SUさん 53歳・福井県坂井市 取材/水上有二(本誌) 撮影/遠藤昭彦 庭に咲いたユリの花を愛でるSさん。「季節ごとに色々な花が目を楽しませてくれます。植物と触れ合っていると幸せな気持ちになりますね」

SUさん 53歳・福井県坂井市
取材/水上有二(本誌) 撮影/遠藤昭彦

庭に咲いたユリの花を愛でるSさん。「季節ごとに色々な花が目を楽しませてくれます。植物と触れ合っていると幸せな気持ちになりますね」

 日本海に面して広がる福井県最大の工業団地「テクノポート福井」からほど近い住宅地に、SUさん宅はある。取材で訪ねた6月、90坪の庭には花壇や菜園が作られ、トマトやキュウリなどの夏野菜をはじめ、ユリやキクなどの花、サクランボやビワなどの果樹が所狭しと植えられていた。

 この庭の植物は、同居しているガーデニング好きの義父(93歳)と義母(82歳)が管理している。植物の種類が多く、「どこに何が植えてあるのか把握できなくて」とSさんは顔をほころばす。

「庭にはもう植える場所がなさそうに見えるのですが、お義父(とう)さんは、何かの苗を買ってきてはわずかなスペースに植え、お義母(かあ)さんがそれらの世話を一所懸命しているんです」

 自宅周辺には、工業団地と居住地域を分離するために造られた長さ9キロに及ぶ緑地帯が広がる。夜になると、イノシシやハクビシンといった野生動物が庭にやって来て、苗を掘り返したり、作物を食い荒らしたりすることがあるそうだが、「趣味で栽培しているだけだから、大目に見ていますよ」と義母。

自宅の庭で夫、義父、義母と

自宅の庭で夫、義父、義母と

 高齢にもかかわらず、庭の作業を通じて日々元気に過ごしてくれることが有難いと、Sさんは義父母に優しい眼差しを向ける。自身も花を鑑賞することが好きで、20歳の頃から生け花を習い、池坊教授の免状を持つ。時折、庭にある花を摘んで、仏壇に供えたり、床の間に飾ったりして家族の心を和ませている。

「食卓を囲み、『今日採れたナスだよ』なんて言いながら、庭の野菜や花のことを話題にしていると、家族がみんな笑顔になります。そんなひとときに幸せを感じるんです」

子育てのつもりで野菜作りに取り組む

 福井県美山(みやま)町(現・福井市)出身のSさんは、24歳の時に建設会社に勤務する夫(56歳)と結婚し、義父母が暮らす家で同居を始めた。

 生長の家を熱心に信仰する義母は、自宅で誌友会(*1)を開き、神想観(*2)の実修や聖経(*3)読誦(どくじゅ)を毎日のように行ってきた。結婚当初、宗教に関心のなかったSさんは、そんな義母の篤(あつ)い信仰心に驚いたが、自分から教えを学ぶほどではなかった。しかし、義母は信仰を強く勧めることはせず、Sさんに感謝の気持ちと褒(ほ)め言葉を、折に触れて語りかけてきた。

 やがてSさんは、人や物事の明るい面を見る「日時計主義」の生き方を心がける義母の姿に惹(ひ)かれるようになり、40歳の頃から、義母が開く誌友会に参加するようになった。さらに8年前、一人息子が航空自衛隊に入隊したことで、神仏に気持ちを合わせて生活する大切さを強く意識するようになった。

「息子の安全を祈るため、神棚と仏壇に毎朝お参りするようになりました。時には大がかりな演習があって、危険を伴う訓練もあるようですが、神様やご先祖様にいつも祈っていると、息子は絶対に守られているという安心感が湧(わ)いてきます」

 冬、福井県の沿岸部には、日本海からの冷たい風が吹き荒れる。今年の冬は記録的な大雪となり、1メートルを超える積雪があったため、Sさん一家は除雪作業に追われたという。しかし、春を迎えて気温が上がると、庭の植物は勢いよく生長し始め、チューリップや果樹の花が次々と咲いた。

