
岩島啓太(いわしま・けいた)さん
スポーツバイクメンテナンスショップ「エイジサイクル」経営
聞き手●岡田慎太郎さん(生長の家本部講師、SNI自転車部部長)撮影●堀 隆弘
岩島啓太さんのプロフィール
1979年、東京都生まれ。大学卒業後、愛好家憧れの自転車店として知られる「なるしまフレンド」に入社し、主にメカニックを担当。約8年半勤務した同店を2015年に退職後は、東京都・日野市にて、スポーツバイクメンテナンスショップ「エイジサイクル」を経営する。国内外の自転車レースで数多くの優勝・入賞経験を持ち、自身の自転車チームで、100名以上のメンバーが所属する「MIVRO」のリーダーとしても活躍するほか、自転車専門誌にも寄稿。SNI自転車部との親交も深い。

「お客様と自転車という共通の趣味で一緒に楽しめることがありがたいですね」
主にロードバイクのメンテナンスや販売などを手がける「エイジサイクル」(東京都日野市)のオーナー、岩島啓太さんは、アマチュアロードレーサーの国内最高峰のレース「ツール・ド・おきなわ」での優勝を始めとして、さまざまなレースで輝かしい成績を収めている。「自分を成長させてくれる相棒のような存在」である自転車の楽しさを、できるだけ多くの人々に伝えていきたいと語る岩島さんに、自転車の魅力について聞いた。
──岩島さんには、日頃から自転車の修理などでお世話になっています。普通、自転車店って、そのお店で購入した自転車以外は、なかなか持ち込めない雰囲気があるんですが(笑)、岩島さんはいつも快く引き受けてくれるので助かります。
岩島 私自身は色んな自転車に触れて勉強になるので、逆にとてもありがたいと感じています。お客様との距離が近いことが個人商店のいいところだと思っていて、いつもお客様が自転車に乗っている姿を想像しながら、楽しく自転車に乗って頂けるように思いを込めて、整備や納車をさせて頂いています。
──以前、生長の家国際本部で行われた、SNI自転車部(*1)のイベントにも参加して頂き、一緒に走れてとても楽しかったです。
岩島 SNI自転車部の皆さんが楽しそうに自転車に乗られていたのが印象的で、私もすごく楽しかったですね。生長の家国際本部“森の中のオフィス”が、太陽光やバイオマス燃料だけで電気を賄っているということにもびっくりしました。周囲の環境も自然豊かで素晴らしく、自転車に乗るには最高の環境だと思います。
ペダルを漕げばどこまでも行ける
──そもそも岩島さんは、どんなきっかけで自転車に乗り始めたんですか?

2018年に台湾で行われた「デフ・ツール・ド・フォルモサ」で個人総合優勝に輝いた際の写真(画像提供:岩島さん)
岩島 じつは、大学に入るまで自転車にはあまり興味がなかったんです。もともと工作が得意で、ものづくりに興味があったので工学部に進んだんですが、授業で一人乗りの電気自動車を作ることになったのが、自転車にのめり込むきっかけになりました。電気自動車を作るためのパーツなどを調べていくうちに自転車の雑誌に行き当たり、そこに載っていた自転車のフォルムの美しさや、ヨーロッパのレースの様子に強く惹かれたんです。その後、ロードバイクを購入したことで、どんどん自転車に夢中になっていきました。
──自転車に乗り始めて、どんなところに楽しさを感じましたか?
岩島 乗り始めの頃はすべてが面白かったんですが、自分の力を何倍にも増幅させてくれるところに一番面白さを感じましたね。自分の足だけでは歩いて行けないような距離でも、ペダルを漕げばどこまでも行けるということが喜びでした。
──自転車に乗ることによって、物事の見方や人との関係など、それまでと意識が変わったことはありましたか?
岩島 じつは大学時代、周囲の優秀な仲間と自分を比較して、勉強の面で自信が持てずに挫折した経験があったんです。でも自転車と出合い、出場したレースで勝利できるようになって成功体験を重ねていくうちに、次第に自己肯定感を高めることができるようになりました。私はもともとシャイな性格なんですが、自転車という共通の趣味のおかげで、色んな方と交流を持てたことも自信につながりましたね。
目標は「生涯現役アスリート」
──レーサーとして優勝・入賞のご経験が数多くありますが、特に印象に残っているレースは何ですか?
岩島 特に思い出深いのは、2018年に台湾で行われた「デフ・ツール・ド・フォルモサ」ですね。このレースは台湾を反時計周りにほぼ一周するレースで、私は日本代表チームのメンバーの一人として出場しました。全長900キロメートルの道のりを7つのステージに分けて走る行程は本当に過酷で、残念ながらチームとしての優勝は逃したんですが、個人として総合優勝することができました。それまでの経験を総動員して勝てたレースだったので、すごく嬉しかったですね。
──本当にすごいと思います。岩島さんにとって、レースに参加することの意義や、目標に向けて努力を続ける原動力となっているものは何なのかについて教えて下さい。

