大橋美樹子さん(60歳)東京都町田市 愛犬の、ののちゃんが気持ちよさそうに、ミシンの音に耳を傾ける 取材/原口真吾(本誌) 撮影/堀 隆弘

大橋美樹子さん(60歳)東京都町田市
愛犬の、ののちゃんが気持ちよさそうに、ミシンの音に耳を傾ける
取材/原口真吾(本誌) 撮影/堀 隆弘

下手の横好きがいい

 寒さが少し和らいだ冬晴れの朝、東京都町田市の住宅街にある大橋美樹子さん宅を訪ねると、大橋さんは柔らかな笑顔で出迎えてくれた。リビングでは愛犬の、ののちゃんがひなたぼっこをしている。小型犬のため寒さに弱く、冬は大橋さんが編んだスカート付きの服を着て散歩に出かけるという。

「毛糸で服の部分を編み、若い頃愛用していたマフラーをスカート部分にリメイクして縫い合わせました。図面の引き方はよく分からなかったので、編み途中のものを直接体に当てながら、『もうちょっと大きくかな?』なんて(笑)。ののも気に入っているみたいで、嫌がらずに着てくれるんですよ」

 大橋さんの言葉に応えるように、ののちゃんがその場でくるりと回ってみせる。

「愛着のあるものを、もう一度生かせるのがリメイクの魅力」と大橋さんは話す。姉からの贈り物のカーディガンは、布貼りをしてトートバッグに生まれ変わった。夫は仕事でワイシャツを毎日着用しており、頻繁に買い換えるのでもったいないと思い、古いワイシャツをリメイクしてかっぽう着を仕立てることにした。

 大橋さんはSNIクラフト倶楽部(*1)のメンバーで、出来上がった作品はSNSのフェイスブック上にあるSNIクラフト倶楽部のページに投稿した。このページには、環境に配慮した倫理的な生活や表現活動を行っている全国のメンバーが、自然素材のクラフトやリメイク作品を数多く投稿している。

「投稿したら、作り方の問い合わせがたくさん寄せられ、図面も描いて投稿しました。元のワイシャツの生地が良いので、肌触りが良いんですよ」

上:マフラーをリメイクしたスカートが女の子らしい、お散歩用の服/下:姉から贈られたカーディガンは、かわいいトートバッグに生まれ変わった

上:マフラーをリメイクしたスカートが女の子らしい、お散歩用の服/下:姉から贈られたカーディガンは、かわいいトートバッグに生まれ変わった

 子どもの頃から手仕事が好きで、小学校4年生の時に夏休みの作品作りで人形を縫った時は、母親の手を借りずに一人で作り上げた。ただ、出来上がった人形は縫い目が全部表に出ていて、後で先生に笑われてしまったという。大橋さんは「とにかく、自分でやってみたかったんです」と、はにかみながらも満足げに話す。何でもやってみたいという好奇心は今も持ち続けていて、本屋ではよく手芸のコーナーを覗いて、趣味の幅を広げている。

 編み物や縫い物の他にも、ちぎり絵や日本画など、さまざまな趣味に挑戦してきた。続かなかったものもあるが、「下手の横好きでもいい」と思えるのは、谷口雅宣・生長の家総裁の長編詩『凡庸の唄』(日本教文社刊)を読み、横方向に意識を広げる「凡庸の視点」の大切さを知ったからだという。

「凡庸の好きな言葉──/下手の横好き。/何事にも興味をもって当たること。/関心を横に拡げることで/世界の広さ、/物事の豊かさ、/人々の多様性、/社会の許容量が実感できる」(20〜21ページ)

 興味のある物がたくさんあるから、頭の引き出しが多くなり、皆にいろいろなことを教えられると気がついた。

庭で採れた自然素材でクラフトを作る

 大橋さんは毎月、自宅で生長の家の教えを学ぶ誌友会を開いていて、その広い知識を生かしてブローチ作りや、ちぎり絵、絵手紙作りなどを企画している。参加者からも「色々なことをやってくれて嬉しい」と好評で、中でも思い入れが強いものは、植物のツルを使ったカゴ編みだ。

