川上忠志郎(かわかみ・ちゅうしろう)生長の家福島教区教化部長 今年(2020)1月に完成した生長の家福島県教化部会館。屋根に太陽光発電装置が設置され、薪ストーブの煙突も見える。自然と調和した会館であることがよく分かる 取材・構成/編集部 写真提供/生長の家福島県教化部

今年(2020)1月に完成した生長の家福島県教化部会館。屋根に太陽光発電装置が設置され、薪ストーブの煙突も見える。自然と調和した会館であることがよく分かる
取材・構成/編集部
写真提供/生長の家福島県教化部

由緒があり親切で愛深い人々が住む地

川上忠志郎(かわかみ・ちゅうしろう)生長の家福島教区教化部長

川上忠志郎(かわかみ・ちゅうしろう)生長の家福島教区教化部長

──今年(2020)1月に完成した生長の家福島県教化部(*1)の新しい会館は、どんな所に建設されたんでしょうか。土地柄や自然環境について教えていただければと思います。

川上 新教化部会館が建設されたのは、郡山市西田町鬼生田(おにうだ)という、JR郡山(こおりやま)駅から北北東へ12キロほど離れた場所です。敷地の東西に工場や運送会社がありますが、南と北は、林が広がる緑豊かな地です。そのため、教化部会館の窓は南北のみに設け、東西の人工的な風景はできるだけ視界に入らないように配慮しています。

 この西田町一帯は、由緒のある地で、日本で最初に征夷大将軍に任ぜられた坂上田村麻呂の伝承が残り、郷土玩具の「三春駒(みはるごま)」も、この伝承に基づくものと言われています。また、鬼生田という地名は、郡山市によると「田村麻呂に追いつめられた鬼が、田の中に鬼の子を捨てて逃げたので、村人が育てると、鬼の子は毎日庭先で大石と遊んだ。この石を鬼石と呼び、鬼の子が捨てられていたので、鬼生田の地名がついた」とされており、私は、鬼の子でも育ててあげるような親切で愛深い人々が住んでいる所だと思っています。

オフグリッドの実現は新教化部会館建設の必須の課題

──新教化部会館の最大の特徴は、電力会社から電気を買わずに、電力を自然エネルギーで賄(まかな)うオフグリッドシステムを実現したことですが、なぜ、そうしたんでしょうか。

inoti127_rupo_3川上 それは、2011年に発生した東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故が大きく関係しています。当時、郡山市赤木町にあった旧福島県教化部会館が、あの地震で大きな被害を受け、解体を余儀なくされただけでなく、県民の多くが放射能の風評被害にも悩まされることになりました。

 9年半が過ぎた今は、漁業では、今年(2020)2月に海域の出荷制限が全て解除され、漁協による放射性物質の検査を経て販売し、米についても出荷前に放射線量全量検査をしています。他の農産物も、問題がないことを確認した上で出荷しているのですが、未だに福島県産の農産物は、他県産に比べると値が落ちると言われています。

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 福島県内には、今も至る所に空間放射線量を計測するモニタリングポストがあり、県民は空間放射線量を確認しながら生活しています。昨今は、基準値である毎時0.23マイクロシーベルトを上回ることはまずないので、行政側としては撤去したいようなんですが、県民が反対しているんですね。

 空間放射線量が高い帰還困難区域を縦断する国道6号線を通ると、道路沿いの建物にはバリケードが張られて中に入れず、店舗は震災で壊れたまま放置されていて、そこだけは時が止まったままです。

──そういう現状にあるだけに、原発で作られた電気には頼らないという強い思いがあったんですね。

川上 はい。新しい教化部会館を建設するにあたっては、「原発で作られた電気を使わない」という強い決意をもって出発しました。

 とはいえ、それを実現するのは容易ではありませんでした。現在、東北地方にある4つの原発は稼働していませんが、各地で電気を融通し合うため、福島県で使う電気にも、他の地域から原発由来の電気が入ってくる可能性があるからです。そう考えると、原発由来の電気を使用しないためには、オフグリッドしか選択肢がなかったんです。

 しかも、私たち生長の家信徒は、環境と資源と平和は密接に関係していると教えられていますから、原発由来の電気を使わなくても、大量のCO2を排出する化石燃料で発電された電気に依存したのでは意味がありません。ですから、「自然エネルギーで自立するオフグリッドシステムの実現」ということが、新しい教化部建設にあたっての必須の課題だったわけです。