優勝を果たした、2018年の全日本マスターズ・タイムトライアルで走行中の岩島さん(画像提供:岩島さん)
岩島 私の大きな目標が「生涯現役アスリート」なんです。短期的な目標としてはレースでの勝利ですが、長期的な目標としては、生涯アスリートとして自転車を楽しみたいという気持ちがあって、そこに向けて積み上げているという感じですね。また、レースでは「楽しく走る」ことをいちばん大切にしていて、「ずるい走り」をしない。怪我を防ぐためにも、しっかりと準備をしてレースに臨み、たとえ敗れても、負け惜しみなどを言わないようにしています。
──つい言い訳とかしがちですが、レースでは自分と向き合うことを大切にされているということでしょうか?
岩島 競争心を持つことは人間の成長にとって大切なことだと思いますが、そればかりだとストレスになってしまいます。私も以前は「勝ちたい」という気持ちが強かったと思いますし、いまでも負けると悔しいですよ(笑)。でも、さまざまなレースの経験を通して、自分との対話を大切にするようになり、少しずつですが、他人と比較をしないという意識を持てるようになれた気がしますね。
自転車を通して生活を見直す
──海外のレースに参加されて、自転車に対する日本との意識の違いなどは感じましたか?
岩島 オーストラリアにパースというすごく綺麗な街があるんですが、自転車道もしっかりと整備されていて、正に自転車天国という感じでしたね。イタリアやフランスでも、車が自転車に配慮して走ってくれる感じがありました。日本ではもともと道が狭かったりして、自転車道の整備があまり進んでいませんが、自転車人口を増やすためにも、国や自治体には、自転車に乗りやすい街づくりを積極的に進めてもらいたいと思います。
──新型コロナウイルスの影響で、イギリスやドイツなどで自転車を購入する人が急増しているようですね。
岩島 イギリスでは交通渋滞による大気汚染の解消や医療費削減のために、国を挙げて自転車を盛り上げようとする動きも見られますね。日本でも電車やバスなどの三密(*2)を避けるために自転車に乗り始めた方が多いと聞きますし、現在の状況はある意味、自転車業界にとっては追い風になるかもしれません。
──生長の家では「自然と調和したライフスタイル」を提唱しています。環境保護の観点から自転車に乗ることの意義について、どのようにお考えになりますか?
岩島 移動を車から自転車に替えることでCO2の排出を減らすことができますし、自転車をきっかけにして、一人ひとりが自分の手に余る消費を抑制することが環境保護につながっていくのだと思います。近年、安価なママチャリの不法投棄が問題となっていますが、使い捨てのように廃棄してしまうのは大きな問題だと感じています。規制の仕組みを作ると同時に、物を無駄にしない心を育むことも大切ではないでしょうか。
──まさにそうですね。欲望を制御することの大切さを生長の家では説いているのですが、過剰な欲望がさまざまな問題を生んでいるということですね。
自転車ライフを楽しむために
──これから自転車に乗ってみたいと思っている方に、自転車ライフを楽しむためのアドバイスをいただけますか。
岩島 まずは、お気に入りの一台を見つけることだと思います。ロードバイクで言えば、選ぶときのポイントはルックスやブランド、そしてスペックだと思うのですが、やっぱりフィーリングですね。その自転車に乗って、どこに行こうかと想像しながら、楽しそうな自転車を選ぶのがいいと思います。また、安全に乗る技術や交通ルールを学び、保険に加入するといった基本的なことも、自転車を楽しむ上での大切なポイントです。

経営する自転車店「エイジサイクル」にて
──運動不足解消やダイエットをしたい人にも自転車はお勧めですよね。
岩島 そうですね。運動やダイエットなどは継続することが大切だと思うのですが、そうした意味で、私も自転車はとても効果的な手段だと思います。高齢の方で膝に不安がある方でも無理なく取り組めますし、風景も移り変わっていくので飽きにくいというメリットもありますね。
──ロードバイクなどを楽しんでいる方に向けて、タイムを速くしたり、長距離を走るコツなどを教えてください。
岩島 やはり一番大切なのは、継続トレーニングですね。短期と長期の目標を作り、大きな目標に向かって一つずつ積み重ねていくことが練習を続けるポイントです。また、練習や目標を仲間と一緒に約束・共有して、サボれない仕組みを作るのもいいと思いますね。私がリーダーを務めているチームでは、仲間が目標を達成したら、お互いにほめ合うことも大切にしています。ほめられるというのは、練習を前向きに続ける上で大きな力があると思いますね。
自転車は相棒
──今日お話を伺って、岩島さんは本当に精神力が強い方だなと思いました。最後に、岩島さんにとっての自転車の一番の魅力について聞かせて下さい。
岩島 私が自転車に乗る理由は、「楽しいから」という一言に尽きますね。私にとって自転車とは、自分を成長させてくれる相棒のような存在だと考えています。若い世代はもちろん、全世代の方に通じて言えるのは、「今が自分史上いちばん若い」と信じること。何ごとも始めるのに遅すぎることはないので、一歩を踏み出して、是非自転車を通して心豊かな人生を送って頂きたいと思います。(2020年7月27日、Zoomにて取材)
*1 SNI自転車部の「SNI」は、生長の家(Seicho-No-Ie)の略称
*2 新型コロナウイルス感染拡大防止のために、避けるべき「密閉・密集・密接」の3つの「密」を指す