磯辺篤彦(いそべ・あつひこ)さん(九州大学応用力学研究所教授) 長年にわたって海洋ごみ(漂流・漂着ごみ)の研究を続け、ごみを海に捨てないための啓発に努めている磯辺さん(福岡県春日市にある九州大学応用力学研究所の研究室で) 聞き手/遠藤勝彦(本誌) 写真/髙木あゆみ      磯辺篤彦さんのプロフィール 1964年、滋賀県生まれ。88年愛媛大学大学院修士課程修了。九州大学助教授、愛媛大学教授などを経て、現在、九州大学応用力学研究所教授。理学博士。専門は海洋物理学。海洋プラスチックごみ研究の第一人者として知られ、環境省の研究プロジェクトや国際協力機構と科学技術振興機構の研究プロジェクトでリーダーを務める。国内では環境省・海岸漂着物対策専門家会議の座長、国外では国際科学会議・海洋科学委員会・海洋プラスチックごみ作業部会や国連環境計画・科学諮問委員会などの委員を歴任。著書に『海洋プラスチックごみ問題の真実 マイクロプラスチックの実態と未来予測』(化学同人)がある。

磯辺篤彦(いそべ・あつひこ)さん(九州大学応用力学研究所教授)
長年にわたって海洋ごみ(漂流・漂着ごみ)の研究を続け、ごみを海に捨てないための啓発に努めている磯辺さん(福岡県春日市にある九州大学応用力学研究所の研究室で)
聞き手/遠藤勝彦(本誌) 写真/髙木あゆみ

磯辺篤彦さんのプロフィール
1964年、滋賀県生まれ。88年愛媛大学大学院修士課程修了。九州大学助教授、愛媛大学教授などを経て、現在、九州大学応用力学研究所教授。理学博士。専門は海洋物理学。海洋プラスチックごみ研究の第一人者として知られ、環境省の研究プロジェクトや国際協力機構と科学技術振興機構の研究プロジェクトでリーダーを務める。国内では環境省・海岸漂着物対策専門家会議の座長、国外では国際科学会議・海洋科学委員会・海洋プラスチックごみ作業部会や国連環境計画・科学諮問委員会などの委員を歴任。著書に『海洋プラスチックごみ問題の真実 マイクロプラスチックの実態と未来予測』(化学同人)がある。

世界で年間約200万トンのプラスチックが海洋ごみに

──2016年、イギリスの登録慈善団体、エレン・マッカーサー財団が世界経済フォーラムと協力して作成した調査書によると、海に流れ込むプラスチックの重量は、2050年までに魚の量を上回るという衝撃的な報告がなされています。まず、海洋プラスチックごみ問題は、今どうなっているのか、その現状について教えていただけますか。

磯辺 2050年までに海に流れ込むプラスチックの重量が、魚の量を上回るという調査書は、正式な論文ではないので、その信憑性は定かではありません。しかし、海洋プラスチックごみ問題が危機的状況にあるというのは確かなことです。

 プラスチック製品が世界に出回り始めた1950年代から現在まで、世界には83億トンのプラスチック製品が供給され、その6割弱である49億トンが使い捨てのプラスチック容器や包装材として利用され、捨てられてきました。現在、世界では、年間3,000万トンのプラスチックが適正に処理されずに環境に流出し、そのうちの200万トン前後が川から海に流れ出て、海洋ごみになっていると試算されています。

 しかもその内訳を見ると、海洋起源のプラスチックごみ(漁業ごみ)は、個数比、重量比どちらも2割程度で、海に流出しているプラスチックごみのほとんどは、私たちが不用意に捨てたものなんですね。

──日本では、どういう現状にあるんでしょうか。

inoti139_rupo_2
磯辺
 日本では、2018年現在で年間約900万トンのプラスチックが廃棄されています。そのうち65パーセントは焼却され、再生利用は17パーセント、国外への輸出が10パーセント、残りの8パーセントが埋め立てされており、ほぼ完璧に回収、処理されているわけです。それでも、全プラスチック量のおよそ1~2%にあたる14万トンが未回収で、さらにその15~40パーセントが海に流出していると言われています。

 プラスチックの回収、処理については、世界のお手本となる日本でもこのような状況ですから、今や世界レベルでプラスチックの総量を減らさなければならない時期にきていると思います。

