Y.M.(56歳) 岐阜県 取材/原口真吾(本誌) 

Y.M.(56歳) 岐阜県
国産の高野豆腐とキノコのノーミートハンバーグプレートを手に
取材/原口真吾(本誌)

 Y.M.さんは、平成4年に誕生した次男のじんま疹に悩んでいた。

「離乳食を始めたくらいから、体に赤いぽつぽつができるようになったんです。それが顔にまで出てしまい、かわいそうで胸が痛みました」

 1歳を過ぎた頃から次第に症状は出なくなったが、3歳になると再びじんま疹に悩まされるようになった。ある時、症状が出るのはいつも家族で外食をした後だと気がついた。

「図書館で本を借り、食品添加物や残留農薬が健康に及ぼす影響を知りました。有機・無農薬の野菜と添加物の少ない食品を意識して選び、手作りの食事を心がけるようになると、じんま疹が出なくなったんです」

 その後、食は健康だけでなく、世界平和ともつながっていると、生長の家の本や集いなどで学び、食に対する意識がさらに高まった。

国産小麦のフォカッチャ、旬の野菜を使ったインドネシア料理、手作りのシフォンケーキ、プルーンゼリー

国産小麦のフォカッチャ、旬の野菜を使ったインドネシア料理、手作りのシフォンケーキ、プルーンゼリー

「肉食が世界の飢餓と密接に関わっていると知り、ショックを受けました。飢餓問題が解決できるほどの十分な穀物が生産されているにもかかわらず、その一部が、先進国で食用となる牛や豚の肥育のために消費され、発展途上国の人達の食糧を間接的に奪っているんです」

 肉食は食糧問題だけでなく、牧草地をつくるため森林伐採が進んだり、牛のゲップから排出されるメタンガスには二酸化炭素よりも高い温室効果があるなど、地球温暖化の一因にもなっている。さらに気候変動によって干ばつなどが発生し、それが難民問題や紛争の原因にもなっていることを知った。

心が豊かになる手作り食品と世界平和

(左上から時計回りに)近くの里山で採れた竹の子と山菜、国産小麦のマルゲリータピザとくるみパン、家庭菜園で実ったラズベリー、天日に干して自家製ドライトマト作り

(左上から時計回りに)近くの里山で採れた竹の子と山菜、国産小麦のマルゲリータピザとくるみパン、家庭菜園で実ったラズベリー、天日に干して自家製ドライトマト作り

 市販されているパンや菓子類の材料にはパーム油(植物油)が広く使われており、その原料となるアブラヤシを栽培する広大な農園を開発するために熱帯雨林が破壊されている。現地で働く人達は低賃金の労働を強いられ、野生動物も生息域を奪われている。安価な製品には、自然環境への負荷が顧みられていないことが多く、安さの裏側を考えなければ、私たちの子や孫の世代にその代償を払わせることになってしまう。

 Yさんは、食品の生産や輸送により発生する二酸化炭素の量を少しでも抑えたいと、地元産の旬の食材を意識して選ぶようにしているという。昔ながらの製法で作られた菜種油を使ったパンやお菓子作りを楽しみ、毎年味噌や梅干し、らっきょう漬け、紅しょうがなども仕込んでいる。

「手作り味噌の風味が各家庭で違うのは、手の平の常在菌のおかげで、味噌の風味をその家庭に馴染んだものにしてくれます。また、梅干しを作るときにできる梅酢は、紅しょうがの漬け汁になります。紅しょうがを漬けた後の汁には、夏バテを予防するクエン酸が多く含まれていて、夏場に最適なスポーツドリンクになるんです。何も無駄になるものがない、昔の人の知恵に驚かされます。手作りはちょっと面倒かもしれませんが、そのちょっとの手間の中に、何とも言えない暮らしの充実感があるんです」

未来のために情報を発信する

 Yさんは数年前に生長の家栄える会(*1)の繁栄ゼミナールに参加し、山本良一・東京大学名誉教授の講演を聴き、「宇宙から見ると国境はない」という言葉に共感した。そして、良心に基づき、人や社会、地球環境に配慮したエシカル(倫理的)な生活への転換を訴える内容に、思いを新たにした。

 未来世代のために、食や環境問題についての情報を発信する大切さを学んだYさんは、スマートフォンのSNSアプリで「エシカルまま」というグループを作り、情報交換を始めた。最初は生長の家白鳩会(*2)の仲間だけだったのが、生長の家を知らない友人も加わり、現在のメンバーは60人を越える。内容は、肉食の弊害やミツバチの働きなど多岐にわたり、ほとんど毎日のように精力的に発信している。

庭の菜園を訪れたキアゲハ

庭の菜園を訪れたキアゲハ

「みんなが仲良くいられる世界にしたいという思いが、私の原動力です。子どもの頃はよく田畑で遊び、昆虫は友達でした。ですから、昆虫と同じように、人間も自然の一部であることを、今も忘れずにいたいんです」

 Yさんは月に一度、パンとお菓子作りの教室を自宅で開いており、肉を使わないノーミート料理や、寝る前に冷蔵庫で寝かせるだけで手軽に生地の発酵ができるパンなどのレシピを通して、食の安全や環境意識についても伝えている。

「食品の原材料や産地を確認したり、調味料の一つを有機のものに替えてみることから始めると、取り組みやすいと思います。海外から輸入している物が多く、そして添加物もたくさん使われていることに気がつきます」

 地球環境に配慮した食の大切さは、言葉ではなかなか伝わらないが、家庭菜園を始めることで自然との距離がぐっと近くなり、意識が変わってくると、Yさんは自身の経験から話してくれた。

「野菜は毎日気にかけてあげないと、うまく育ちません。野菜作りは、子育てに似ていると気づきました。すると、地球に対しても、家族を思う時と同じような気持ちを持つことが出来るようになったんです。自分の子や孫だけでなく、世界の子どもたちのことも思い、皆が幸せになれるような食の選択をしていきたいです」

 自然と共生する未来のために、Yさんは今日もエネルギッシュに発信し続けている。

*1 生長の家の産業人の集まり
*2 生長の家の女性の組織