静岡県東部、清水町を流れる柿田川。1日約100万トンを超える豊富な湧水量と優れた水質を誇り、環境省の「名水百選」にも選ばれている。「柿田川みどりのトラスト」は、全国の有志から寄付を募り、柿田川の自然環境保全に必要な土地を買い上げたり、借り上げたりして保存・管理するナショナルトラスト運動を展開している。

 公益財団法人 柿田川みどりのトラスト│静岡県清水町 取材・写真/永谷正樹

公益財団法人 柿田川みどりのトラスト│静岡県清水町
取材・写真/永谷正樹

 柿田川みどりのトラスト会長の漆畑信昭(うるしばたのぶあき)さんは、この運動を始めるまでの経緯をこう振り返る。

「柿田川の自然環境を守りたいと、1975年から15年間にわたって県や町へ陳情し、請願書や提言書を提出したんですが、全て不採択か継続審議で終わりました」

  それでも諦めずに自然観察会や講演会を開き、機関誌を発行して訴えるなどの地道な活動を続けた結果、柿田川は1983年に、朝日新聞と森林文化協会から、「21世紀に残したい日本の自然百選」に選定された。さらに2年後には、環境庁(現・環境省)から「名水百選」にも選ばれ、テレビでも紹介された。

上:年に4回行われている柿田川の水質調査/下:毎年「昭和の日」に開催している富士山麓の植樹活動(写真はともに柿田川みどりのトラスト提供)

上:年に4回行われている柿田川の水質調査/下:毎年「昭和の日」に開催している富士山麓の植樹活動(写真はともに柿田川みどりのトラスト提供)

 ところが1987年、ある不動産業者が、柿田川中流右岸の樹木の伐採を始めた。漆畑さんらが交渉し、何とか阻止できたものの、それを機に、柿田川の自然環境を守るには、自分たちの手で周辺の土地を買い上げるか、借り上げるしかないという機運が生まれ、1988年に、「柿田川みどりのトラスト委員会」を設立し、募金活動を開始した。

 多くのマスコミで取り上げられたため、地元企業から1千万円の寄付があり、さらに朝日新聞の「天声人語」に取り上げられたことが呼び水となって、2019年12月末現在で、1万人を超える人たちから1億円以上が集まった。中には、「生後間もなく死んだ子どもがこの世に生を受けた証しに」と寄付してくれた人や、初めてのアルバイトの収入から1口分の3千円を送金してきた高校生もあったという。

 漆畑さんは、「多くの人から善意が寄せられ、感謝の気持ちでいっぱいになりました」と語る。

 同トラストでは、募金活動と並行して、自然環境の保全にも積極的に取り組んでおり、その一つが富士山麓における植樹活動。柿田川の湧水量は年々減少していて、歯止めをかけるには、柿田川の地下水脈が通る富士山麓に植樹するしかないと、1997年から毎年、「昭和の日」(4月29日)に植樹を行っている。

 漆畑さんは、次のように今後の抱負を語る。

「植樹には県内の高校生たちも参加しています。ナショナルトラストは後世にその環境を引き継いでいく運動です。これからも、若い世代にも目を向けてもらえるような活動をしていきたいですね」

問い合わせ先
TEL/055-975-5454 FAX/055-976-6996