環境保全の観点に立つとプラスチックの利点が欠点に

──ご著書『海洋プラスチックごみ問題の真実 マイクロプラスチックの実態と未来予測』(化学同人)には、日本の海岸にたくさんの海洋ごみが漂着していて、そうした海洋ごみのほとんどはプラスチックごみと書かれていましたが。

磯辺 ええ。個数比でみると海洋ごみの7割はプラスチックごみです。

 ご承知の通り、プラスチックは、安くて軽くて丈夫、しかも腐食しないという優れた特質を持っています。安価なため誰でも手に入れることができますし、軽いプラスチックは加工しやすく、輸送コストも低い。また、腐食しないので食品を清潔に保存する包装材としての普及が進み、1980年代には、プラスチックの生産量が鋼鉄を追い抜き、人類にもっとも多用される素材となりました。

 そのため、私たちの日常にはプラスチック製品が溢れています。皆さんの机の上を見ても、携帯電話のケース、メガネのフレーム、パソコンの電源アダプター、ボールペンなど、数えればきりがありません。私たちは、そうしたプラスチック製品を湯水のごとく消費することで清潔で快適な生活を支え、捨て続けることによって現在の文明を維持しているわけなんです。

──しかし、プラスチックの利点は、地球環境の保全といった観点から見ると逆になってしまう?

磯辺 そうです。安価ということは、平気で捨てられるということですし、軽いということは、ひとたび捨てられれば遠くにまで運ばれやすいということです。また、腐食しなければ、いつまでもごみとして自然の中に残るわけですから、プラスチックの利点のすべてが欠点に裏返ってしまうんですね。

 そうした意味から、海洋ごみの7割がプラスチックごみなのは、当然のことではないかと思います。

日常生活から出たプラごみが微細なマイクロプラに変化

──最近の問題の一つに、マイクロプラスチックが増えていることがあると思います。マイクロプラスチックとは、どんなものなんでしょうか。

海に漂うプラスチックごみのサンプル

海に漂うプラスチックごみのサンプル

磯辺 海岸に漂着したプラスチックごみは、紫外線にさらされ、酸素や水に触れて次第に劣化します。そして海岸で波に揉まれ、砂と擦れて小さなプラスチック片に砕けていくわけです。その中で微細化が進行し、長さが数センチを下回ったプラスチックごみをメソプラスチックといい、5ミリを下回るものをマイクロプラスチックと呼びます。

 しかし、マイクロプラスチックは海岸で砕けたものだけではありません。海でマイクロプラスチックを採取すると、不定形のプラスチック片に混じって、自然には絶対できないような球形のプラスチック粒が出てきます。それはマイクロビーズと呼ばれるもので、化粧品などの中に混ぜ込まれているものです。

 日本では、このマイクロビーズについて2016年から化粧品メーカーによる自主規制が進んでいますが、それまでは数百マイクロメートル(*1)程度のポリエチレン粉末が、皮脂を吸い取るフェイススクラブ(*2)として洗顔剤に入っていました。それらが洗顔後に排水口から下水処理を通り抜け、海に流れ込んだんです。また、本来は屋内で使うべき発泡スチロールを屋外で使うと、砕けて小さな粒となって環境中に広がります。

 こうして日常生活の中から出たプラスチックごみが、川を通って海に流れ、先ほど言ったような経過を辿って、マイクロプラスチックに変化していくんです。

海洋プラ汚染を考える際に大切な3つの前提

──プラスチックごみ問題を考える上で、必要と思われることはなんでしょうか。

磯辺 海洋プラスチック汚染のような現代の環境問題を考えるにあたっては、3つの前提が必要だと私は考えています。

 1つ目は、地球の広さは無限ではないと認識するということです。地球を限られた資源しか持たない宇宙船に喩え、「宇宙船地球号」という言葉が生まれたのは1960年代のことですが、宇宙船という限られた空間の中にごみを捨てれば、そのうちごみで一杯になるのは分かりきった話です。まして、分解するのに数百年から数千年を要するプラスチックが、ひとたび自然界に廃棄されたら、そのまま地球のどこかに残り続けるわけです。

