三好雅則(みよし まさのり)  生長の家本部講師。昭和24年生まれ。生長の家参議長。趣味は読書、絵画・音楽鑑賞、水彩画。

三好雅則(みよし まさのり) 
生長の家本部講師。昭和24年生まれ。生長の家参議長。趣味は読書、絵画・音楽鑑賞、水彩画。

 朽ちた木や倒木に網状の管構造が広がっているのを見たことがあるだろうか。それは、単細胞生物(*1)の一種である粘菌(ねんきん)(*2)だ。

 約40億年前に地球に出現した粘菌は、「菌」と名づけられてはいるが、菌類(カビやキノコ等(*3))ではない。自ら動き回ってバクテリア(*4)を捕食して分裂・増殖し、相性のいい仲間と接合して巨大化(変形体と呼ぶ)、単細胞のまま1メートルを超えることもある。

 が、環境が悪化(飢餓、乾燥等)すると変身して胞子をつくり、条件が整うと胞子から出て動き回り繁殖し続ける。粘菌は、動物とこうした植物の性質を併せ持つアメーバ(*5)の仲間だが、粘菌を研究している中垣俊之氏(*6)は、多くの実験を通して、この粘菌が迷路を解いてしまうことを明らかにした。

イラストは筆者

イラストは筆者

 具体的には、迷路に粘菌をおき、全体に広がったところで、粘菌を空腹状態にし、迷路の2カ所に餌を置く。すると、まず①「行き止まりの経路」から体を引き上げる(速度は1時間に1センチほど)。次に「餌に繋がっている経路」のうち、②餌までの距離が長い経路からも体を引き上げ、結局、③餌場を最短距離で結んでしまう。餌を効率的に摂取できるように体の形を変えるのだ。

 粘菌の賢さはこれだけに留まらない。2カ所両方の餌を増やして一定量を超えると、最短で結んでいた経路からも体を引き上げて2つに分裂してしまう。「たっぷり餌があるから、餌場を繋いでいなくても大丈夫」というわけだ。

 こんなことを脳も神経もない、単細胞の粘菌がやってのけてしまう。いのちに秘められた不思議な叡智に驚くばかりではないか。

*1=1つの細胞で構成されている生物
*2=真性粘菌(変形菌)のこと
*3=菌糸で形成され、葉緑体を持たず胞子で増え、他の生物から有機物を得て生きる、細胞核を持つ真核生物
*4=細胞核を持たない単細胞の微生物(原核生物)。細菌など
*5=自ら運動する単細胞生物
*6=北海道大学電子科学研究所教授。粘菌の迷路解きでイグノーベル賞(「人々を笑わせ、考えさせる業績」に対して贈られる賞)を2度受賞

参考文献
●生長の家総裁・谷口雅宣著『大自然讃歌』(生長の家)
●中垣俊之著『粘菌 その驚くべき知性』(PHPサイエンス・ワールド新書)、『粘菌 偉大なる単細胞が人類を救う』(文藝春秋)他