
三好雅則(みよし まさのり)
生長の家本部講師。昭和24年生まれ。生長の家参議長。趣味は読書、絵画・音楽鑑賞、水彩画。
かつて仕事で訪れた無人駅で私は、妙な違和感を憶えた。時間の流れが遅いのだ。しばらくして、土地の人々の歩く速度が自分と比べて遅いからだと気がついた。
ところが、それから何年かして、また気づいたことがある。土地の人の歩くのが遅かったのではなく、私の身体に刻まれた生活のテンポがせわしかった、ということだ。
きっかけはミヒャエル・エンデの童話『モモ』。時間貯蓄銀行を名乗る「時間どろぼう」の口車に乗って、豊かな時間を盗まれて心の余裕をなくし、生活から生気が失われていく村人に、少女モモが時間を取り戻すという物語だ。その村人は、まさに私のことではないかと思ったのである。当時の私は、便利・快適・効率化によって物質的な豊かさを実現した現代文明そのままに、休日でさえ、効率よく予定をこなすことばかりを気にかけ、イライラしながら過ごしていたのだった。

イラストは筆者
臨床心理士として、脳性マヒや自閉症などの子どものパフォーマンス向上に成果を挙げているアナット・バニエル氏(*)は、「ゆっくり」は脳の注意をひき、活動量を増やし、経験を増幅させ、また感覚を鋭敏にするが、急いでいると、五官で感じるために必要な時間がなくなり、「存在する人」ではなく、「こなす人」になってしまうと指摘している。そして、活力や創造力を高める方法として、毎日少なくても10分間、お茶や散歩など、自分のできることにゆっくり没頭するよう勧めている。
もし「こなす人」になっているようなら、「存在する人」になろうではないか。
参考文献
●生長の家総裁・谷口雅宣著『凡庸の唄』(日本教文社)
●ミヒャエル・エンデ著『モモ』(岩波書店)
●アナット・バニエル著『動きが脳を変える』(太郎次郎社エディタス)
*=米国カリフォルニア州でアナット・バニエル・センターを運営、臨床心理士