 ここで、海洋の生態系について考えてみると、海で死んだ生物は、主にバクテリアによって分解され、窒素やリンといった無機物に変化します。植物プランクトンは十分に光を浴び、この栄養塩と呼ばれる無機物を食べることで成長します。そして、植物プランクトンは動物プランクトンに食べられ、動物プランクトンは魚に食べられていつか死に、それがまたバクテリアによって分解されて栄養塩に戻っていく。こうした循環によって海洋生態系が維持されているわけですが、分解に長い年月を要するプラスチックは、この海洋生態系に組み込まれていないということが大きな問題なんですね。

 2つ目は、海岸に漂着したプラスチックごみなどによる景観汚染という問題です。人気がある海水浴場や風光明媚な海岸では、誰かが漂着ごみを片付けていることもあって、それほどごみが目立ちません。海岸清掃には人手も資金もかかるため、元が取れる海水浴場や海岸しか清掃できなくなってしまうんですが、それでいいのかということです。

 子どもや孫たちと、海水浴場や海岸に来たときのことを想像してみてください。海岸に大量のプラスチックごみがあったら台無しです。私たちは、本来なら子どもや孫たちが楽しめたはずの快適な空間を奪ってはいけないわけで、そのためにも、漂着ごみをきれいに清掃して次世代に引き継ぐ責任があるんです。

 そして3つ目は、生態系を含む自然のすべてに生存の権利を認めるということです。海洋プラスチックごみは、こうした大切な権利を奪い、海洋生物に大きな影響を与えているという認識を持つことが大切だと思います。

プラごみが海洋生物に与える影響「誤食」

──プラスチックごみが海洋生物に影響を与えていることについて、詳しく教えていただけますか。

磯辺 プラスチックごみが海洋生物に与える影響としては、①誤食、②絡まり、③外来生物の輸送、④汚染物質の輸送があげられます。

 まず「誤食」ですが、プラスチックごみや破片をよく誤食するのは海鳥です。海鳥は、ウミガメなどの他の海洋生物よりも、プラスチックごみを誤食した個体の発見率が高く、1980年代初頭には、北太平洋のハワイ諸島北西にあるミッドウェイ環礁で死んだアホウドリの消化管から109個に及ぶプラスチック片が発見されています。ちなみに、そのうちの108個のプラスチックの表面には、日本語の文字が書かれていたそうです。

 海鳥によるプラスチックごみの誤食について、2015年に発表された「米国科学アカデミー紀要」では、驚くべき予測がなされています。過去50年の調査によると、プラスチックごみを誤食する海鳥の種類は、全体の59パーセントに及び、2050年までには、海鳥全種類の99パーセントがプラスチックごみを誤食し、そのうちの95パーセントの胃袋からプラスチックごみが見つかるだろうというんです。

──背筋が寒くなる予測ですね。

磯辺 海鳥だけでなく、ウミガメやクジラ、オットセイなどさまざまな海洋生物による誤食も報告されており、食欲の減退や体長の縮小、消化管の損傷などの影響が出ています。レジ袋を餌と間違えて誤食しやすいウミガメは、たった2.5グラムのプラスチック片を誤食しただけでも、消化管に詰まらせて死ぬことがあるそうです。

 ただ、プラスチックごみの誤食は、海洋生物に何らかの悪影響を与えることはあるものの、今のところ、海洋生物の生息数を減少させたという証拠はありません。しかしそれでも、世界中の海鳥が体内にプラスチックごみを抱えて体調を崩すというようなことだけは、ぜひとも避けなければならないことだと思います。

プラごみが海洋生物に与える影響「絡まり」と「外来生物の輸送」

──②の「絡まり」についてはいかがでしょうか。

磯辺 ナイロンやポリエチレンといったプラスチックのネットや袋が生物に絡まる様子は、海岸や船から目視できるため、報告された個体数は、誤食が1万3,000例なのに対し、絡まりは3万例を超えています。

 プラスチックごみが生物に絡まったらどうなるかについては、容易に想像できると思います。傷ついて痛いし、喉に絡まれば息苦しいし、泳ぐこともままならなくなって餌が取りづらくなり、敵からも逃げにくくなります。それに、丈夫なプラスチック製のネットや袋などが生物に絡みつくと、体から離れにくくなってしまう。

プラスチックのネットや袋が海洋生物に絡まり、その生存に大きな影響を与える例が数多く報告されている(写真:iStock)

プラスチックのネットや袋が海洋生物に絡まり、その生存に大きな影響を与える例が数多く報告されている(写真:iStock)

