遠藤弘昭(えんどう・ひろあき)さん 宮城県登米市・30歳・自営業 取材●中村  聖(本誌) 写真●遠藤昭彦

遠藤弘昭(えんどう・ひろあき)さん
宮城県登米市・30歳・自営業
取材●中村 聖(本誌) 写真●遠藤昭彦

宮城県登米(とめ)市で、家族とともに花屋を営む遠藤弘昭さんは、花を通してお客に喜んでもらえることにやりがいを感じている。平成23年に発生した東日本大震災を経験したことで、自分の生き方を見つめ直し、自然から与えられるだけでなく、一人ひとりが自分のできるところから、自然に与え返す生き方をしていくことが大切だと話す。

見覚えのある花束

 遠藤さんの自宅を訪問すると、そこかしこに飾られた可愛い花が目に入った。

「お店で売れ残ったお花は、もったいないので家に飾るようにしているんです。枯れかかってしまった観葉植物なども、水をあげればちゃんと復活してくるんですよね。植物の生命力の強さをいつも実感しています」

「一輪の花を飾るだけでも、自然にふれるきっかけになると思うんです」

「一輪の花を飾るだけでも、自然にふれるきっかけになると思うんです」

 元々、公務員志望だったという遠藤さんは、高校卒業後、仙台にある専門学校に入学し、公務員になるべく勉強に励んだ。しかし平成22年に公務員試験を受験するも不合格となり、その後、市役所の臨時職員として働きながら勉強を続けていた。だが事務職が自分には合わないと感じるようになり、半年で退職した。

「自分にふさわしい仕事を探していたところ、東日本大震災が発生し、実家の花屋が片付けなどの対応に毎日追われるようになり、店の仕事を手伝うようになったんです。それまで、花には全く興味がなかったんですが(笑)、仕事をしていくうちに段々と花の魅力に惹かれるようになって、そのまま店で働くようになりました」

 休日には、花や植物素材を使った創作活動であるフラワーデザインの勉強にも取り組むようになり、日々、自分の感性を磨くことを大切にしているという。

「植物には本当に沢山の種類があって、それぞれに素晴らしい個性や魅力があり、それって人間も同じなんだと感じています。一人ひとりの個性を認め合いながら、お互いを尊重し合うことが大切だと思います」   

 花を通して、誕生日など、多くの人の人生の節目に関われることに喜びを感じていると話す遠藤さんは、ある男子高校生に頼まれて、花束を作ってあげたときのことが印象に残っている。

「そのときは、『先生にでもあげるのかな』と思っていたんです。でも、配達の帰りに車で公園を通ったときに、見覚えのある花束を持っている人がいて、よく見たらさっきの高校生が花束を女の子に渡していたんです。すごく喜んでいる二人の顔を偶然見ることができて、本当にうれしかったですね。人に喜んでもらえることに、一番のやりがいを感じています」

身近な自然に目を向ける

 一般的に生花を扱う仕事には、輸送などによって環境に負荷を与えてしまう側面があるが、遠藤さんのお店では、そうした負荷をできるだけ減らす工夫に取り組んでいる。

売れ残った花などを小鉢に入れて飾っている

売れ残った花などを小鉢に入れて飾っている

「以前は配達にガソリン車を使っていたんですけど、環境への影響を考え、電気自動車に乗り換えました。また、フラワーアレンジメントを作る際に、普通は安価な吸水性スポンジを使うんですが、少し高くなっても、微生物の働きで分解が促されるスポンジに切り替えたりもしています」

 小さい頃、近所の田んぼを走り回って遊んでいたという遠藤さんは、身近な自然に目を向けることの大切さについてこう話す。

「自然って広く捉えれば、綺麗な夕焼けだって自然が織りなす景観だし、それは別に遠くに行かなくても見られるものですよね。都会のアスファルトの道でも、ふと見ると、タンポポが力強く生えていたりして、びっくりすることがあります。そうした感動を大事にすることで、自然を身近に感じられると思いますし、生長の家が説く、『神・自然・人間は本来一体である』という、自然と調和した生き方にもつながっていくのではないかと思っています」

