N.S.さん 三重県四日市市・30歳・会社員 取材●長谷部匡彦(本誌) 撮影●永谷正樹

N.S.さん
三重県四日市市・30歳・会社員
取材●長谷部匡彦(本誌) 撮影●永谷正樹

フラッシュメモリなどを製造する会社で、エンジニアとして試作品の開発などに携わっているN.S.さんは、中学生のときに、いじめを受けた経験があるという。どのようにして、いじめを克服していったのか、Nさんに話を聞いた。

「生長の家で『環境は心の影』と教えられているように、問題が解決したようにみえても、自分の心が根本的に変わらないと、同じような状況が現れてきてしまうんです。いじめられている時は難しいかも知れませんが、感謝の思いを持つことが大切なんです」

 小学6年の時、伯母を通して生長の家を知ったNさんは、中学生の時に参加した中高生練成会(*1)で、物事の明るい面を見る「日時計主義」(*2)の生き方を学んだことが、いじめを乗り越えるきっかけになったと振り返る。

「人には誰しも良いところが必ずあります。仮に相手がいじめの加害者で、人格の9割に問題があったとしても、残りの1割には、良いところがあるはずです。その良い所を見つけることができれば、相手に感謝することができると思うんです」

自分も相手も「神の子」として認める

 Nさんは、中学に入学してすぐの頃、クラスの中で少し目立つような行動をしたと思われたのがきっかけで、「でしゃばるな!」と周囲から邪険に扱われるようになったという。さらに、男子生徒達から、「同級生の女の子で、誰が可愛いか?」と聞かれて答えたところ、その女子生徒のプリクラを買うように強要された。

「お金を要求されて、どうしようもなくなり、担任の先生に相談したんです。その後、先生は同級生達を呼び出して注意をしてくれたので、その場は収まりました。でも、あとで『先生にチクった』と言われ、逆にいじめがひどくなったんです」

 いじめを受けるなかで、最も辛かったのは、「汚い、近寄るな」といった言葉を投げかけられたことだという。

「自分の存在を否定されたように感じて、本当に自信をなくしました。それでも心が折れなかったのは、人間は『神の子』であり、『現象世界の奥には、神が創られた善一元の完全円満な世界がある』と、練成会で学んでいたおかげだと思います」

 また、練成会に参加した際、高校生の先輩にいじめのことを相談すると、「大切なのは、周囲の人の良い所を見つけて感謝すること。環境は心の影だから、自分の心が変われば環境も変わる」と助言された。すぐには相手に感謝する気持ちにはなれなかったが、練成会に参加し続けるうちに意識が変わっていった。

hidokei143_rupo_2「自分だけでなく、いじめてくる相手も、本当は『神の子』なんです。だから、相手を心から憎むことはありませんでしたし、相手の良い所を見つけるように心掛けました」

 その後も、パシリ(使いっ走り)などをさせられることもあった。だが、そうした経験を通し、人間関係について学んでいるんだと捉えられるようになった、とNさんは話す。

「まだ自分を構ってくれるだけで、相手から必要とされているんだと、前向きに考えられるようになったんです。すると、相手にも優しい所があることがわかってきて、少しずつですが、感謝できるようになっていきました。そうすると相手から、『なにかあったら俺が守ってやるから』と言われるようになったんです」

 中学2年生の9月頃からは、以前のようないじめはなくなり、逆にいじめてきた相手とも仲良くなった。また、それまで話をしたことがなかった同級生とも交友関係がひろがり、充実した中学校生活を送ることができたという。

救いの手を差し伸べる

 高校に進学したNさんは、友人に誘われて、人権について学ぶ高校生のサークルに参加するようになった。そこでは、いじめられた経験を互いに打ち明け合ったり、部落差別や外国人差別の問題について調べて発表したりした。

「中学生の時にいじめを受けたという女の子が、『私はいじめられている人の気持ちが分かるので、将来は保育士になって、もしいじめられている子がいたら助けてあげたい』と話していたのが印象に残っています。その話を聞いて、自分もいじめられている子のために何かできることをしようと思いました」

 やがて社会人となり、過去にいじめを受けた辛い体験や、その問題をどのようにして解決したかを、中高生練成会で話したところ、いじめられている子どもやその親から相談を受けるようになった。

hidokei143_rupo_3「いじめに悩んでいる子に対しては、『可哀想に』と言わないようにしています。その子の辛い気持ちに寄り添ったうえで、『同じようにいじめられている人に、救いの手を差し伸べる使命があなたには与えられているんだよ』と、励ますようにしています」

 いじめてくる相手から、自分に対して偏った見方をされたり、酷い言葉をかけられたりすると、自分を否定してしまうようになりがちだが、「自分はだめな人間だ」と思い込まないことが大切だという。

「信頼できる人と一緒に、『自分は自分のことをどう見ているのか?』とか、『人は自分のことをどう見ているのか?』と、お互いに書き出してみることをお勧めしています。生長の家の『日時計主義』の教えを知っている人なら、自分の良い所を見てくれますし、自分が短所だと思っていたことが、実は人から見たら長所に思えることもあるんですよ」

 違う視点から、自分自身を捉えることで、自分の新しい可能性に気づくことがあるという。

自分の存在を否定しないで

 いじめられた経験を振り返り、「自分は生きている意味があるのか?」と考えて、自分の存在を否定することも、絶対にしないでほしいとNさんは話す。自分を否定する思い込みや、自分はだめだという決めつけが、自傷行為や自殺に繋がってしまうこともあるからだ。

「いじめのどん底にいるときは、心が悪循環に陥っているので、その状態から離れることが大切なんです。私の場合は、中高生練成会がいじめから心が離れる時間でした。温かい雰囲気とか、話を聞いてくれた先輩の存在が、とても大きかったですね」

 電話やカウンセリングを通して、いじめ相談を行っている窓口などを利用することも一つの方法だと話す。話を聞いてもらうだけで心が休まるとともに、気持ちを整理することもできるからだ。さらには、いじめ以外のことにも意識を向け、今いる場所だけがすべてではない、ということに気づくことが大切だという。

「新しい環境に身を置くことも一つの選択肢ですし、それは決して逃げることではありません。一時的な避難だと思って、相手を恨んだり、辛い経験を思い出したりすることなく、新たな環境で感謝の思いを心に描いていけば、きっと心が明るく変わっていくと思います」

 ノーベル平和賞を受賞したマザー・テレサの、「人間にとって最大の不幸は、自分が誰からも必要とされていない、誰からも愛されていないと感じること」という言葉に感銘を受けたというNさんは、最後にこう語ってくれた。

「自分を否定する言葉をかけられた時は、自分の存在そのものを否定されたように感じて、『どうせ自分は誰にも好かれない』と心の中で何度もその言葉を繰り返していました。だけど、それを止めることができたのは、『人間は神の子』という生長の家の教えがあったから。『私は素晴らしい神の子だ』と自分を無条件に認めることができれば、いじめも克服できます」

*1 合宿して教えを学び、実践するつどい
*2 日時計が太陽の輝く時刻を記録するように、人生において明るい面を見る生き方