髙野幸子さん(32歳)埼玉県 取材/宮川由香 撮影/堀 隆弘

髙野幸子さん(32歳)埼玉県
取材/宮川由香 撮影/堀 隆弘

 3歳の長女は、お母さんの髙野幸子さんが、子どもの頃に愛用していたエプロンをキリッと締めて、じゃがいもつぶしに奮闘中。小さな踏み台に乗ってつま先立ちで、ぎゅっぎゅーっとマッシャーに力を込める。

「うわぁ、上手だねー」と、お母さんがポタージュ用の野菜を煮ている鍋を混ぜながら声をかける。

上:「もっとやりたーい」と言いながらお手伝い。ほのぼのと楽しそうな母と娘のお料理タイムがゆっくり過ぎていく/左上:おいしそうな香りが漂う髙野さんのキッチン/左中:フライパンで火を通した具材を耐熱の型に入れ、手早く形を整える/左下:手書きのレシピノートを参考にして

上:「もっとやりたーい」と言いながらお手伝い。ほのぼのと楽しそうな母と娘のお料理タイムがゆっくり過ぎていく/左上:おいしそうな香りが漂う髙野さんのキッチン/左中:フライパンで火を通した具材を耐熱の型に入れ、手早く形を整える/左下:手書きのレシピノートを参考にして

 この日のランチメニューは、「厚揚げ・魚肉ソーセージ・野菜のスペイン風オムレツ」「ごぼう・玉ねぎ・さつまいものポタージュ」「ツナマヨ・カレー風味ポテトサラダ・チョコレートクリームの3種のサンドイッチ」「赤水菜とブロッコリーのサラダ」。

 コトコトとやわらかく煮た野菜を、髙野さんは、少しずつミキサーに入れる。ミキサーで野菜をなめらかにするのは長女の役目。何度も繰り返し、手間ひまかけて、ていねいにポタージュを作っていく。

 その間、隣の部屋では、夫の秀樹さんは1歳になる次女の世話をしながら、食事の支度を見守っている。

「家族の大切な食事ですから、できるだけ心を込めて作りたいと思っているんです」と話す髙野さんは、小学生の頃から、食に関心を持つ少女だった。北海道釧路市に生まれ、兄二人と弟一人に囲まれて育った。たまに持っていく弁当は、食欲旺盛(おうせい)な男子弁当と同じもので、友達のカラフルで可愛い弁当のように作ってみたいと、自分で作り始めたのが、料理に興味を持つ最初だったとか。

「そのうち、本を見てお菓子も作るようになりました。私が何か作るたびに、母がすごく喜んでくれるんです。それが嬉しくて、料理やお菓子作りが好きになった気がします」

 平成22年、25歳の時に、北海道時代からの知人だった2歳年上の秀樹さんと結婚。母方の祖母、そして母親から生長の家の「人間・神の子」の教えを伝えられていた髙野さんは、結婚後も、生長の家の行事や誌友会(*1)に参加するのを楽しみにしていた。

右上:夫の秀樹さんが優しくコーヒーを淹れる。有機栽培のコーヒー豆を使う/右下:この日完成したワンプレートランチ。野菜のポタージュは香りが良くてやさしい味/左上:配膳のお手伝いもお手のもの

右上:夫の秀樹さんが優しくコーヒーを淹れる。有機栽培のコーヒー豆を使う/右下:この日完成したワンプレートランチ。野菜のポタージュは香りが良くてやさしい味/左上:配膳のお手伝いもお手のもの

「結婚1年目の頃だったと思うんですが、ある誌友会で『肉食の弊害』について深く勉強する機会があったんです」

 それまでも髙野さんは、殺生(せっしょう)をしてはいけないという宗教的な理由から、肉食は控え目だった。

「でも、その誌友会で学んだ『肉食の弊害』は強烈なものでした。肉を食べるという行為が、世界の貧しい人々の飢餓(きが)を引き起こすことにつながっていると、気づかされたんです」

 今、地球上で、8億7千万の人々が飢餓で苦しみ、子どもは5秒に1人、1年間で1500万もの人が、飢餓で亡くなっていると言われている。世界で生産される穀物の3分の1が、人ではなく、肉食のための牛、豚、鶏など家畜の飼料として用いられているからだ。さらには牛のゲップから出るメタンガスによる温暖化や、飼育牧草地のための森林伐採……。肉食が地球環境に与えるダメージははかりしれない。

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「普段の食卓が、環境問題や飢餓問題につながっているなんて、詳しく知らなかったので驚きました。それまでは、お肉が好きな主人のために、深く考えもせず肉料理を作っていたんです。でも、『今日から肉食をいっさいやめよう!』って決めました」

 髙野さんが肉の代わりに使い始めたのは、厚揚げ、ちくわ、サバ缶、魚介類、お麩(ふ)など。カレーにはちくわを入れ、れんこんやエビを活用してハンバーグを作るといったように、作り方は変えずに、そうした食材を使って、食事を作るようになった。夫に毎日作る弁当も、その頃ちょうど出版された谷口純子・生長の家白鳩会(*2)総裁の『おいしいノーミート四季の恵み弁当(*3)』を参考に、ノーミートにすることができた。

「数カ月たってから、『実はずっとお肉を使ってないんだけど、お肉食べたい?』って主人に聞いたら、『えっ、出てなかったの?』と驚いていました。お肉がなくても、満足してもらえる食事を作ることができるんだと分かってうれしかったですね」

「環境問題や飢餓問題と肉食との関係を考えるようになってから、食卓がノーミートに変わりました」

「環境問題や飢餓問題と肉食との関係を考えるようになってから、食卓がノーミートに変わりました」

 平成27年に次女が生まれてからは、ほぼスーパーには行かなくなり、有機野菜や自然食品の宅配、近所の野菜直売所、保育園で育てている鶏の卵などを使って、地産地消(ちさんちしょう)の食事ライフを送るようになった。

「無農薬の有機野菜は長持ちするし、皮ごと食べられます。安全な上に、しっかり食べ切れるから、スーパーで買うよりコストもかからないんですよ」今日のポタージュの野菜たちも、皮まで使える安心な品々だ。

 出来上がった料理を、長女がせっせとテーブルに運び、秀樹さんも配膳を手伝いながら席につく。

「いっただきまぁーす!」大きな声で、長女が手を合わせる。「自分で料理した感」が大きいポタージュやサンドイッチを、お父さんにも「おいしいね」と言ってもらえてご機嫌だ。

「肉を食べない食生活」と聞くと、どこか肩ひじを張ったもののような感じがするが、髙野さんはいたって自然体である。キッチンには電子レンジも炊飯器もないけれど、土鍋で炊くご飯はほっこりしておいしいと微笑む。温め直す時は、蒸し器を使ってほくほくにする。掃除機がなくても拭き掃除で十分だし、風通しが良くて、昨年の夏はほとんどエアコンを使わなかった。自然へのやさしさがあふれてくると、暮らしはシンプルになっていく。

 無理をすることなく、「新しいノーミートメニューにチャレンジしてみよう」──そんな好奇心をもって楽しむことから、心豊かなノーミートライフがはじまると感じた。

アイディア満載のノーミートメニューが並ぶ髙野家の食卓。お手伝いした料理をお父さんに「おいしい」とほめてもらえて、長女もご満悦

アイディア満載のノーミートメニューが並ぶ髙野家の食卓。お手伝いした料理をお父さんに「おいしい」とほめてもらえて、長女もご満悦

*1 教えを学ぶつどい
*2 生長の家の女性の組織
*3 生長の家刊