野元郁雄(のもと・いくお)さん│87歳│宮崎県宮崎市 「書をしたためる時、『甘露の法雨』のテープを聴くと、より一層集中力が増すんです」 取材/久門遥香(本誌) 写真/堀 隆弘

野元郁雄(のもと・いくお)さん│87歳│宮崎県宮崎市
「書をしたためる時、『甘露の法雨』のテープを聴くと、より一層集中力が増すんです」
取材/久門遥香(本誌) 写真/堀 隆弘

 半紙を前にして筆を持ち、すっと姿勢を整えた野元郁雄さん(雅号・暁峰(ぎょうほう))は、身体全体を使って勢いよく筆を走らせた。その動きには、87歳という年齢を感じさせない気迫が溢(あふ)れている。一点一画に神経を集中させ、力強い筆致で、「廣大無辺」と書き上げた。

さまざまな書体をこなせるのも、しっかりとした基礎があるからこそ

さまざまな書体をこなせるのも、しっかりとした基礎があるからこそ

「筆の運び方や線の強弱、全体の構成などの基本的な技術はもちろん必要ですが、やはり一番大切なのは、ゆったりとした素直な心で書くことです。そのため、書と向き合う時にはまず神想観(*1)を行って、気持ちを落ち着かせることを習慣にしています」

 書との出合いは小学3年生の時。「子供の頃、あまりに字が下手だったので、書道塾に通いなさいと母親に言われたのがきっかけでした」

 そう言って笑う野元さんだが、それから書に入れ込み、中学、高校時代は書道部で活動。さらに宮崎大学で書道を学ぶ。大学卒業後、宮崎県内の中学校の国語教諭となったが、その傍ら書に励み、「毎日書道展」や県内の書道展に出品して、入選を重ねてきた。

「奇趣深淵」──この作品は、教員時代、県の教職員の展覧会に出品したもの

「奇趣深淵」──この作品は、教員時代、県の教職員の展覧会に出品したもの

「書を始めて78年ですが、より良い作品を書くために、今も毎朝4時から1時間ほどかけて、基礎となる書体の反復練習を続けています。常に向上心を持って書に取り組めるのは、『人間には無限の力がある』という生長の家の教えが根底にあるからですね」

 生長の家の信仰は、昭和35年に結婚した妻の順子(よりこ)さんから伝えられた。県の書道展に出品し、特選を目指していた昭和45年には、こんなことがあった。

 順子さんから「聖経『甘露の法雨(*2)』の写経をすると良いことがあるから」と勧められ、早速、写経を始めた。すると書き終えた翌日、特選受賞の審査結果が届いたという。

「これを機に、信仰するようになったんですが、最初はただ『うまくなりたい。賞を取りたい』の一心でした。けれど、少しずつ学んでいくうちに、『天地一切のものとの調和』を説く生長の家の教えは、調和の美を追求する書の道と通じていると気づき、深い感銘を受けました」

 平成4年に教職を退いてからは、誌友会(*3)や練成会(*4)に参加するなどして教えを学び、相愛会(*5)の一員として熱心に活動するようになった。今、書と信仰は、野元さんの人生における大切な“両輪”となっている。

「これからの目標は、書道の手本として古くから用いられてきた中国の詩『千字文(せんじもん)(*6)』に挑戦し、自分が納得のいく作品を書くことです」

そう語る野元さんの目は、さらに高みを目指そうとする熱意に燃えていた。

*1=生長の家独得の座禅的瞑想法
*2=生長の家のお経のひとつ
*3=生長の家の教えを学ぶ小集会
*4=合宿形式で生長の家の教えを学び、実践するつどい
*5=生長の家の男性の組織
*6=中国、梁(りょう)の周興嗣(しゅうこうし)が文字習得のための教材として編んだ字種の異なる1千字の韻文