に働いているという。

 可部さんは、病院での仕事を抱えているため、制作にまとまった時間を割(さ)くことはできないが、絵に対する情熱は人一倍強い。

「絵を見た人が喜びや幸せを感じてくれるような、明るい色調の絵を描きたいですね。絵には自分の心が反映されますから、そのためにも神想観(*4)に励んで、いつも心を澄ませたいと思います」

 そう言って可部さんは、使い慣れたパレットに絵の具を溶いた。

*1=母親のための生長の家の勉強会
*2=生長の家の教えを居住地で伝えるボランティアの講師
*3=写字や清書で報酬を得ること
*4=生長の家独得の座禅的瞑想法