「厳しい寒さや雪にも負けず、一所懸命、伸びようとしている幼い芽や、決まった時期に必ず花を咲かせる植物の営みを眺めていると、生命のたくましさに感動し、どんな生き物にも神様のいのちが宿っているんだと教えられます」

 Sさんは、以前はガーデニングに興味がなく、義母から野菜作りを誘われても気乗りせず、義父に頼まれて畑を耕(たがや)した時も、「何でこんな面倒なことをしなければいけないの」と不平を言うような状態だった。しかし、その考えが変わったのは10数年前。義父が腰痛を理由に、自宅から車で20分ほどの所にある380坪の畑の管理を、Sさん夫婦に託したことがきっかけだった。

東尋坊の近くにある畑でタマネギを収穫。「畑に来て、土や草の匂いをかいだり、風に当たったりしていると、心がスーッと軽くなるんです」

東尋坊の近くにある畑でタマネギを収穫。「畑に来て、土や草の匂いをかいだり、風に当たったりしていると、心がスーッと軽くなるんです」

 この畑は、海に面してそそり立つ断崖で有名な東尋坊(とうじんぼう)から300メートルほど内陸に入った雑木林の中にある。周囲は義父が植えた栗や柑橘(かんきつ)類などの果樹が点在し、畑にはタマネギとジャガイモが主に植えられ、その傍(かたわ)らには少数だが、カボチャや枝豆、トウモロコシが育っていた。

 畑の管理を任されたSさんは、当初、気が進まなかった。が、夫が中古の耕耘機(こううんき)を買って作業が格段に楽になったこともあり、休日に畑に向かう夫に同行するようになった。

「手伝わされてやっていた時は、苦痛にしか感じられなかったのに、自分で一から土作りをして苗を植え、その生長を見守りながら、肥料やりや除草などの世話を続けていると、日常の雑念から解放されるような清々(すがすが)しい気持ちになったんです。主人も同様に、畑に来ると仕事のストレスが癒やされると言い、私たちは野菜作りの魅力に引き込まれていきました」

 この頃、息子が高校生になって手がかからなくなり、子育てをやり終えたような寂しさを感じていたSさんだったが、野菜作りが、あたかも子育てをするかのように感じられ、畑作業に愛着を持った。畑を訪れるのは1、2週間に一度のペースだが、野鳥の声を聞きながら、ゆったりとした時間を過ごし、夫と一緒に昼食の弁当を広げるのも楽しみになっている。

自然の生命がもたらす有難さを実感して

 取材でSさん夫婦と畑を訪れた時、一匹の大きな蜂が飛んで来た。Sさんはそれを指して、「刺さない蜂だから大丈夫。『ブンタ』って名前をつけて呼んでいるんです」と言って笑った。ちなみに小さい蜂は「コブンタ」と言うのだそうだ。

「蜂はよく見ると、アニメのキャラクターのようで可愛いんです。果物や野菜が実るのはこうした虫が花粉を運んでくれるおかげだから、貴重な存在なんですね。そう思うと愛(いと)おしいから、名前をつけて呼んでいるんです」

 収穫した野菜は必ずしも出来の良いものばかりではなく、トウモロコシや長芋など何年も失敗続きのものもあるという。今年は畑が雪に覆(おお)われている期間が長かったため、冬期の肥料やりが十分にできず、タマネギは例年よりも小ぶりになってしまった。

「自然が相手だから、自分たちの都合通りにいかないことがあるのは、仕方ないですね。だけど、野菜の出来がどうであれ、手塩(てしお)にかけて育てた自家製の野菜が美味しいことには変わりありません」

 畑の作業を通して、いのちを育てていく難しさや楽しさをはじめ、昆虫など自然界の小さな生き物がもたらす恩恵に気づいたり、収穫物への慈(いつく)しみから自然の生命に対する感謝の念を深めたりして、多くのことを学んだ。

「畑をやっていて良かったねと、最近も主人と話したところです」

 採れた野菜を毎年、知人や親戚にお裾分(すそわ)けし、喜んでもらえるのが何よりも嬉しいという。

*1 教えを学ぶつどい
*2 生長の家独得の座禅的瞑想法
*3 生長の家のお経の総称