海野妙子(うんの・たえこ)さん│70歳│静岡県富士宮市 「集中して描いている時は、何の雑念もなく、澄んだ心になれるんです」と、笑顔で語る海野さん 取材/久門遥香(本誌) 写真/堀 隆弘

海野妙子(うんの・たえこ)さん│70歳│静岡県富士宮市
「集中して描いている時は、何の雑念もなく、澄んだ心になれるんです」と、笑顔で語る海野さん
取材/久門遥香(本誌) 写真/堀 隆弘

スケッチを基にイメージを組み立てて絵を描く

 富士山の西の麓にある静岡県富士宮市に暮らす海野妙子さんは、野に咲く花や自ら育てた野菜、果物などを題材にした日本画を描いている。

inoti117_rupo_2 スケッチブックを見せてもらうと、蕾(ねぎ坊主)を付けた長ねぎや変わった形のかぼちゃ、タンポポの綿毛など、植物をさまざまな角度から観察し、その姿を繊細に捉えた絵がページいっぱいに描かれていた。

「家の周りをちょっと散歩するだけでも、描きたくなるものがたくさん出てくるので、今日は何が見つかるかなとわくわくします。まずは実物をよく見ることが大事ですから、気になるものがあればしっかりと観察した上でスケッチをし、それを基に、絵の制作に取りかかります」

 完成間近だと言って見せてくれた作品は、春先に白やピンクの小さな花を咲かせるハルジオンを描いたもの。透明感のある明るい青色を背景に、寄り添って咲くハルジオンの可憐な姿が描かれ、素朴で生き生きとした生命力を感じさせる。

「スケッチは実物をよく見て描きますが、作品にする時には、見たままを描き写すのではなく、スケッチの時に綺麗だと思った角度や形を組み合わせて再構成し、自分なりのイメージを作って描いていきます。ですから私の絵には、自分の心が大きく反映されていると言っていいと思います」

色を重ね合わせて美を表現する日本画に魅了され

 海野さんが日本画と出合ったのは、平成19年、その2年前に夫の仁さんと共に静岡市から現在の地に移り住んだ時だった。周りに知り合いも少なかったため、趣味として、もともと好きだった絵を習ってみようと思い立ち、近くの公民館で開かれている絵画教室で習うようになった。

 そこで初めて日本画に触れ、続けるうちに、画材や技法の面白さに引き込まれていった。

燃えるように咲くヒガンバナを描いた作品。色を重ねることで、奥行きや深みのある色彩が生まれる

燃えるように咲くヒガンバナを描いた作品。色を重ねることで、奥行きや深みのある色彩が生まれる

「日本画では、色同士を混ぜて塗るのではなく、一つ一つの色を重ねていくことで、全体の色彩を作り上げていくんです。場合によっては、下に塗った色が隠れて見えなくなってしまうこともありますが、そのお陰で上から重ねた色が美しく活きるんですね。自分は目立たなくても他の色を美しく引き立てる。そういう奥ゆかしさを秘めた日本画に魅力を感じるようになったんです」

 12年を経た今も、思い通りの色が出ず、何度もやり直したり、失敗することもある。しかし、そうして試行錯誤しながら絵と向き合う時間は、海野さんにとって、心が浄まり落ち着く、掛け替えのないひと時だという。

「描いている最中は、美しいもののみに心を集中しているためか、とてもクリアな状態になれるんです。そして、『どうすればこの花をもっと美しく描けるんだろう?』と、とことん考えることで、自分と花、もっと言うと自然との距離がより近づくような気がしてなりません」

ものの奥にあるいのちに目を向けることが大事

 身近にある植物を題材にして絵を描き続ける海野さんの根底にあるのは、「身の回りにあるどんなものにも美しいところがある」という生長の家の教えだ。中学生の頃、生長の家を信仰していた母親から伝えられ、高校生の時には青少年練成会(*1)に参加した。その後、白鳩(*2)会員となって教えの研鑽に励み、今に至っている。

「『目に見える世界の奧に、神様がつくられた完全円満な実相(*3)の世界がある』という生長の家の教えは、絵を描く上での大切な心構えであるばかりでなく、私の生き方の指針にもなっています」

ハルジオンのスケッチ(上)と、完成間近の作品(下)。細部までしっかり観察し、その花の美しさを見つけ出す

ハルジオンのスケッチ(上)と、完成間近の作品(下)。細部までしっかり観察し、その花の美しさを見つけ出す

 海野さんは、日本画を手がけるようになって、自然との関わり方にも変化が生まれてきたという。

「絵を描く前は、ぱっと見て、美しく咲いている花だけに意識を向け、ただ単に綺麗だなで済ませていたんですが、絵を描くためによく観察するようになると、枯れ葉や咲き終えた花など、どんなものにも美しさがあると気づくようになったんです。表面的な美しさだけではなく、ものの奥にあるいのちに目を向けることが大事だと感じられるようになったのは、教えを知っていればこそで、信仰と絵の両方からたくさんのことを学んでいます」

 植物と向き合い、その美しさを表現する絵の世界に浸ることによって、描く度に自然との一体感が深まっている実感があるという。これからの制作の目標を尋ねると、こんな意欲的な答えが返ってきた。

「いつか、毎日のように眺めている富士山を描いてみたいと思っています。見慣れていても、いざ描こうとするとなかなか難しいので、じっくり時間をかけて取り組んでいきたいですね」

 取材を終える頃、雲間から姿を見せた富士山を眺めながら語るその言葉を聞いて、海野さんの絵に対する想いが伝わってきた。

*1=合宿形式で生長の家の教えを学び、実践するつどい
*2=生長の家の女性の組織
*3=神が創られたままの本当のすがた