徳江倫明(とくえ・みちあき)さん (一般社団法人オーガニックフォーラムジャパン会長、フードトラストプロジェクト代表理事) 「自分の人生を賭けて取り組む価値があると思い、有機農業の道に入りました」と、有機農業への熱い思いを語る徳江さん 徳江倫明さんのプロフィール 一般社団法人オーガニックフォーラムジャパン会長、フードトラストプロジェクト代表理事。1951年、熊本県水俣市生まれ。高校時代、水俣病問題に直面し、環境問題や有機農業への関心を深める。早稲田大学卒業後、(株)ダイエーに入社。1978年、山梨県韮崎市に有機農業による農場を設立するとともに、有機農産物専門流通団体「大地を守る会」の活動に参画し、1980年から大地を守る会の活動に専念。1988年、日本リサイクル運動市民の会と提携し、有機農産物の宅配事業「らでぃっしゅぼーや」を興す。1990年には、有機JAS認証機関「アファス認証センター」の設立を手がける。著書に『農業こそ21世紀の環境ビジネスだ』(たちばな出版)などがある。 聞き手/小池聖明さん(生長の家国際本部職員、SNIオーガニック菜園部部長、生長の家本部講師)写真/堀 隆弘

徳江倫明(とくえ・みちあき)さん
(一般社団法人オーガニックフォーラムジャパン会長、フードトラストプロジェクト代表理事)

「自分の人生を賭けて取り組む価値があると思い、有機農業の道に入りました」と、有機農業への熱い思いを語る徳江さん

徳江倫明さんのプロフィール
一般社団法人オーガニックフォーラムジャパン会長、フードトラストプロジェクト代表理事。1951年、熊本県水俣市生まれ。高校時代、水俣病問題に直面し、環境問題や有機農業への関心を深める。早稲田大学卒業後、(株)ダイエーに入社。1978年、山梨県韮崎市に有機農業による農場を設立するとともに、有機農産物専門流通団体「大地を守る会」の活動に参画し、1980年から大地を守る会の活動に専念。1988年、日本リサイクル運動市民の会と提携し、有機農産物の宅配事業「らでぃっしゅぼーや」を興す。1990年には、有機JAS認証機関「アファス認証センター」の設立を手がける。著書に『農業こそ21世紀の環境ビジネスだ』(たちばな出版)などがある。

聞き手/小池聖明さん(生長の家国際本部職員、SNIオーガニック菜園部部長、生長の家本部講師)写真/堀 隆弘

 食の安心・安全、環境保護、そして、持続可能な社会という考え方に基づいて行われているオーガニック=有機農業への関心が高まっている。

 そうした中、40年にわたり、有機農業及び環境保全型農業の普及に尽力してきたオーガニックフォーラムジャパン会長で、フードトラストプロジェクト代表理事の徳江倫明さんに、これまでの活動や、有機農産物の生産現場で感じたこと、有機農業に関心を持ったきっかけや、今後、有機農業を広めていくキーポイントなどについて聞いた

「大地を守る会」で行った産消提携の定着と共同購入の導入

──私は今、生長の家が進めている運動の一つ、SNIオーガニック菜園部(*1)の部長を務めており、徳江さんにお話を伺うのを楽しみにしていました。徳江さんは、オーガニックフォーラムジャパンの会長、フードトラストプロジェクト代表理事などを務めておられますが、これまでどんな活動をしてこられたのか、その辺からお話しいただけますか。

徳江 私はオーガニック=有機農業を広げようと活動を始めてから、40年以上経ちます。最初に手掛けたのは、山梨県韮崎市で行った豚の完全放牧です。当時は、畜産でも密飼いや窓のない閉鎖型の畜舎、抗生物質やホルモン剤の使用などが問題になっていた頃でした。有機野菜作りなどをしたこともあったんですが、その体験を通して痛感したのは、結局、有機野菜にしても買ってくれる人、つまり消費者が広がらないと、有機農業も普及しないということだったんですね。  

 当たり前と言えば当たり前のことですが、それからは、ともかく買ってくれる人を増やすことが先決だと考えるようになって、生産から販売の方へ軸足を移していきました。

inoti116_rupo_2 1978年から有機農産物専門の流通団体である「大地を守る会(https://takuhai.daichi-m.co.jp/)」(1978年設立)にも参加し、1980年からは、大地を守る会の専属となり、有機農産物の流通販売に専念しました。日本の有機農業運動は、1971年、農業協同組合(現JA)の重鎮であり、「有機農業」の命名者でもある一楽照雄氏によって設立された「日本有機農業研究会(東京都新宿区)」の活動に始まります。日本有機農業研究会は、有機農産物を普及させるため生産者と消費者が直接お付き合いし、消費者による全量引き取りを前提にした契約で、生産と消費を繋ぐ「提携」という方法を推奨します。