太陽光発電、蓄電池、省エネ、非常用発電機の4つを柱に

──なるほどよく分かりました。福島県は、震災と原発事故後、自然エネルギーの普及に注力するという目標を掲げており、その中で福島県教化部がオフグリッドシステムを実現させたことには、大きな意義があると思いますが……。

川上 そうですね。原発事故で大きな被害を受けた福島県が、原発に依存しない自然エネルギー普及の方向に行くのは当然の流れですし、もとより県民もその意識が強いと思います。ただそうした政策は、行政主導による、自然エネルギーを使った発電事業や水素社会実現に向けた取り組みなどが中心です。

 その意味では、民間の一団体である生長の家福島県教化部が集会施設として、日本で初めてオフグリッドを実現したことは、環境問題に関心がある人たちにとって、大変興味深い事例になるのではないかと思います。今、県庁や市役所をはじめ自然エネルギー普及に関わる団体などに足を運び、新教化部会館のパンフレットを渡して認識を深めてもらうように努めていますが、まだ道半ばといったところです。

──オフグリッドシステムを実現するために必要となった①太陽光発電装置、②蓄電池システム、③省エネシステム、④非常用発電機について、それぞれ教えていただけますか。

川上 ①は2系統あり、一つは50キロワットの野立て式太陽光発電装置で、これについては、地域に自然エネルギー由来の電力を提供するために全量売電しています。もう一つは、屋根に設置した40キロワットの太陽光発電装置で、これで館内のすべての電気を賄います。

inoti127_rupo_6 ②は、テスラ社製の684キロワットアワーのリチウムイオン蓄電池を使用し、発電量が使用量を上回った場合の余剰分を充電しています。館内の電気は、屋根上の太陽光発電装置から供給されますが、雨天などで発電が足りない時や、夜間などに発電装置が稼働しない時には、蓄電池から供給することになっています。

──③と④についてもお願いします。

信徒の皆さんの寛ぎの場となる食堂

信徒の皆さんの寛ぎの場となる食堂

川上 ③については至る所で工夫しました。一例を挙げると、浴室への給湯を補助する太陽光集熱パネルと、ハイサイドライト(*2)による採光があります。給湯には大量の電気を要するため、太陽光集熱パネルで水を温めることで消費電力を減らしました。また、会館北側上部に設置したハイサイドライトから、柔らかな光が差し込んで天井付近を照らすため、日中は、照明をつけなくても明るさが確保できるようになっています。

 ④は、蓄電量が15パーセントを下回った時、手動で切り替えて使います。電気が一番必要な冬場に太陽光の発電効率が落ちるため、練成会(*3)などの大きな行事が終わった後、蓄電量が15パーセントを下回った場合には、非常用発電機を稼働させて館内で使用する電気を賄い、屋根の太陽光で発電した電気はすべて蓄電しています。

──その他には、どんな工夫がされていますか。

川上 建物全体に十分な断熱効果を持たせるよう、外張り断熱システムやLow-Eペアガラスを採用しました。また、冬は暖房の暖気が天井付近に、夏は冷房の冷気が床付近に溜まるため、それらを床下を通して循環させるシステムを取り入れています。さらに照明は、電力使用量の少ないLEDを使い、タスクライト(*4)も併用しています。こうしたことにより、基準となる一次エネルギー消費量が、通常の建物に比べて55パーセントも削減されます。

PBSの活動支援と地域社会への貢献

──生長の家が提唱しているPBSの活動「ノーミート、低炭素の食生活」(SNIオーガニック菜園部)、「省資源、低炭素の生活法」(SNI自転車部)、「自然重視、低炭素の表現活動」(SNIクラフト倶楽部)を実践するという観点では、どんな配慮がなされているんでしょうか。

川上 新教化部会館の建設にあたっては、設計段階からPBSの活動に取り組めるように工夫を凝らしました。道路から見える南側の敷地に、約400平方メートルの畑を確保し、通る人に活動をアピールしている他、会館内に土間を設けてクラフト作りができるようにし、会館の北側の長い軒下には、自転車を置けるスペースを設けています。

