秋田志穂さん (53歳) 富山県南砺市 取材/多田茂樹 撮影/堀 隆弘

秋田志穂さん (53歳) 富山県南砺市
取材/多田茂樹 撮影/堀 隆弘

 石川県金沢市に住んでいた秋田志穂さん夫婦が、県境を越えた富山県南砺市の自然豊かな地に、自然食カフェ「YUINOTE histoire(ユイノテ イストアール)」を開いたのは、昨年(2021)12月だった。きっかけは思いがけない縁からだったが、ずっと『日時計日記』(生長の家白鳩会総裁・谷口純子監修、生長の家刊)に書き続けた切なる願いの成就でもあった。

「2018年5月の連休中に南砺市を訪れた際、道の駅で無農薬・無化学肥料のお米に出合ったのが、この土地とのご縁の始まりでした。その時は30キロ買ったんですが、あまりのおいしさに、すぐ食べ切ってしまったんです」

 それから何度か買い付けに通ううちに、土地の人と仲良くなったという。

「『この土地のお米はおいしいですね』と言うと、『じゃあ、作ってみる?』と言われ、『いいんですか?』と大喜びしているうちに、『ここでやりなよ』と田んぼを貸してもらえました。金沢から通うのも大変なので、『空き家はありませんか?』と聞くと、『あるよ、ここ』と紹介され、その場で即決したのが、今このお店になっている民家です(笑)」

 無農薬米や野菜、山菜をメインに使った自然食メニューと手作りケーキが評判を呼び、地元紙などの取材が相次いだ。様々なメディアで取り上げられたこともあり、店はいつも予約で一杯だという。

上/古い民家を改築して作った「ゆいのて」 中/この日のランチメニュー。米も野菜も山菜も、すべて地元産の無農薬・無化学肥料のもの 下/羽釜炊きのご飯は好評。窓からはきれいな庭を望むことができる

上/古い民家を改築して作った「ゆいのて」 中/この日のランチメニュー。米も野菜も山菜も、すべて地元産の無農薬・無化学肥料のもの 下/羽釜炊きのご飯は好評。窓からはきれいな庭を望むことができる

「これといった宣伝もしていないのに、アレルギーを持っている方や病み上がりの方、アスリートなど、いろいろな方々が来て下さいます。近所のお母さんたちも毎日おしゃべりに来てくれるし、農閑期は農家のおばあちゃんたちで一杯です。そんなわけで、いつも忙しくさせていただいているんですよ」

『日時計日記』を毎日書き続ける

 秋田さんが『日時計日記』を書き始めたのは、祖母から生長の家の教えを伝えられたことがきっかけだった。

「子どもの頃からいつも祖母に、生長の家の良い言葉をかけてもらっていました。結婚後、子育てなどで思い通りにいかないことがあって悩んでいた10年前には、親戚が誌友会(*1)に誘ってくれて、『人間は神の子で、どの子も神様のいのちを宿して生まれたすばらしい神の子だから、子育ても神様にお任せしていれば大丈夫』と助言をいただき、もう大丈夫という気持ちになれたんです」

 その後、石川県教化部(*2)に3年ほど勤め、さらに介護の仕事に転じた。

「当時、親戚が次々にがんで亡くなって、大好きだった祖母も亡くなってしまいました。この時の喪失感は大きかったんですが、逆にお年寄りの介護という形でお役に立ちたいという気持ちが強くなって、体にいい自然の食べ物を作ることも勉強して取り入れながら、介護の仕事を始めたんです」

 ところがちょうどその頃、夫が失業してしまった。2014年12月のことだった。

「その時はショックでしたが、教化部に勤めていた頃から『ピンチはチャンス』と聞いていましたから、『これはもう、良いことが起きる前触れなんだ』と直感しました。そして『昔から夫婦で持ちたいと願っていたお店を開くチャンスだ!』と思ったんです」

 その頃、『日時計日記』に良いことを書き続けていると、必ずその通りになるよ、と生長の家の仲間から勧められたこともあり、さっそく2015年版を購入して年初から書き始めた。

「子どもの頃から日記をつけるのが大好きで、書くことは全然苦にならないんです。前からノートを日記代わりにしていろいろなことを書いていたんですが、『日時計日記』はとてもしっくりきたので、毎日書き続けました」

 生長の家では、良き願いはすべて神によって創られた「実相(*3)の世界」で既に実現しており、それがやがて現象界にも現れると説き、「神に祈る時は、『既に得たり』として祈れ」と教えている。秋田さんも「既に開店しました。ありがとうございます」と書き続けてきた。

 秋田さんの過去の『日時計日記』を見せてもらうと、

〈父さんとのカフェ「結(ゆ)いの手」が既に開店しました。準備万端整っていて、素晴らしいカフェです。繁盛しています。ここで人々に真理の教えを広めます。ありがたいです〉

 といった明るく積極的な言葉が毎日びっしりと書き込まれており、その熱意は感動的でさえある。「YUINOTE(ユイノテ)」という店名はこの頃から既に決めていて、いろいろな素晴らしいことを結びつけてくれる「結い」の力を表現しているという。

様々な「結び」が生まれる場

夫婦2人で切り盛りする店は、優しく親しみやすい雰囲気

夫婦2人で切り盛りする店は、優しく親しみやすい雰囲気

 昨年(2020)暮れについに願いが実現した。借りていた民家を改装して「YUINOTE」を開くにあたり、木材などは基本的に近所の家の解体などで出てきた廃材をふんだんに使った。工事を頼んだ地元の大工は、仕上がりのイメージをざっと説明しただけで、とても居心地のいい空間に仕上げてくれた。さらにカフェで使う道具や食器なども、近所の農家の人たちが使わなくなった古いものを持ち寄ってくれた。これらの古い食器の味わいが、テーブルの演出に役立っている。

 米は地元の人から借りている田んぼで無農薬で自ら育て、野菜も畑で作っている。さらに近所の人たちが持ってきてくれるタケノコ、ウド、タラの芽なども貴重な食材となる。

「ゆいのて」のメニューはほとんどこの地で採れた無農薬・無化学肥料の食材を使っているだけに、どれも口に入れただけで舌が喜び、飲み込めば心と体が喜んで、その喜びがずっと長く持続する。

 土地の人たちとの交流が深まる一方で、自然農業を始めたくて移住してくる人たちと知り合う機会も増えた。「ゆいのて」という店名の通り、「結び」がどんどん広がっている。

 秋田さんは念願叶ったこの店をベースとしながら、「自然と人間は本来一体である」という生長の家の信仰を、明るい笑いとともに体現し続けている。

*1 教えを学ぶつどい
*2 生長の家の布教・伝道の拠点
*3 神によって創られたままの完全円満なすがた