
三好雅則(みよし まさのり)
生長の家本部講師。昭和24年生まれ。生長の家参議長。趣味は読書、絵画・音楽鑑賞、水彩画。
「ほら、あれだよ、あれ」─こんな言葉が続けて出ると、「年だなあ」と思いがちだが、これは、記憶力低下や気分障害への引き金になるから要注意だ。
記憶には、機能の違いから五種類(①エピソード記憶〈経験した出来事の記憶〉、②意味記憶〈語彙などの記憶〉、③手続き記憶〈技能記憶〉、④プライミング〈後述〉、⑤ワーキングメモリ〈数字を一時的に覚えて暗算するなどの情報処理〉)あり、加齢で低下するのは、①エピソード記憶と⑤ワーキングメモリの2つだけである。
記憶は長期と短期に分けられ、長期には陳述記憶と非陳述記憶がある。陳述記憶は①エピソード記憶、②意味記憶で、非陳述記憶は③手続き記憶、④プライミングである。このうち③は、自転車の乗り方や、楽器の弾き方など“身体で覚える”記憶で、④は、前に入力された情報が後の情報に影響を与える。例えば「こんちには」を「こんにちは」と読むなど無意識に働く記憶のこと。一方の短期記憶は、⑤ワーキングメモリのことである。
加齢で衰える①と⑤を司る脳の部位は、前者が前頭前野、後者は海馬(側頭葉)で、両者は共に加齢で縮小するため、これが司る機能がそれぞれ衰退するわけだ。逆にこれに関わらない②意味記憶や③④は、加齢での衰えはほとんど見られないし、意味記憶は向上さえする。高齢者が難しい漢字を難なく読めるのはこのためである。また、①も、思い出しにくくなるのは直近から五年ほど前までの記憶だけで、それ以前の記憶は衰えない。
記憶は強い感情を伴ったことや、自分に深く関わることほど長く蓄えられ、思い出しやすい。また、適度な運動が前頭前野を活性化させ、海馬を増大させることが分かっている。
何事にも好奇心をもち、徒歩や自転車での移動を心がけよう。記憶力の維持・向上を促し、認知症予防を含む健康にも効果があるからだ。
参考文献
●増本康平著『老いと記憶』(中公新書)
●茂木健一郎・羽生善治著『「ほら、あれだよ、あれ」がなくなる本』(徳間書店)他
*1=イメージや言語として意識上に内容を想起でき、その内容を陳述できる記憶
*2=意識上に内容を想起できず、言語などを介してその内容を陳述できない記憶