 新型コロナウイルスの関係で今は、やりたいことも十分にできませんが、状況が落ち着いたらそれぞれのミニイベント(*5)を開催したいと思っています。

──オフグリッドの実現によって、災害などによる停電の影響を受けなくて済むわけですが、それも含め、地域社会への貢献ということについてはどのように考えていますか。

inoti127_rupo_9川上 具体的には、①「自然に戻す緑エリア」、②「人里の緑エリア」③「自然エネルギーで地域貢献」、④「災害時の地域貢献」ということを考えています。

 北側の①では、一部に地域の自然に合った樹種を植えていますが、まだ植えるスペースがあるので、時間をかけて信徒の皆さんと植樹し、地域の自然が復活するようにしたいと思っています。また、南側の②には、地域に適した花や木を植え、教化部を訪れる信徒や地域の皆さんの心が和むような空間にしたいと考えています。

 ③は、屋根上の太陽光発電装置で発電した電気を、電気自動車の急速充電器を通して地域の方々に無料で使ってもらいます。④については、もし何らかの災害が発生して、周辺地域が大規模停電した場合、オフグリッドのメリットを最大限に生かし、炊き出しをしたり、電気が使える避難所として信徒や地域住民の皆さんにも開放して、携帯電話の充電などにも使っていただくことを想定しています。

自然素材と地場素材を使い、環境負荷を軽減する

──ところで、新教化部会館は、自然素材と地場素材を使い、環境負荷を軽減したと聞いています。これは、具体的にどういうことなのか、教えてください。

木の構造がそのまま見えるように、デザイン上の工夫がなされている

木の構造がそのまま見えるように、デザイン上の工夫がなされている

川上 まず地場素材ですが、会館の構造材には、100パーセント地元郡山産のブランド材木「と・き・め・木」を使用しています。そのため、材木を運ぶ移動距離が短くなり、移動によって発生するCO2も少なくなって、ウッドマイレージを低減できました。また、「と・き・め・木」については、一般流通材を多用して省コストにしました。さらに、木の構造を見せられるよう、デザイン上の工夫もしました。

 他にも、地場産材の集成材パネルを耐震壁とすることで、震度7の地震にも耐えられる強度を確保するとともに、この場合も、集成材パネルをそのまま見せ、木の温かみを感じられるデザインにしています。

 自然素材については、福島県産の御影石である「ふぶき石」を玄関や薪ストーブ周囲に使用し、壁紙には和紙クロスを用いた他、倉庫や水回りの床と受付カウンターには天然素材由来のリノリウムを使い、仕上げ材の化成品使用をゼロにしました。

“森の中のオフィス”のコンセプトを継承し、候補地を探す

──現在の土地に決まるまでに6年の歳月を要したそうですが、その経緯を教えていただけますか。

川上 新教化部会館の建設にあたっては、自然との調和という生長の家国際本部“森の中のオフィス”のコンセプトを継承するため、自然豊かな場所を探す必要がありました。郡山市近郊には、そうした土地はたくさんあるのですが、行政のさまざまな規制と放射能汚染がネックとなり、なかなか良い土地に巡り合えなかったのです。

 そうした苦労は、私ではなく前任の休場敏行・教化部長(現在、山口教区教化部長)と菅野純紘・教化部会館建設委員長がされたのですが、伺った話では、足を運んだ土地は100カ所以上、書面上の検討も含めると数え切れないほどあったそうです。

 なぜそこまで苦労したのかと言うと、まず都市計画法による規制が厳しかったことがあります。都市には市街化区域と市街化調整区域という区分があり、市街化区域は、市街地として積極的に整備・開発していく所で、宗教施設も造ることができます。一方の市街化調整区域は、市街化区域の外に指定されており、原則として開発行為ができないので、宗教施設も造れません。

 そのため、“森の中のオフィス”のコンセプトを継承した教化部会館を建設するには、市街化調整区域のさらに外の、無指定の地域で候補地を探すしかなかったのです。

──大変なご苦労があったんですね。

川上 さらに、無指定の地域であっても、建設に適する平坦な土地のほとんどは農業振興地域に指定されていて、農地以外への転用ができないんです。それ以外の土地は山林で、空間放射線量が高い場所が多く、教化部を建設するには、除染をかねて山を崩す必要があるのでコンセプトに合致しません。

 また、信徒の皆さんが集まりやすいということを考えると、あまり不便な場所に建てるわけにはいかないので、希望の条件に合う土地を見つけるのに、6年もの歳月を要してしまったということなんです。