 大地を守る会は、この「提携」の考え方を基本に、消費者と生産者を結ぶ流通システムとして「共同購入」を確立し、定着させていきます。その後、生協(*2)なども有機農産物の「共同購入」事業を広げるようになり、後にこの方法は、「産消提携」と呼ばれるようになります。

──共同購入とは、具体的にはどういうシステムですか。

徳江 昔から有機農産物を取り寄せている人は、聞いたことがある言葉だと思いますが、複数の消費者が一つのグループを作り、野菜などの注文をまとめ、定期的に購入するというものです。これによって、そうした消費者があってこそ成り立つ、生産者との「契約栽培」が可能になりました。 

inoti116_rupo_3 こうして大地を守る会は、農薬や化学肥料、食品添加物の危険性を知り、子どもたちの未来のために安全な食を求める母親たちや、農薬の危険性を最も身近に感じ、具体的な被害を受けたために有機農業に取り組み始めた農家などを対象にして、消費者と生産者の交流の場を設けたんです。双方向性の情報システムをつくって両者を繋げていきました。

 さらには、「農薬公害の完全追放と有機農畜産物の安定供給」をスローガンに、生産者が安心して有機農業に取り組めるようにしてきました。具体的には、契約栽培を基本に、環境問題の解決や食の安全を求める消費者とともに、有機農産物を流通させるための仕組みをつくりあげていったんですね。

有機農業に取り組む農家と消費者を信頼によって結ぶ

──現在、私たちが有機農産物を購入する場合は、個別の宅配が主流だと思いますが、共同購入から個別の宅配に移行した背景には、どのような事情があったんでしょうか。

徳江 1980年代になって、宅配便などが市民権を得てきたというのが一つの要因でしょうが、もっと大きいのは、そのころから女性の社会進出が顕著になって、働く女性や共働きの家庭が増えてきたということだと思います。それに伴って、特に都市部においては、共同購入を維持することが難しくなってきたのです。

 なぜかと言うと、共同購入の現場では地域の主婦たちが有機野菜を一括購入し、それを仲間たちと分けるという作業が行われるのですが、共働きの場合は分け合う作業に参加できず、精神的に負担になり、共同購入から離脱する人が増えていったからなんです。しかし、環境問題や食の安全への関心が高まる中、安全でおいしい野菜が食べたいという消費者のニーズは高まる一方でした。

 そこで、そうしたニーズに応えるために、当時、フリーマーケットを展開していた「日本リサイクル運動市民の会」(東京都新宿区)と提携し、日本で初めて有機農産物を個別に宅配する事業「らでぃっしゅぼーや(https://www.radishbo-ya.co.jp)」(東京都品川区)を始めたんです。

──らでぃっしゅぼーやの流通システムの特徴はなんでしょうか。

徳江 第一は「野菜パレット」というセット野菜ですね。らでぃっしゅぼーやの会員になるには、この野菜パレットを毎週、年間52週を通して取り続けるのが条件なんですが、野菜パレットの場合、季節の野菜が十種類前後入っているという約束だけで、届いて開けて見なければその中身は分からない。

 なぜそうかというと、有機農産物は契約栽培が基本で、限られた生産者で生産量も限られています。さらに天候などに左右され、台風や大雨などで畑に入ることができなかったり、収穫量も変化するなど、消費者の注文とはバランスが取れないため、生産された野菜を会員で分けるということが仕組みの基本だからです。

 料理でいえば、メニューがあって材料を買うのではなく、素材からメニューを考えるということになります。そうでなければ、本当の有機野菜は手に入らないということを、ちゃんと消費者に理解してもらうことから始めるということなんです。

 そうした、中身の分からない野菜パレットを一年間、消費者が引き受けてくださるなんて、それまでの一般の流通の常識では考えられないことでした。ところが、この野菜パレットは、自然のリズムに合わせてできた野菜や果実を購入する仕組みであることを、消費者に丁寧に説明し、納得して購入してもらったので、有機農業に取り組む農家と消費者を信頼によって結びつけることができたんですね。

──ご著書の『農業こそ21世紀の環境ビジネスだ』(たちばな出版)には、有機農業の生産の限界(余剰や欠品あるいは一部農薬の使用など)の情報を公開したことも、消費者の信頼を得るには大きかったと書かれてありましたね。

徳江 そうですね。野菜パレットに入れる一つ一つの野菜には、誰が作ったのかが分かるように、生産者名や生産者グループ名と住所を記した上、ある事情で農薬を使用せざるを得なかった場合などは、その理由と農薬の種類や回数も明記するようにしました。

