宮内利正(みやうち・としまさ)さん│79歳│鳥取県倉吉市  今は、阿修羅像を描いている。自宅のアトリエで 取材/佐柄全一 写真/髙木あゆみ

宮内利正(みやうち・としまさ)さん│79歳│鳥取県倉吉市 
今は、阿修羅像を描いている。自宅のアトリエで
取材/佐柄全一 写真/髙木あゆみ

 宮内利正さんは、平成17年、法務省を63歳で退官後、もともと好きだった絵を習い始めた。そして30年に日本現代美術協会の会員となってからは、毎年、同協会主催の展覧会に油彩画を出品している。

「5年前に初出品したときは、100号以上の大作ばかりが並ぶ中、自信がなかった私は、30号の作品を出しました。しかし、思いがけなく入選し、本当に嬉しく思いました」

 入選したのは、室町時代に成立したとされる能役者・能作者、世阿弥作の能「花筐(はながたみ)」の一場面を描いた作品。きらびやかな装束を身に纏(まと)い、顔に木製の面を付け、手に扇を持った能役者の姿が色鮮やかに描かれている。

「実は40代後半から謡曲(観世流)も習っていて、この絵は、師匠の能役者としての姿を描いたものです。絵を始めた頃は、静物や風景などを描いていましたが、これを機に能の美しさに目覚め、それから能の一場面を切り取った絵を連作するようになりました」

 倉吉市で生まれ育った宮内さんは、祖父と父親が公務員だったこともあって、大阪の大学を卒業した後、法務省に入った。27歳のときに紀代子さんと結婚してからは、全国の保護観察所などを転々とし、主に少年非行・犯罪者の更生保護の業務に携わり、保護観察官として約2千人もの少年らと向き合った。

妻の紀代子さんと倉吉市内の自宅で。後ろの作品は、鳥取県の名所、投入堂を描いたもの

妻の紀代子さんと倉吉市内の自宅で。後ろの作品は、鳥取県の名所、投入堂を描いたもの

「さまざまな問題を抱えた人たちを、どうやって更生させることができるかにいつも頭を悩ませましたが、そんなとき支えになったのが、『人間は皆神の子である』という生長の家の教えでした」

 生長の家の信仰は、宮内さんの母親から紀代子さんに伝わり、紀代子さんの影響で、宮内さんも40代初め頃から講習会などに参加して教えを学ぶようになった。

「現象的にどんなに悪く見えていても、その奥には素晴らしい実相(*1)があるという教えを知ったことで、少年非行・犯罪者の更生保護という、責任の重い仕事を全うすることができたと感謝しています」

 退官してからは大阪にある更生保護施設長を務め、その後、保護司としても活躍。そうした功績が認められて、平成27年には瑞宝小綬章を受章した。

 その一方で教えの研鑽にも励み、平成29年に生長の家地方講師(*2)となって、先に地方講師を務めていた紀代子さんと共に信仰に励む日々を送っている。

「絵筆を握り、真剣にキャンバスに向かっていると、次第に楽しい気持ちになって時間が経つのを忘れてしまいます。これまでは能の場面ばかり描いてきましたが、今年(2021)は、昨年99歳で亡くなった母がとても大好きだったふるさとの名山、大山(だいせん)を描いて展覧会に出品したいと思っています」

 そう言って宮内さんは、柔和な笑みを浮かべた。

*1=神が創られたままの完全円満な姿
*2=生長の家の教えを居住地で伝えるボランティアの講師