夫のワイシャツをリメイクしたかっぽう着を身につけて、台所に立つ大橋さん。「皆さんから褒めてもらい、嬉しいです」

夫のワイシャツをリメイクしたかっぽう着を身につけて、台所に立つ大橋さん。「皆さんから褒めてもらい、嬉しいです」

 昨年の5月下旬、庭のナツツバキの木に、ツルががんじがらめに絡みついているのを見つけた。夫と一緒に庭の草取りをしたが、刈ったツルの山を前にして、このまま捨ててしまうのはもったいないと感じたという。ふとアケビのツルを使ったカゴ作りについて本で読んだことを思い出し、このツルで作れないだろうかと考えた。

 ツルは風通しのいい室内で陰干しし、一カ月ほどかけて乾かした。その後、一晩水に浸けて柔らかくしてから、カゴを編んでいった。

「編む際に自分の感性を生かせるのが楽しかったです。ツルなんて山に行かなければ手に入らないと思っていましたが、まさかこんな都会にあるなんて。意識して目を向ければ、いくらでも素材になるものは見つかるんですね」

 残ったツルを使って、誌友会でも参加者と小さなカゴを編んだが、ツルを水に浸ける時間が短かったため、皆で「固い〜」と言いながら作った。だが、そんな時間も賑やかで楽しく、ハプニングがいいアクセントになった。

 出来上がったカゴは皆がそれぞれ持ち帰り、中に花瓶を入れ、花を飾ったりして楽しんでいるという。庭にはツルの根が残っており、今年もツルを収穫できるのではと楽しみにしている。

 大橋さんのもの作りの根底には「物のいのちを生かしたい」という思いがあり、生長の家の教えを伝えてくれた母親がいつも言っていた「何でも大切にしなさい」という言葉が、今も耳に残っている。

「谷口輝子先生(*2)は、『物、物にあらず、神のいのちの現れである(中略)/有機物も無機物も一切の物のいのちを/永持ちするやうに心がけること/一切の物は神からの預りものである』(『こころの旅路』(谷口恵美子編著、日本教文社刊)208ページ)と説かれました。手作りは手間がかかっても心がこもっているし、物を使い切ると、何より気持ちがいいんです。都会で生活する中で、いつの間にか何でも買えるような気持ちになっていましたが、リメイクを意識するようになってから、自分の手を使って作ることの大切さに改めて気がつきました」

人も環境も喜ぶ手作り

 昨年は苗から育てたヘチマで食器洗い用のたわしを作った。台所用スポンジから出る細かい破片が排水と共に海に流れ出て、マイクロプラスチック問題として、海を汚染する一因となっている。環境のためを思って始めたことだったが、すくすくと育つ苗が愛おしく、環境に貢献したという達成感とともに、育てる喜びも味わえた。収穫したヘチマの実から種を採ったので、今年は種まきから挑戦するつもりだ。

お手製のカゴに花を生けて楽しむ

お手製のカゴに花を生けて楽しむ

 パート勤めをしている学童保育の行事では、玉ねぎの皮で染めものをしたことがあり、子どもたちは白いTシャツを持ち寄って染めた。大橋さんは白の長袖シャツを染め、さらにそのシャツを縦に絞って、藍染めで模様をつけた。想像以上に鮮やかに染まり、シミになってしまったシャツもきれいに生まれ変わると思うと嬉しくなった。

 気候変動を肌で感じるようになった現在、将来の地球環境を思うと不安になることもあるという。そんな中でも、環境を守るための行動は決して四角四面なものではなく、趣味を楽しみながらできるということを、大橋さんの生活から感じられる。

「地球環境の役にも立っていると意識すれば、手作りはもっと楽しくなると思います。次の時代を生きる子どもたちのために、足元からできることの一つがクラフトなんです」

 大橋さんの作品には、物のいのちを生かす喜びだけでなく、未来への想いも込められている。

*1 生長の家が行っているPBS(プロジェクト型組織)の一つ。他にSNI自転車部、SNIオーガニック菜園部がある
*2 生長の家創始者・谷口雅春師の夫人。昭和63年昇天