親しみを込めて「お伊勢さん」と呼ばれ、皇室の祖とされる神であり、日本人の大御祖神(おおみおやがみ)である天照大御神(あまてらすおおみかみ)や、衣食住をはじめ、あらゆる産業の守り神である豊受大御神(とようけのおおみかみ)などをお祀(まつり)し、2千年以上の伝統と文化を継承する伊勢神宮。ITさんは、平成25年に行われた神宮の式年遷宮(しきねんせんぐう)で、宮大工として働いた。社などの修繕や建替の際、釘(くぎ)を使わない「木組み」などの伝統工法を継承する一方、一般住宅や大規模なマンションなどの設計や工事監理ができる一級建築士の資格取得も目指し、勉強に励んでいる。

ITさん 三重県伊勢市・32歳・宮大工 取材●長谷部匡彦(本誌) 写真●永谷正樹

ITさん
三重県伊勢市・32歳・宮大工
取材●長谷部匡彦(本誌) 写真●永谷正樹

  ITさんは、埼玉県川口市で工務店を営む両親のもとに、七男二女の四男として生まれた。現在、三重県伊勢市において6人家族の父親として、古来続く宮大工の伝統技術の向上に励んでいる。

 Iさんは一級建築大工技能士で、二級建築士の資格も取得している。

「設計の勉強をするようになって、作業全体を把握できるようになりました。全体を把握して仕事をするかしないかで、仕上がりに明確に差が出るので、視野を広げる勉強は欠かせません。将来は両親の工務店を引き継ぐことを考えていて、現在は一級建築士の資格取得を目指して勉強しています」

 Iさんの父親は、昔ながらの手道具である鑿(のみ)で木材を刻み、仕上げは鉋(かんな)で行う芯のある職人で、そんな父親の背中を見て育った。小学校低学年の頃から、他の兄弟たちと共に、作業場の片付けなどを手伝ううちに、大工の仕事に興味を持つようになり、端材を鋸(のこぎり)で切ったり、釘を打ったりするようになった。

「中学の頃には父の指導のもと、鉋の刃をはめる台を、鑿一本で木材から削り出せるようになり、早く一人前になって父に喜んでもらいたいという思いがあったので、とても嬉しかったですね。その頃から、刃物で木を削ることで、木がもっている本当の美しさを引き出すことができると感じられるようになり、大工仕事にのめり込むようになりました」

 高校生になると、父親の知人から、20年毎にお宮を建て替える、伊勢神宮の式年遷宮(しきねんせんぐう)の話を聞き、宮大工を目指すことを勧められた。

「高校1年生の時に伊勢神宮を参拝し、手仕上げによる輝くような木の美しさに憧れを抱き、自分も父のように木の美しさを表現できる宮大工になりたいと思うようになりました」

 伊勢神宮の御殿は「唯一神明造(ゆいいつしんめいづくり)」で、檜(ひのき)の白木を用い、屋根は茅葺(かやぶ)き、柱は堀立柱(ほったてばしら)で、その姿は簡素にして白木の美しさを最も輝かせる日本古来の建築様式を今に伝えている。

 平成17年に高校を卒業すると、両親が営む工務店に就職し、大工として働きながら削りの技術を磨いていった。

感謝と真心

「自分の最終的な目標に向かって努力し続けることで、少しでも向上する実感 を持てるのが嬉しいですね」とIさん

「自分の最終的な目標に向かって努力し続けることで、少しでも向上する実感
を持てるのが嬉しいですね」とIさん

 平成19年に、伊勢神宮へ宮大工として働きたい旨の手紙を送ると、伊勢神宮(内宮)の神域と下界を繋ぐ宇治橋の掛け替え工事を請け負った大手建設会社を紹介され、一作業員として柱や桁(けた)の刻みや削りの作業に携わった。その仕事振りが評価され、平成25年の式年遷宮までの期間だけ発足された、神宮式年遷宮造営庁から声が掛かった。遷宮のために集まった60人の大工たちは8班に振り分けられ、Iさんは最年少にもかかわらず、丁寧な仕事や人柄が評価され、同じ班の大工や棟梁から推薦されて班の副棟梁に抜擢された。

「小さい頃から生長の家で『天地一切のものに感謝せよ』『何事にも真心を出すべし』という教えや、心の法則などを学び、普段の生活から周囲に感謝し、真心を出すことを心がけていたおかげで、喜びと感謝のなか最後まで円満に仕事を終えることができました。技術だけではなく、自然を敬い、他を生かす知恵や人との接し方など、自身の内面を磨いてくれた教えの有難さを実感しました」

心の創造力

 Iさんは、幼児の頃から母親に連れられて生命学園(*1)に通い、小学生になると小学生練成会(*2)にも参加していた。

「生命学園や練成会では、日本の素晴らしさと尊さを学んでいたので、御皇室を敬う気持ちが自然と培われました。また、周囲への感謝を大切にしてきたからこそ、心の波長が合い、伊勢神宮の式年遷宮に携われたのだと思います。不平不満ばかり言っていたら、きっと宮大工にはなれなかったと思います。常に明るい言葉、思い、善い行いを心がけていると、その通りの明るい運命が開けてくるんです」

 そして、生きていく上で大切なのは、具体的に何を心に描くかであり、心に描いたものを表現していく喜びを感じることが、思い通りの人生をつくっていく鍵だとIさんは話す。

「心に描いたものを表現していく過程で、必然的に『自分にはいま、何が必要なのか』とか、『どうしたら、もっと上手くいくのか』といった問いが生まれます。その答えを誰かに教えてもらうより、自分で考えていく方がワクワクしますし、学びを続ける意欲も生まれます。まず、目の前のことに集中し、今、この時を生き切ることで、人生で必要な知恵や経験を得ていくことができると思っています」

 Iさんは子どもたちにも、一瞬一瞬の時間を大切にすることを伝えたいと、瞳を 優しく輝かせた。

*1 幼児や小学児童を対象にした生長の家の学びの場
*2 合宿して教えを学び、実践するつどい