6年の歳月を経て最適の地に巡り合う

──そうした厳しい条件をクリアして、現在の土地になった決め手はなんですか。

川上 まず挙げられるのは、平地で3,000坪もの広さがある上、既に整地された土地であったということですね。空間放射線量は、基準の毎時0.23マイクロシーベルトを超える0.5~0.6ほどあって除染が必要でしたが、平地なので除染がしやすいこと、敷地の周囲には工場や倉庫があって、水道やインターネット環境などのインフラが整っていたことも大きなポイントになりました。

 実を言うとこの土地は、一度、候補に挙がったのですが、そのときは、地元の運送業者が倉庫を作るために整地して土地を借りていたので、除外した所でした。その後、運送業者が倉庫の建設を断念し、借地の契約を解除したために購入することができたのです。

 今考えると、土地購入に要した6年の歳月は、最適の地に巡り合うために必要な時間だったと思います。

──土地の取得を聞いた近隣住民の方たちの反応はどうでしたか。

川上 宗教法人が土地を取得したという話は、すぐに広まったようでしたが、声高に反対する人はなく、静観という感じでした。嬉しかったのは、購入後、区長さん宅に挨拶に伺った際、大歓迎してくれたことで、涙が出るほど感動しましたね。

自然との一体感を味わい、強くなった団結力

──新教化部会館ができて9カ月あまりが過ぎましたが、使い心地はいかがでしょうか。

南北が見通せる造りとなっている大道場

南北が見通せる造りとなっている大道場

川上 私は、神想観(*6)をするために早朝に教化部に来ることが多いのですが、木の香りを嗅ぎ、自然との一体感が味わえる木造の会館で、鳥の声を聴きながら至福のひと時を過ごしています。特に、大道場からステージ越しに見る樹木や安達太良山(あだたらやま)は最高の借景で、時間を忘れてしまうほどです。

 また、白鳩会(*7)、相愛会(*8)、青年会(*9)などの個別の部屋を敢えて設けず、一カ所で事務を行うことで、備品やエネルギーの節約になるのはもとより、組織を超えての会話が弾み、信徒の皆さんの団結が一段と強まっていると思います。

先例にこだわらず自分なりの“脱原発”の発信を

──新教化部会館は、オフグリッドの実現ということで、脱原発、自然エネルギー活用の強力なメッセージを発信しました。後に続く人たちにエールを送っていただければと思います。

川上 生長の家は、東日本大震災とそれに伴う原発事故を受けて、自然と調和しない原発に反対し、“森の中のオフィス”に大型蓄電池を導入して、自然エネルギーによる電力自給率を可能な限り増やし、日本初のゼロ・エネルギー・ビル(*10)を建設しました。そして今春には、電力を一切購入しないオフグリッドシステムを実現して、太陽光とバイオマスの両発電装置と大型蓄電池をマイクログリッド(*11)システムで統御しながら運用しています。

 一方の福島県教化部会館は、太陽光発電と蓄電池、非常用発電装置を手動で切り替えて運用するという、中小規模の生長の家の教区でも導入可能なオフグリッドシステムを選択しました。今後、後に続く各教区の皆さまや志を同じくする世界の人々に、福島教区から“脱原発”の宗教的なメッセージを発信したいと考えています。

 実相(*12)世界は、無限であり多様な世界ですから、現象世界への表現もそうあって然るべきです。ですから、後に続く人たちには、先例にこだわることなく、地域の特性や社会のニーズ、教区の規模や人材などをよく考慮した上で、自分たちなりの脱原発のメッセージを発信していただきたいと念願しています。

*1=生長の家の布教・伝道の拠点
*2=壁面の高い位置に設ける窓のこと 
*3=合宿形式で生長の家の教えを学び、実践する集い
*4=部屋全体の照明のほかに、作業する人にとって必要な明るさが届くように配慮された機能的な照明
*5=「倫理的な生活」の意義を伝えるために、生長の家プロジェクト型組織のメンバーが開催するイベント
6=生長の家独得の座禅的瞑想法
7=生長の家の女性の組織
8=生長の家の男性の組織 
9=12歳以上40歳未満の生長の家の青年男女の組織
10=創エネ、省エネの技術により、建物内の年間エネルギー使用量を実質ゼロにするビルのこと
11=既存の大規模発電所からの送電電力にほとんど依存せずに、エネルギー供給源と消費施設をもつ小規模なエネルギー・ネットワーク
12=神が創られたままの本当のすがた