菊池光珂(きくちみか)さん (42歳)東京都渋谷区 取材/水上有二(本誌) 撮影/堀 隆弘 「自分の育てた野菜には愛着が湧き、自然の恵みのありがたさも実感できます」と菊池さん。

菊池光珂(きくちみか)さん (42歳)東京都渋谷区
取材/水上有二(本誌) 撮影/堀 隆弘
「自分の育てた野菜には愛着が湧き、自然の恵みのありがたさも実感できます」と菊池さん。

 若者文化の街、東京・渋谷。その渋谷駅からほど近いビルやマンションが林立する一角に、「渋谷区東一丁目区民菜園」はある。ここは渋谷区が区民に有料で貸し出している菜園で、菊地光珂さんは、この菜園の1区画(約8平米)で野菜作りを楽しんでいる。

 7月初旬の土曜日、菊池さんは、三男(5歳)と、四男(2歳)を連れて菜園を訪れ、水やりや野菜の収穫などをした。植えられている野菜は、エダマメ、オクラ、カボチャ、キュウリ、ゴーヤ、シソ、スイカ、トウモロコシ、トマト、ナス、ネギ、ピーマン、モロヘイヤなど、株はどれも少数だが、種類は多い。

「今年(2016年)初めてカボチャとスイカを植えてみたんです。それぞれ一株ずつしか植えてないので、うまく受粉して実がなってくれるかどうか分かりませんが、つるが伸びて葉が茂っていく様子を見ているとわくわくします」

ビルやマンションに囲まれた一角にある菊池さんの菜園

ビルやマンションに囲まれた一角にある菊池さんの菜園

 菊池さんはカボチャの黄色い花を指さしながら、期待を込めて語る。野菜作りを始めてまだ2年目ということで、分からないことはインターネットで調べたり、鹿児島で野菜を育てている両親に尋ねたり、菜園内の利用者から教えてもらったりしながら栽培しているという。

 菊池さん親子がにぎやかに作業をしていると、菜園脇の道路から「何を植えてるの?」と婦人が声をかけてきた。都会の真ん中で通りすがりの人から声をかけられることはあまりないが、二人は親しそうに話している。「今、初めて会った方なんです」と菊池さんは笑った。

「通りかかった方が、色んなことをアドバイスして下さることもあるんですよ。トウモロコシの苗の間隔を見て少し間引いた方がいいとか、虫除けのネットはもっと小さい編み目の物が売っているとか……。人と人とのつながりが希薄だと言われる都会でも、知らない人同士の心を結び合わせてくれるのは、菜園の持つ力なんですね」

 菜園の片隅に「Team The ムスビ」(チーム・ザ・ムスビ)と書かれた手製の木札が立てられている。菊池さんにとって、この菜園は自然と人とが共生するための学びの場であり、ここで交流する人々は仲間の一員であるとの思いから、生命のつながりを象徴するムスビ(結び)という言葉を使って菜園名を付けたという。

自然との触れ合いから世界平和を考える

 今、生長の家では「自然と共に伸びるライフスタイル」への転換を提唱している。大量生産、大量消費の経済優先の生き方が、自然破壊を招き、地球環境問題を引き起こす要因となっており、環境に負荷を与えない生き方が求められている。自然とのつながりを実感し、自然の恵みに感謝する生活の実践として、家庭菜園を勧めているのだ。谷口純子・生長の家白鳩会(*1)総裁は『おいしいノーミート 四季の恵み弁当』(*2)の中で次のように説いている。

〈何を食べるか、どこからきたものを食べるか、どのように栽培されたものを食べるか、そのことにより、二酸化炭素の排出を増やしたり抑制したりできます。

 また、貧しい国の人々の食料を奪う食べ物もあります。ですから、人の食料を奪わず、農薬などで環境を破壊せず、地産地消(ちさんちしょう)を心がけることは、世界平和にも、大いに貢献することになります。

 台所は、環境、資源、平和の問題と直接結びついていることがわかります。私たちが何を選択するかは、大変重要なのです〉(36ページ)

