歌曲、オペラ、宗教曲、現代曲などのフランス音楽を主なレパートリーとするソプラノ歌手として、フランスをはじめ日本でリサイタルなどを行うほか、オペラにも出演している二枝由衣さんは、東京藝術大学声楽科を卒業後、フランス音楽を本場で学ぶため、単身パリに渡った。自己限定することなく、自分の直感を信じて世界に飛び出したことで道が開けたと語る二枝さんに、自由な心で生きることの大切さについて聞いた。

二枝由衣(ふたえだ・ゆい)さん/フランス・パリ/ソプラノ歌手・30歳 取材●中村 聖(本誌)/写真提供●二枝由衣さん

二枝由衣(ふたえだ・ゆい)さん/フランス・パリ/ソプラノ歌手・30歳
取材●中村 聖(本誌)/写真提供●二枝由衣さん

   現在パリに住み、ソプラノ歌手として活躍する二枝由衣さんは、音楽にふれたきっかけをこう振り返る。

「母がピアノとエレクトーンの教師をしていたので、小学校1年生からピアノを習い始めたんです。母がよくフランスの作曲家のドビュッシーやラヴェルなどの色彩豊かな曲をピアノで弾いていて、それを小さい頃から自然と耳にしていました。父からはギターの弾き方を教えてもらい、高校生の頃は仲間とバンドを組んだりもして、色々なジャンルの音楽に触れていましたね」

 長崎市で生まれ育った二枝さんは、高校時代までを同市で過ごした。

「小さい頃から歌をうたうのも好きでしたから、自分を表現したいという気持ちは子どもの頃から強かったと思います。音楽と同じくらい美術も好きで、風景画などをよく描いていました。小中学生の頃は、絵画コンクールで賞を頂き、美術の方面に進みたいという気持ちも実はあったんです」

 中学3年生になり、進路を考えたとき、美術の分野の進学先が掲載されたパンフレットで、東京藝術大学の存在を知った。

「パンフレットに、藝大生が描いたデッサンが載っていて、『こういう素敵な感性や才能を持った人達と一緒に勉強したい』と思いました」

 長崎市在住の声楽家のもとで、高校1年生の時から声楽を習っていた二枝さんは、音楽の道に進むことを決めた。

「その先生は私にとって第二の母とも言える方で、厳しいなかに常に愛情を持って接してくれました。音楽の道に進むと決めていましたが、同時進行で美術も勉強したいと先生に相談したところ、先生から『二兎を追う者は一兎をも得ず』と言われて、音楽の道一筋に進む決心がつきました」

直感を信じて、フランスへ

 高校卒業後は、上京して私立の音大に一時在籍しながら、音楽教師に師事した。その後、長崎に戻り、地元の声楽家などから、藝大受験の指導を受けつつ勉強を続けた。そして、難関と言われる東京藝術大学の音楽学部声楽科を受験し、合格を果たした。

研修で訪れたベルギーでの一枚

研修で訪れたベルギーでの一枚

「藝大に合格できたのは、先生方のご指導と、家族の支えの賜物であり、本当に感謝しています。大学では色んな国々の音楽について幅広く学びましたが、フランス歌曲や、フランスオペラなどのレパートリーが、歌っていて自分のなかで一番しっくりきたんです。もともと音楽だけでなく、美術や文学などのフランス文化そのものが好きだったということも大きかったですね。在学中はたくさんの個性的な仲間と出会い、私の人生における大きな財産になりました」

 卒業を控えた4年生の夏、ソプラノ歌手を目指してコンクールに参加するほか、様々なオーディションに応募しようとしていた二枝さんに転機が訪れる。

「その頃、長崎の恩師のレッスンを受けた際に、『横浜国際音楽コンクール』が8月に開かれることを、たまたま教室に置いてあったチラシで知り、参加してみようと思ったんです。外国人も参加する国際コンクールには初めての参加でしたが、声楽部門の大学生の部で第1位を受賞することができました。その数日後に、コンクール全部門の受賞者の中から1人選ばれる、フランス留学奨学生に選出されたとの連絡を受け、副賞として1年間フランスの音楽院で学べる機会も頂き、本当に嬉しかったです」

 平成25年3月に、東京藝術大学を卒業した二枝さんは、留学資金を貯めるため半年間アルバイトをした後、同年の8月、パリに留学した。

「それまでフランスで学びたいという漠然とした思いはあったものの、海外旅行の経験もあまりなく、フランスにツテもありませんでしたが、『フランスで勉強したい』と直感的に強く思ったんです。私自身、いつも直感を大事にしていて、不安もありましたが、来てみたらとても居心地が良かったので、思い切ってフランスに来て本当に良かったと思っています」

自分の世界が広がった

 パリでの最初の1年間は、フランス人の家庭にホームステイをしながら、パリ・エコール・ノルマル音楽院で学んだ。その後、ドビュッシー音楽院でオペラアトリエ、リュエイユ・マルメゾン音楽院で国家演奏家資格を取得した。当初はフランス語がほとんど話せず、片言のフランス語とジェスチャーでコミュニケーションをとっていたが、次第にパリでの生活に馴染んでいった。3年後、リヨン国立高等音楽院の修士課程に入学し、リヨンへと転居した。フランスでもトップクラスの音楽院といわれる同校を、今年(2019)の6月に首席で卒業し、現在はパリに戻り、パリとリヨンを拠点に音楽活動を続けている。