 そうした情報を100パーセント公開したからこそ、消費者の信用と信頼を勝ちとることができ、単なる安さや商品の豊富さに負けないサービスを提供することができたんだと自負しています。

 言い換えると、当時は生産者も少なく、注文通りの有機農産物が届く流通システムがあるとするならば、それは、どこかに「ウソ」や「ごまかし」があるということを、消費者自身が理解してくれたからだと思います。今でも、それは変わっていないと思います。

オーガニックライフスタイルEXPOの展開

──現在は、どのような活動をされているんですか。

今年(2019)8月2~3日、新宿NSビルで開かれた「第4回オーガニックライフスタイルEXPO」上/EXPOでの徳江さん 下/有機農業の生産者による農産物の出展のほか、オーガニックライフスタイルのイベントが行われた(写真提供:徳江倫明さん)

今年(2019)8月2~3日、新宿NSビルで開かれた「第4回オーガニックライフスタイルEXPO」上/EXPOでの徳江さん 下/有機農業の生産者による農産物の出展のほか、オーガニックライフスタイルのイベントが行われた(写真提供:徳江倫明さん)

徳江 今、代表理事を務めている一般社団法人フードトラストプロジェクトは、❶“まっとうな食べもの”をつくる生産の現場と環境を守る、❷“まっとうな食べもの”を広く世の中に広げる、❸“まっとうな食べもの”を知る消費者と生産者をつなげるを目的に、2005年に設立しました。

 そして、2015年には一般社団法人オーガニックフォーラムジャパンを設立し、その活動の中で特に力を入れているのは、2016年から始めたオーガニックの展示会、「オーガニックライフスタイルEXPO」です。これは、有機農業の生産者の出展はもちろん、食以外のオーガニックコットン、エシカルファッションの事業者、オーガニックナチュラルビューティなどコスメ分野からナチュラル住宅、代替エネルギー分野の事業者などが出展し、さらにオーガニック&ナチュラルを知るための講座の開催など、さまざまな業界から専門家が集い、オーガニックライフスタイルのあり方を提案するというものです。しかも、この展示会では販売もしているので消費者の来場も多く、オーガニックを知ってもらい、理解してもらうための展示会として年々拡大しています。

 第4回目となる今年(2019)は、8月2日~3日、新宿NSビルで開かれ、約1万8,300人の方々が来場されました。

健康に育った野菜は姿形がよく、色もきれい

──全国の有機農産物の生産現場を訪れ、その様子を直に見てこられたと聞いていますが、その中で感じられたのはどんなことだったのでしょうか。

徳江 有機農産物には、昔からいろいろな誤解がありますが、その代表的な例が「有機農産物は形が悪い」というものです。多くの皆さんは、有機農業で栽培されたキュウリやナスは、形が歪んでいたり、色が悪かったり、曲がっているものだという話を聞いたことがあると思います。しかし、それは明らかな間違いです。また、野菜の姿形をよくするために農薬や化学肥料を使うというのも誤りですね。

 実際はどうなのかというと、良い土で栄養のバランスがよく、健康に育った野菜は、姿形がいいものなんです。それは、農薬を使おうが化学肥料を使おうが同じで、生産に携わった経験がある人なら誰でも知っていることです。

 まして有機農業の場合は、健康な土作りから始めるわけですから、そこから採れる作物も、当然、健康なんです。ちゃんと土作りされた有機栽培による農産物は、本来、姿形がいいものであり、もちろん色もきれいです。 

──「有機農産物は、虫食いが多いのが本物だ」ともよく聞きますけれども……。

徳江 それもまったくの誤解です(笑)。ちゃんとした取り組みで土作りされた有機栽培による農産物は、病気になりにくいし、健康な野菜には害虫もつきにくいんです。害虫がたくさんつくのは、栄養バランスが悪いなど、どこかに問題がある証拠で、例えば野菜に窒素分が多いと、虫がつきやすくなったり、病気にもなりやすいことがよく知られています。それは、人間も同じですよね。

 だからと言って、全く虫がつかないわけではありません。農薬を使用しない分、有機野菜は虫に食われる確率は高いです。しかし、葉っぱがレース状になっているのが本物の有機野菜であるとか、虫が食っている野菜ほどおいしいなどということはありません。

設立趣意書に深く感動し、有機農業の道に進む

──ところで、徳江さんが熱心に有機農業の普及に取り組まれるようになったのは、どんなことからだったんでしょうか。

inoti116_rupo_6徳江 私は、1951年に熊本県の水俣市に生まれまして、いわゆる公害問題を目の当たりにした世代なんです。1956年、チッソ水俣工場の廃液に含まれた有機水銀によって起こったというのが、水俣病の公式見解となっていますが、私の場合、父親が当のチッソの経営陣でもあったため、公害問題をひときわ身近なものとして受け止めるようになったんです。