 生存することで精一杯な海洋生物にとって、プラスチックを絡めて生きなければならないハンディキャップは、とてつもなく大きいものだと思います。

──③の「外来生物の輸送」についてはいかがですか。

磯辺 私は2016年の2月頃、オーストラリアのタスマニア島を出発して太平洋を縦断し、東京に至る長い航海を通して、洋上に漂うプラスチックごみの大規模な調査をしたことがあります。1カ月ほど経って小笠原諸島に辿り着き、船の周囲に漂う長さ30センチほどのプラスチック片を回収したとき、そのプラスチック片に、小ぶりの貝や藻類などが付着していることに気づきました。彼らは腐食分解せず、海面に浮く基盤となるプラスチックという船に乗って大海原を旅していたわけなんです。 

 赤道から温帯域までのさまざまな海岸で、漂着プラスチックごみの調査をしたところ、個数比にして最大で50パーセント程度に生物の付着が認められたとの報告があることからしても、地球の広い範囲で、プラスチックごみによる外来種の拡散が起きているのは確かなことだと思います。

──その具体例としては、どんなものがありますか。

磯辺 昆虫は地上でもっとも繁栄している生物ですが、長い進化の過程で、大洋だけには生育の場所を広げることができませんでした。唯一の例外がアメンボの仲間であるウミアメンボで、このウミアメンボと浮遊するプラスチック片の関係を調べたある研究によると、それほどプラスチック片が浮いていなかった1972年から73年の調査では、両者に相関関係は見られませんでした。ところが、プラスチック片の浮遊数が増えた2009年から10年の調査では、有意に高い相関関係が確認されたんです。

 プラスチック片が増えると、なぜウミアメンボの個体数が増えるのかというと、この調査では、プラスチック片に数多くのウミアメンボの卵が産み付けられているのが確認されていて、ウミアメンボにとっては頑丈で海に浮くプラスチック片は、これまでにない格好の産卵場所になっているんです。

 この例に限らず、プラスチックごみによる生態系への干渉は既に始まっていると言っていいと思います。

プラごみが海洋生物に与える影響「汚染物質の輸送」

──④の「汚染物質の輸送」については、どうでしょうか。

磯辺 プラスチックそのものに毒性はありません。しかし、プラスチックは長く海を漂ううちに、海中に薄く広がっている汚染物質を表面に吸着させていくんです。プラスチックは石油で作られているため、油と似た性質を持つPCB(ポリ塩化ビフェニル)などの残留性有機汚染物質と相性がいいことで知られています。

inoti139_rupo_5 このPCBは、絶縁性、耐熱性に優れた物質で、かつては工業製品に多様されていましたが、強い毒性(慢性的には生殖障害や発がん性、短期的には皮膚の異常や腹痛など)が確認されて、現在の日本では新たな製造、販売が禁止されています。 

 それでも、これまで環境中に漏れたPCBが、今も海水中や海底に溜まっているんです。実際に日本の沿岸では、海水1リットルあたり数百ピコグラムのPCB濃度が検出されています。

 これが、ただちに海洋生物や人体に影響を与えることはありませんが、海水中に漂うプラスチックごみの表面には、薄く広がったPCBなどの汚染物質が、油のようにプラスチックに吸着しているのは確かです。こうした汚染物質を吸着したプラスチックごみを、海鳥などが誤食するわけです。

改良を重ねなければならない生分解性プラスチック

──海洋プラスチックごみの危険性が指摘されている中で、今、生分解性プラスチックが注目を集めていますが。

磯辺 生分解性プラスチックとは、環境中でバクテリアの作用によって分解し、二酸化炭素や他の無機物に変わるプラスチックのことです。生物から作られるものもあれば、石油からできる場合もありますし、今出回っているものとしては、植物由来のポリ乳酸が知られています。

 では、生分解性プラスチックが従来のプラスチックの代わりになるのかというと、そう簡単ではないというのが現状です。国連環境計画(UNEP)が2015年に出版した報告書(ピーター・ジョン・カーショウ著)では、「生分解性プラスチックは、海洋ごみを減らす上で、さほど重要ではない」という厳しい評価が下されています。

 ここで指摘された問題の1つは、生分解性プラスチックは限られた条件の中で分解するもので、自然の中では分解しずらいということです。先ほど紹介したポリ乳酸は、堆肥のような高温多湿の条件下に置くことで初めて分解が進むため、海での分解はもともと想定しておらず、海洋のプラスチックごみの削減には繋がらないんです。