「学校には世界中から様々な国籍の方が集まっていたので、色んな価値観や音楽性に触れることができて本当に刺激的でした。みんな本当にオープンで、自分の考えや意見をはっきりと言いますし、感情表現も豊かなんですね。日本の社会のように空気を読むということはないんです。それに自分の故郷に誇りを強く持っていました。自分にすごく正直に生きている彼らと一緒に切磋琢磨したことで、『もっと自分らしく、自由に生きていいんだ』と思うようになり、世界がすごく広がったと感じています」

大胆さと繊細さの両方を大切に

 リヨン国立高等音楽院に在学中、リヨンとサンテティエンヌで上演された、ヴェルディ作曲のオペラ『椿姫』(フランス語版)などにも出演している二枝さんは、オペラの魅力についてこう語る。

リヨンの歌曲コンクールで歌声を披露する二枝さん。「声楽家は体が楽器なので、運動を したり、朝はヨガと瞑想を行うなど、体のメンテナンスを欠かさないようにしています」

リヨンの歌曲コンクールで歌声を披露する二枝さん。「声楽家は体が楽器なので、運動を
したり、朝はヨガと瞑想を行うなど、体のメンテナンスを欠かさないようにしています」

「私はオペラのように、色んな方と一緒に作り上げていく音楽が好きなんです。オーケストラと指揮者、演出家、舞台監督、メイクさん、衣装さん、大道具さん、舞台美術など、色んな専門家の方が集まって一つの作品を作り上げていくところが魅力ですね。舞台が無事に終わって、達成感をみんなで共有するときにすごく幸せを感じます」

 今年(2019)初めに南フランスで行われた国際オペラコンクールでは、フランスオペラのアリアを歌って第3位を受賞。また、ボルドーで行われたコンクールでは、歌とピアノのデュオ部門でラフマニノフ等の歌曲のレパートリーを演奏し、第1位に輝いた。

「ロシア語圏出身の友人に協力してもらい、ロシア語の発音を練習しました。審査員の方にロシア語圏出身の方がいて、『感動した』と言ってくださったのが嬉しかったですね。国や民族を超えて、その素晴らしさを共有できるのが、音楽の魅力だと思っています」

 昨年から今年まで、リヨン音楽大使として活動し、学校や病院、老人ホームなどで演奏をする機会もあったという二枝さんは、歌手としての自身の信念をこう語る。 

「尊敬する歌手の方の演奏を聴いていると、表現が自由で型に捉われず、スケールもとても大きいんですが、その一方で、発音や技術的な面はすごく丁寧に作り込まれて表現されているんですね。私も演奏をする上で、大胆さと繊細さの両方を大切にすることを、常に心がけるようにしています」

『日時計日記』で自分と向き合う

イタリアのベネツィアにあるフェニーチェ劇場にて

イタリアのベネツィアにあるフェニーチェ劇場にて

 生長の家を信仰する両親のもとに生まれた二枝さんは、小さい頃から生命学園(*1)や練成会(*2)に参加し、「人間・神の子」の教えを学んでいたという。

「母が家で母親教室(*3)を開いていたので、よく生長の家のお話は聴いていました。『甘露の法雨』(*4)をフランスにも持ってきて、お守りにしていつも持ち歩いています。ステージに立つ前には、生長の家で教えて頂いた、『わが魂の底の底なる神よ、無限の力湧き出でよ』という言葉をいつも舞台袖で唱えるようにしています。教会で歌わせて頂く機会もあるんですが、音楽と祈りはつながっていると思いますね」

 フランスに渡ってからは、『日時計日記』(生長の家白鳩会総裁・谷口純子監修、生長の家刊)もつけるようになった。

「直感でふと閃いたことや、こうなりたいという自分の理想の姿をこまめに書くようにしていて、書いているうちにアイディアもたくさん浮かんでくるんです。また、今日はこんな出会いがあったとか、その日にあった嬉しかったことや良かったことについて、感謝の言葉も書くようにしています。日記を書くことで自分と向き合えますし、心も前向きになれるんです」

音楽は世界共通語

 今後もフランスを拠点とし、多くの人に歌を届けていきたいという二枝さんはこう話す。

「音楽は世界共通語だなって思いますね。常に私はこの地球に生きる一人の人間でありたいと思っています。音楽は私にとって、まさに人生そのもので、音楽のおかげで様々な貴重な体験や出会いをさせて頂くことができました。これからも、より多くの方々と、音楽を通して素敵な時間を共有していけたらいいなと思っています」

*1 幼児や小学児童を対象にした生長の家の学びの場
*2 合宿して教えを学び、実践するつどい
*3 母親のための生長の家の勉強会
*4 生長の家のお経のひとつ