 その後、DDTをはじめとする農薬の危険性などについて警鐘を鳴らしたレイチェル・カーソンの『沈黙の春』(新潮文庫)を読んで、大きな影響を受けました。そんなことから、将来は環境や人にとって優しい仕事をしたいと、漠然と考えるようになったという気がします。

 そして決定的だったのは、大学生の時、前述した日本有機農業研究会が1971年に設立された際の、次のような「設立趣意書」を読んだことでした。

inoti116_rupo_7「現在の農法は、農業者にはその作業によっての傷病を頻発させるとともに、農産物消費者には残留毒素による深刻な脅威を与えている。また、農薬や化学肥料の連投と家畜排せつ物の投棄は、天敵を含めた各種の生物を続々と死滅させるとともに、河川や海洋を汚染する一因ともなり、環境破壊の結果を招いている。(中略)このままに推移するならば、企業からの公害とあいまって、遠からず人間生存の危機の到来を思わざるを得ない。事態は、われわれの英知を絞っての抜本的対処を急務とする段階にいたっている」

 これを読んだ時、魂を揺さぶられるような共感を覚え、「これからは、環境に負荷を与えず、人に安心・安全な農作物を作る有機農業の道に進もう。有機農業には、自分の人生を賭けて取り組む価値がある」と思ったんです。これが私の原点であり、今に至るも、その思いは変わっていません。

持続可能な農業実現の鍵は、小規模・家族農業にあり

──私ども生長の家のSNIオーガニック菜園部でも、環境と人に配慮した低炭素の食生活を実践するために、化成肥料や農薬を使わない野菜作りを奨励していますが、今後、そのような農業を広めていくためのキーポイントは何だとお考えですか。

生長の家国際本部が借りている北杜市大泉町の畑で。ここでは、有機・無農薬で山ウド、タマネギ、ジャガイモなどを栽培している。左は、畑の管理者で国際本部職員の伊藤文昭さん

生長の家国際本部が借りている北杜市大泉町の畑で。ここでは、有機・無農薬で山ウド、タマネギ、ジャガイモなどを栽培している。左は、畑の管理者で国際本部職員の伊藤文昭さん

徳江 まさに、生長の家の皆さんが進めておられるような、小規模・家族農業が鍵を握っていると思います。

 国連(国際連合)は、2017年の総会において、2019年~2028年を国連「家族農業の10年」として定め、加盟国及び関係機関等に対し、食料安全保障確保と貧困・飢餓撲滅に大きな役割を果たしている家族農業に係わる施策の推進・知見の共有などを求めています。なぜ今、小規模・家族農業なのかと言いますと、3つの理由があります。

 その❶は、現在、世界の食料の8割は、小規模・家族農業によって生産されており、環境保全、生物多様性の保護、地域経済の活性化に重要な役割を果しているからです。❷は、急速な市場のグローバル化、農業の大規模化によって、世界の食料生産の八割を占める小規模・家族農業が危機的状況に置かれていることで、❸は、❶と❷を踏まえ、時代遅れだと言われていた小規模・家族農業が、実は持続可能な農業の実現という目標に照らして、もっとも有効だと評価されるようになったからなんです。

 ですから、中山間地(*3)農業が多く、95%が小規模・家族農業といわれる日本の農業を考えると、環境保全や生物多様性を維持していくためにも、小規模・家族農業でも経済的に成り立ち、食べていけるような仕組みを作るべきで、これが有機農業であれば、なおいいということです。

──小規模・家族農業ということであれば、誰でも農業ができますね。

生長の家国際本部“森の中のオフィス”食堂の2階で行われたインタビュー。左は、聞き手の小池聖明さん

生長の家国際本部“森の中のオフィス”食堂の2階で行われたインタビュー。左は、聞き手の小池聖明さん

徳江 その通りです。畑の広さにかかわらず、例えば、家庭菜園やベランダで野菜を作ることも、立派な農業です。どんな形にしろ、多くの人たちが有機農業に取り組むことで裾野が広がり、それがやがて、日本の食料自給率を上げることに、そして、社会を変えることに繋がっていくと確信します。

 私もその力になれるよう、今後も有機農業の普及に努めるのはもちろん、オーガニックライフスタイルについての啓発にも励みたいと思っています。

──今日は、大変参考になるお話を聞かせていただき、ありがとうございました。2019年7月20日、山梨県北杜市大泉町の生長の家国際本部にて)

*1=生長の家が行っているPBS(プロジェクト型組織)の一つ。他にSNI自転車部、SNIクラフト俱楽部がある
2=生活協同組合(コープ)
3=平野から山間地にかけての地域