 白鳩会員の菊池さんも、このような生き方を大事にしたいと願うようになったという。

「菜園は、自然との触れ合いを通して世界平和を考えるきっかけになるということを教わり、野菜作りに興味を持つようになったんです。しかし、家事や子育てで忙しい中、なかなか取りかかることができずにいました」

 昨年(2015年)の冬、菊池さんが所属する生長の家東京第一教区の白鳩会から、この渋谷区東一丁目区民菜園を勧められた。自宅から自転車で15分ほどの所にあり、菊池さんは野菜作りを始める絶好の機会だと思って応募した。この菜園は、区の管理者によってあらかじめ土作りや施肥(せひ)が行われていたため、初心者の菊池さんでも順調に野菜を育てることができた。

「種を蒔(ま)き、土を押し上げるように出て来たたくさんの芽を見たとき、なんて力持ちなんだろうと思いました。太陽、空気、土、水、自然の恵みのありがたさをしみじみと感じながら、その思いを人にも伝えたくて、フェイスブックに菜園の様子を時々記すようになりました」

 植物によってすぐに発芽する種があれば、不安に思うほど日にちをかけて芽が出る種もあった。菊池さんはそんな植物の性質の違いを観察していると、子育てのあり方について考えさせられた。

「子どもは皆個性が違うし、成長のスピードも違います。焦らず、素晴らしい神性が現れることを、『信じて待つ』大切さを、野菜の種子が教えてくれるようでした」

食の安全や環境問題への意識が高まって

 菜園を訪れたこの日、菊池さんは採れたばかりのトマトを菜園内の水道で洗い、三男と四男に手渡すと、二人とも嬉しそうに頬張った。

「子どもたちは採れたてが美味しいのを知っているから、いつも家に持ち帰る前に食べてしまうんです」

上:この日収穫した野菜の数々。「立派に育ってくれて、自然の生命力を感じます」/下:収穫したトマト、ピーマン、バジルを乗せて作るピザトースト

上:この日収穫した野菜の数々。「立派に育ってくれて、自然の生命力を感じます」/下:収穫したトマト、ピーマン、バジルを乗せて作るピザトースト

 菊池さんは、世界平和につながる食卓にしたいとの思いから、家庭料理はお肉を使わないノーミートで、三男の幼稚園の弁当にも、肉製品の代わりに魚介類や豆腐などを使う。

「スーパーに行けば、ネットに10個ほど入ったオクラが100円程度で売られています。自分でそれだけの数の野菜を育てようと思うと、苗や肥料代、水やりの手間など、スーパーで買うよりもずっとコストが掛かってしまいます。だけど、野菜作りはお金には換えられないほどの癒やしと喜びを与えてくれます。それに、夏の暑い中でも菜園に行って帰ってくると、ものすごく元気になっている自分に気づきますし、菜園で作業をしていると、都会の真ん中にいても心が解放されます」

 トウモロコシが茎の先端にできた雄花から花粉が落ちて、その下にある雌花がうまくそれをキャッチして実ができることや、キャベツは葉を巻きながら、時間をかけて大きな玉の形に育っていくことなど、今まで何気なく食していた野菜の生長過程を目の当たりにして、「神様のみ心を見るような感動」を何度も覚えた。

「冬でも夏野菜が売られていますが、食欲を満たすためだけの生き方は、神様のみ心にかなっていないように思えるんです。海外から輸入された野菜もスーパーでは並んでいます。でも、農薬や化学肥料の使用の有無はどうなんだろうかとか、産地からどれだけの距離を輸送されて、その過程で、どれほどのCO2が排出されたのかなどを考えてしまいます。できるだけ環境に負荷を与えない、自然と人とが共生できるライフスタイルのあり方を、野菜栽培を通して考えるようになりました」

 今借りている菜園の契約期間は3年なので、利用できるのは来年(2017)が最後になるが、これからも野菜の栽培を続けていきたいという。

「これまで地上に育つ野菜ばかりを植えてきたので、今度は地中でじっくり育って収穫を楽しみに待つような、サツマイモやジャガイモなどに挑戦してみたいですね」

 子どもたちと一緒にいも掘りができることを、今から楽しみにしている。

*1 生長の家の女性の組織
*2 生長の家刊