中根裕美(なかね・ゆみ)さん (39歳)山梨県北杜市 取材/宮川由香 撮影/堀 隆弘 「子どもたちを健やかに育てたいと思うと、多少高くても安全で安心な商品、環境に配慮した商品を選びたいという思いが強くなりました」

中根裕美(なかね・ゆみ)さん (39歳)山梨県北杜市
取材/宮川由香 撮影/堀 隆弘
「子どもたちを健やかに育てたいと思うと、多少高くても安全で安心な商品、環境に配慮した商品を選びたいという思いが強くなりました」

 心洗われるような雄大な南アルプスと八ヶ岳を望む山梨県北杜市。中根裕美さんは、この美しい土地に移り住んで4年目になる。夫の敏也さんが八ヶ岳南麓の生長の家国際本部“森の中のオフィス”に勤めることになり、生まれ育った愛知県から北杜市にある生長の家の家族寮に引っ越したのだ。小学4年、2年、保育園年長の3人の子どものいる、にぎやかな5人家族。中根さん一家の暮らしも、この地域そのままに自然と調和している。

「自分が一番心地よいと感じる生活をしています」

 そう言って、中根さんは微笑む。

 生長の家の教えを信仰する祖母と母親から「すべてのものの内に神のいのちが宿る」という教えを伝えられていた中根さんは、少女の頃から自然を大切に思う気持ちが強かった。

「結婚し、29歳で子どもが生まれてから、安心で安全な食品や日用品を選んで健康に育てたいという思いが、いっそう強くなった気がします」

 中根さんが子どもの誕生をきっかけに、まず最初に変えたのは洗濯洗剤だった。

肌にやさしくて、安心という理由で選んだ自然派の洗濯洗剤

肌にやさしくて、安心という理由で選んだ自然派の洗濯洗剤

「ある時、成分表をよく読んでみたら、わけの分からない名前のものがいっぱいで。『これは果(は)たして体に良いものだろうか』と不安になり、赤ちゃんの肌に優しい自然派の洗剤を選んで買うようになりました。結果として、それは自然環境への負荷も少ない洗剤で、安心な上に、ちょっと地球のためにいいことしているなって、嬉しい気持ちにもなることができたんです」

 北杜市に来てからは、食品の買い物の八割を生協の宅配でまかなうようになった。中根さんが生協の宅配を選んだ理由は、

「無農薬や有機栽培の野菜を推奨(すいしょう)していますし、作る過程や背景も明確に分かるので、安心できるからです。たとえば卵は、平飼いで、遺伝子組み換えのない飼料で育った鶏が産んだもの。さらに、鶏糞(けいふん)は堆肥(たいひ)となって地域の農業にも貢献しているという背景を知ると、スーパーより多少値段が高くても、選びたいという気持ちになります」

 フード・マイレージ(*1)の低い国産のものを選ぶことも意識している。

「外国から運んで来るということは、燃料など資源を使いますし、地球温暖化の原因になっているCO2も多く排出します。それに、長持ちさせるために大量の薬剤が使われている可能性も高いので、食料品はなるべく地産地消(ちさんちしょう)を心がけています」

バナナを買わないということ

上:古道具を扱う店で手に入れた、引き出し付きの本箱/中:生協で購入した野菜。産地直売所のものや、いただき物が入ることも/下:陶芸教室で娘さんと一緒に作った皿は、植物を使って模様付け

上:古道具を扱う店で手に入れた、引き出し付きの本箱/中:生協で購入した野菜。産地直売所のものや、いただき物が入ることも/下:陶芸教室で娘さんと一緒に作った皿は、植物を使って模様付け

 家族の健康ばかりでなく、社会や環境に心を寄せる買い物の仕方──エシカル(倫理的)な消費も意識するようになった中根さんは、バナナもまったく買わなくなったという。

 バナナなど安価な輸入食品の裏側には、途上国で過酷な労働を強(し)いられている人たちもいると知って胸が痛んだ。かといって買わなくなったら、現地の人たちの収入減を断ってしまう……という葛藤(かっとう)が芽生えたこともあったという。しかし、

「谷口純子(*2)先生のご本『うぐいす餅とバナナ』(生長の家刊)を読んでいたら、日本人が大量にバナナを輸入するために、現地の人が主食や他の作物を作っていた土地を、輸出用のバナナを栽培する土地に変えてしまい、その結果、不作の時は収入が少なくなり、飢(う)えに苦しむ人が増えたと書かれていました。『私たちが、欲しいものを安易に買い求め続けたために、現地の人を圧迫し苦しめていたんだ』と思った時、罪悪感というか、悲しい嫌な気持ちになったんです」

 コーヒー豆やオリーブオイル、ココナッツオイルなど輸入品は多い。すべてをすぐ変えられるわけでなく、ストレスを感じてしまうこともあった。

「でも、現実を知り、ほんの小さなことかもしれないけど、少しずつ自分にできることをやっていけば、必ず自分も世界の人もよい方向に変わっていくと楽観的に信じているんです」

 “自分一人が何かしたところで、いったい何が変わるの?”ではなく、“地球と関わっている、地球のためになっている”と信じて行動していると、心地よく、心が豊かになるという。

 「やっぱり人には、『何か良いことをしたい』っていう願望が、心の奥底にあるんでしょうね」

子どもたちの心を育むために

 楽しみながらエシカルライフを送る中根さんは、食料品だけでなく衣料品も買い過ぎず持ち過ぎず、知人からお下がりをいただいたり、リサイクル品を選んだりしている。長男のズボンの穴は、端切(はぎ)れでつぎはぎ補修。それがオシャレに感じるから不思議だ。

 食事は、中根家はお肉を食べないノーミートを実践している。

優しい夫とにぎやかな3人の子どもたちと、シンプル&ナチュラルに暮らす中根さん

優しい夫とにぎやかな3人の子どもたちと、シンプル&ナチュラルに暮らす中根さん

「主人が、肉食は他の生き物のいのちを奪ったり、世界の飢餓(きが)や地球環境の問題にもつながっていることを、子どもたちに話しています。子どもたちも、高野豆腐を揚げて甘辛いタレをからめたものや、油麩(あぶらふ)を肉代わりにした親子丼などが大好きで満足しているので、今のところ不満はないみたいです。長女は小3の時に、道徳の授業参観で肉食の弊害(へいがい)についてクラスで発表したんです。長女は肉食の問題について説明できるようになっていて、ちゃんと理解してくれていたんだなって嬉しく思いました」

 月に一度、夕飯をご飯とみそ汁だけの「一汁一飯(いちじゅういっぱん*3)」にして、飢餓で苦しむ人たちに心を寄せている。子どもたちもきっと、遠い世界への想像力を働かせることができる、思いやりの深い大人へと成長していくことだろう。

 キッチンやリビングには、時代を感じる味わい深さに惹かれ、ネットオークションで落札したという木製の棚や、祖母から受け継いだ鉄瓶、陶芸教室で作った皿、いただきものの古いピアノやおもちゃなどが並ぶ。持ちすぎることなく、本当に気に入ったものを長く大事に使っている。

 ほんわかとしたナチュラルな雰囲気と笑顔で、今日から自分にも小さな何かが始められるかもと感じさせてくれるのが、中根さんの素敵なところ。中根さんのエシカルワールドからの帰り路は、なんだかとても心地良く、温かい気持ちに満たされていた。

*1 食料の輸送が地球環境に与える負荷を数値化したもので、輸送量×距離で表される
*2 生長の家白鳩会総裁
*3 食事を通した愛の心の実践として、昼食または夕食を、ご飯と汁物だけにすること