
山本晴美さん(67歳)愛媛県大洲市
取材/原口真吾(本誌) 撮影/髙木あゆみ
家庭菜園の楽しさ
愛媛県の西部、大洲市の山間の町にある山本晴美さんの自宅の庭では、緑が少しずつ濃くなる5月を迎え、ツツジ、シャクヤク、オオデマリ、ショウブが次々と咲き、その片隅に置かれた苗床からは、カボチャや空芯菜などが小さな芽を出していた。

「霜に当たってほとんど枯れていたキュウリが、見事に復活しました」
「これから生長していく姿が見られる種蒔きや苗の植え付けは、畑をしていて一番好きな作業です。スーパーでは見かけない珍しい野菜も、家庭菜園ならお好みのまま。最近育て始めた黒うりは、粕漬けにしてもほどよい歯ごたえが残って、お気に入りなんです」
そう言って、山本さんは自宅のすぐ横にある6畳ほどの「お助け菜園」を見せてくれた。ここではトマトやピーマン、ナス、ネギなど、普段使いの野菜を少しずつ栽培している。
「ちょっと食材が足りないというときに、ピンチを救ってくれるのが『お助け菜園』です。お財布に優しく、市場とは違い、輸送にかかる二酸化炭素の排出がありませんので、環境の保全にも貢献できるんですよ」
市内の山間部で生まれ育った山本さんは、山で拾った椎の実を炒って食べたり、レンゲ畑の中で寝転がって遊んだりして育った。小学生の頃、祖母と一緒に月明かりの下、家で飼育している牛のために草を集めていたときに、月や星々を見上げて感じた天体の美しさと不思議さは、今も心に刻まれている。
高校を卒業後、愛知県豊田市にある会社に就職したが、生まれ育った環境が恋しくなり5年後に帰郷した。25歳の時に同じ町に住んでいた兼業農家の菊雄さんと結婚し、二男一女の母となった。現在は菊雄さんと義母との3人で暮らし、夫婦で野菜や米、果樹を育てている。
「家庭菜園で育てた旬の野菜は歯ごたえがしっかりしていて、野菜本来の甘さがあります。それに、完熟してから収穫するので、栄養も満点です。特にトマトは、子どもの頃に食べたトマトの味そのままでびっくりしました」
全ては神のいのちの現れ
イノシシやハクビシン、カラスなどに、せっかく育てた野菜を食べられてしまうことも多い。しかし、「人間と違って、動物は命がかかっていますからね」と、山本さんは大らかに話す。

夫の菊雄さんが設置したニホンミツバチの巣箱。昨年は2升5合の蜂蜜が採取できた
柵を厳重にするのではなく、動物が食べないヤーコンやキクイモなどを栽培する。また、違う種類の植物を混植することで、病害虫の発生を抑えたり生長を助けたりする「コンパニオンプランツ」を活用し、例えばトマトの苗の間に、センチュウなどの害虫を遠ざけるマリーゴールドやネギを植える。さらに、苗の間隔を広くとって野菜をのびのびと育てている。そうして野菜と動物、虫が適度な距離を保ち、自然な共生を促す工夫をしている。
刈った雑草や道路の落ち葉を堆肥としてすき込んだ無農薬・無化学肥料の畑には、庭に設置した巣箱からニホンミツバチが蜜を集めに訪れ、野菜の受粉を助けてくれる。今年の4月からは、シイタケの原木栽培にも挑戦中だ。
収穫した野菜は生長の家の教化部(*1)に持って行き、信徒仲間に配り、合宿形式で教えを学ぶ練成会用の食材としても提供している。
「やっぱり皆さんに喜んでもらえるのが、一番のやりがいですね。自分が納得した方法で育てた安心・安全な野菜を、大切な人に差し上げられることが何より嬉しいんです」
山本さんは平成10年、病院の待合室で『白鳩』誌を手にしたことから生長の家の教えに触れた。その中にあった同じ大洲市内に住む女性の手記を読んで心が惹かれ、電話帳を頼りにその方の家を訪ねたところ、練成会への参加を勧められた。
初めて参加した練成会では「人間は神の子で本来完全円満。不幸や不完全に見えることは、心が映し出した影で、実在ではない」という教えが心に響き、誌友会(*2)にも参加するようになった。山本さんの自然との触れ合い方に愛の深さが感じられるのは、「全てのものは神のいのちの現れであり、神・自然・人間は本来一体である」という生長の家の教えが、心にしっかり根を下ろしているからだろう。
SNSで広がる喜び
山本さんは、地球環境に負荷をかけない倫理的なライフスタイルを実践する生長の家のプロジェクト型組織の一つ、「SNIオーガニック菜園部」(*3)に所属しており、そのフェイスブックグループに畑の様子などを投稿している。今年の春先に、フライパン一つで作る、「ソラマメのあんこ入りヨモギ団子」を投稿したところ、多くのメンバーから好評だった。
「愛媛ではソラ豆のことをコヤ豆と呼ぶんですが、東京に住んでいる愛媛出身の方から『コヤ豆! 懐かしい~』なんて反応があったりして、フェイスブックは全国のメンバーと喜びが共有できるのが魅力ですね。それに、野菜作りのノウハウも学べるので、とても役に立っています。最近、竹炭が土壌の改良に良いと知って、畑にすき込むようになりました」
自宅の畑を会場にしたミニイベント(*4)も度々開催しており、昨年の11月末には、午後3時から市街地に住む信徒仲間を中心に集まり、キクイモやヤーコン、サトイモ、ユズなどの収穫体験を行った。そのときは11月になってもトマトが実をつけており、自然の不思議さに皆で感じ入ったという。また、ヘチマたわし作りでは、1本の苗から採れた、1つ70センチもある巨大なヘチマ30個が皆を驚かせた。
「無農薬・無化学肥料の畑では、土の中に多くの微生物がいて、栄養豊富で地力があるんでしょうね。土壌自体がふかふかになってきたような気がします」

左/菊雄さんと仲睦まじく午後の休憩 右/立て札に書いた真理の言葉で動物との調和を祈る
山本さんの畑には、毎年種を継いで大切に育てている大根がある。それは、何十年も前に道ばたの草むらで見つけた野生化した大根だという。試しに食べてみると、4月だというのに食べ頃を過ぎてなく、みずみずしさに驚き、自宅に持ち帰ったのが始まりだった。
「種を継いでいくことで、その土地の気候に適した性質が受け継がれていきます。地産地消には、その土地で育った野菜の種を継いでいくことも大切ではないかしら」
毎朝夕に畑の様子を見に行かないと、落ち着かないという山本さんは、太陽と雨、そして風の働きによって日々変化する果樹や野菜に、自然の摂理を強く意識するようになった。
「日光が充分に当たると、野菜やお米も甘くなるような気がします。でも晴天ばかりだと植物はしおれてしまいますが、そんな時に恵みの雨が降ると、見違えるように元気になるんです。だからお天道様にも雨にも感謝ですね。私たちを生かしてくれる自然の恩恵を身近に感じると、自然の働きのすべて、そしてその背後にある神様の愛に、感謝の思いが湧いてきます」
山本さんの愛情をたっぷり受けて、畑の野菜はおおらかに生長していた。
*1 生長の家の布教・伝道の拠点
*2 教えを学ぶつどい
*3 SNIオーガニック菜園部は、生長の家が行っているPBS(プロジェクト型組織)の一つ
*4 「倫理的な生活」の意義を伝えるために、生長の家のプロジェクト型組織のメンバーが開催するイベント