生き方の指針を求めて

 母親の和美さんを通して、生長の家の教えに触れた遠藤さんは、小さいころから和美さんに連れられて、講習会(*1)などにも参加していたが、宗教にはずっと拒否感を持っていた。

「高校時代は、人と自分を比べたりして学校にいくのが嫌になり、遅刻や欠席を繰り返していました。性格的に完璧主義なところがあり、何か失敗したりすると、自分を責め続けてしまうところがあったんです。教えに共感はしつつも、宗教に抵抗があり、10代から20代にかけては、生きる指針を求めてずっともがいていましたね」

 そんな状態から抜け出す転機となったのは、昨年(2019)の1月に生長の家宇治別格本山(*2)で行われた練成会(*3)に参加したことだった。

「母に、店を継ぐ気持ちがあるなら、練成会で教えを学んできなさいと言われたんです。将来のことを考えはじめた頃で、自分として、両親には心から感謝できていないという思いもあったので、両親への感謝とはどういうことかを学ぶためにも、一度本気で教えを学んでみようと思ったんです」

 練成会では、浄心行(*4)などを通して多くの気づきを得るなかで、「両親に対して深く感謝をすることができた」と話す。

「講話や体験談などが、心に深くしみ込んで、涙が止まりませんでした。『自分は素晴らしい生命を持った神の子なんだ』と気づけたことで、自分をいつも支えてくれた両親に、はじめて心から感謝できたんです。また、練成会の最後に、ある年配の男性の方から、『いろいろと手助けしてくれて、ありがとうございました』とお礼の言葉を頂いたんですが、『僕は大したことは何もしてないのに、なぜこんなに感謝してくれるんだろう』と感動して、涙が溢れてきたんです。言葉にはできないけれど、自分が探していたのはきっとこれなんじゃないかって、そのとき確信を持ちました」

目の前の光景に言葉を失う

 店で働くきっかけになった平成23年の東日本大震災は、遠藤さんにとって、自分の生活を見つめ直す機会になった。

生け花の先生でもある母親の和美さんと

生け花の先生でもある母親の和美さんと

「震災発生時、全国の信徒さんから送られてきた救援物資が、宮城県教化部(*5)に入りきらなくなり、まず母の実家に運んで、それを母と一緒に車で、気仙沼や南三陸の被災された方たちに届けに行ったんです。被災地の光景を目の当たりにしたときは言葉を失い、現実を受け入れられませんでした」

 当時、被災地に届ける救援物資でいっぱいになった和美さんの実家は現在改装中で、今後は誌友会(*6)を開催したり、地域の人たちが集まれる場として提供したいと考えている。

「震災を経て、本当にこのままの生活を続けてもいいのかと疑問を持ったんです。いま、世界中で異常気象なども頻発していますが、一人ひとりができることから始めることで、自然から奪うのではなく、自然に与え返す生き方をしていく必要があると強く思いました」

大切なのは愛を与えること

 遠藤さんは昨年(2019)9月より、生長の家宮城教区青年会(*7)の委員長として、教えを伝えていくことにも精力的に携っている。

「以前の自分は、愛を求めるばかりだった気がするんです。でも大切なのは、まず自分から愛を与えることなんですよね。すべての人を愛するとともに、自然にも愛を与えていくことの大切さを、これからもしっかりと伝えていきたいと思っています」

*1 生長の家講習会
*2 京都府宇治市にある生長の家の施設。宝蔵神社や練成道場などがある
*3 合宿して教えを学び、実践するつどい
*4 過去に抱いた悪感情や悪想念を紙に書き、生長の家のお経『甘露の法雨』の読誦の中でその紙を焼却し、心を浄める行
*5 生長の家の布教・伝道の拠点
*6 教えを学ぶつどい
*7 12歳から39歳までの生長の家の青年の組織