 問題の2つ目は、この生分解性プラスチックも海に流出すれば、いずれマイクロプラスチックになり、既存のプラスチックと同じように汚染物質が吸着して、海洋生物が誤食してしまう危険性があることです。

 また、生分解性と書かれた製品であれば、屋外に捨てることへのハードルが下がり、平気で捨てる人が増え、結局、今より海洋ごみが増えてしまう懸念があることも、3つ目の問題点として指摘されています。

 いずれにせよ、生分解性プラスチックが実際に使われるようになるには、改良に改良を重ねなければならないということだと思います。

使い捨てプラスチックの削減リデュースへと舵を切る

──海洋プラスチックごみを減らすためには、何をすればいいとお考えですか。

磯辺 使い捨てプラスチックを削減するリデュース(reduce)へと舵を切るしかないと私は考えています。

2020年に発刊された著書『海洋プラスチックごみ問題の真実 マイクロプラスチックの実態と未来予測』を手に

2020年に発刊された著書『海洋プラスチックごみ問題の真実 マイクロプラスチックの実態と未来予測』を手に

 2019年に開催された「G20大阪サミット」では、2050年までに追加的な海洋プラスチック汚染をゼロにすることが合意されました。発展途上国を交えた初めての合意は高く評価されるべきでしょうが、これはまだ出発点でしかありません。追加的な海洋プラスチック汚染をゼロにするというのは、目標として曖昧ですから、やはり環境中に漏れるプラスチックごみの削減に数値目標を定めるべきです。そのためには、社会に出回るプラスチックの総量の削減が必須ですから、今後は科学的な証拠に基づいた削減計画への合意が必要だと考えます。

 だからといって、使い捨てプラスチックのすべてを使用禁止にすることはできません。それでは極端な予防原則となって、違うリスクを生む危うさがあるからです。

 法規制が徹底されて、使い捨てプラスチックが禁止された世界を想像してみてください。清潔で安全な水を入れたペットボトルがなくなれば、汚染された水を飲んで病気になってしまう人も出るでしょうし、安価で清潔なプラスチックによる食品包装がなくなると、安心して食事ができなくなるかもしれません。

 安価なプラスチックは、どんな人にも平等に、安全で快適な暮らしを提供してくれるものです。ですから、これをなくしたら経済的な弱者ほど負担が大きくなるわけで、弱者に負担を強いて環境問題を解決するなどといったことがあってはならないと思います。

一人ひとりが削減に取り組む。これが大きな力となる

──やはり私たち一人ひとりが、できるだけプラスチックを使わないようライフスタイルを転換していくことが必要なんですね。

磯辺 おっしゃる通りです。このままプラスチック製品を使い続け、捨て続ければ、決して明るい未来が待っていないことは確かです。しかし、私は悲観はしていません。むしろプラスチックの削減に挑戦できることにやりがいを感じ、一市民としてライフスタイルを変えることを楽しんで行いたいと思っています。

 私たち一人ひとりが出すプラスチックごみが積み上がって、今、大きな環境問題になっているわけですから、逆に言えば、一人ひとりがプラスチックを削減することが大きな力となって、やがて問題の解決に繋がっていくんです。ですから、レジ袋を避けてエコバッグを持参するといった、身近でできることから取り組んでいただくのが一番だと思います。

 製造や流通の過程で、どちらがエネルギーを使うかは議論の分かれるところですが、エコバッグがマイクロプラスチックになりにくいのは確かですし、レジ袋のように海岸に散らばるエコバッグなど見たことがありません。それを考えれば、エコバッグがレジ袋より環境に優しいのは間違いありません。そのような小さな積み重ねが、プラスチックごみのリデュースを推進する力になると信じます。そして、そうした努力を次世代の人々に引き継いでいかなければならないと思います。

 最後に、イギリス出身の作家で、科学者でもあったアーサー・C・クラークが提案した「クラークの3法則」を紹介します。

 「高名で年配の科学者が可能であると言った場合、その主張はほぼ間違いない。また不可能であると言った場合には、その主張はまず間違っている。可能性の限界を測る唯一の方法は、その限界を少しだけ超越するまで挑戦することである」2021年7月6日、インターネット通信により取材)

*1=長さの単位の一つで、1メートルの100万分の1
*2=微細な粒子で、顔の古い角質などを取り除いてくれるアイテム