瀬戸良子(せと・ながこ)さん (71歳) 京都府京丹後市

瀬戸良子(せと・ながこ)さん (71歳) 京都府京丹後市

取材/原口真吾(本誌) 撮影/髙木あゆみ

 平成31年2月、『いのちの環(*1)』No.108に掲載された「海がプラスチックで埋まる前に」という特集記事を読んだ瀬戸良子さんは、プラスチック片を餌と間違えて食べて死んでしまった雛鳥の話や、甲羅にプラスチックごみが絡まったまま、いびつな形に成長したウミガメの写真に心を痛めた。

 同じ地球に暮らす様々ないのちを守るため、家庭でのプラスチックの削減を意識するようになり、買い物には必ずエコバッグを携帯し、食品保存のプラスチック容器はガラス製に取り替えるようになった。また、食器洗いにはアクリルたわしを使っていたが、磨耗した細かい毛が排水溝を通して海に流れ、マイクロプラスチックとなって海洋汚染の一因になることを知り、麻紐たわしの手作りを始めた。

瀬戸さんお手製の麻紐たわし

瀬戸さんお手製の麻紐たわし

「たわし作りはテレビを観ながらの作業でしたが、持ち手の編み目を減らして柔らかくしたら使いやすいかも、とか、アイデアがどんどん湧いて、夢中になりました。暮らしにひと手間かける度に、小さな幸せや充足感がふわっと浮かんできます」

 10月には京都生協主催の「プラスチックゴミを考えるフィールドワーク」が開かれ、プラスチックごみ問題の現状をこの目で確かめたいと思い、参加することにした。会場は鳴き砂で有名な京丹後市網野町の琴引浜で、浜辺には大小さまざまなプラスチックごみが散らばり、30年後にはプラスチックごみの総量が魚の量を超えてしまうという説明に危機感を抱いた。

「浜辺には劣化して細かく砕けたマイクロプラスチックも多くて、これが魚の口に入り、漁獲されて食卓に上ると考えると、私たち一人ひとりが加害者であり、被害者でもあるんだという思いが強くなりました。プラスチック片は誌友会(*2)などに持って行き、参加者に海の現状を伝えています」

 その年の秋、生長の家京都第二教区で開催された「自然の恵みフェスタ(*3)」では、「マイクロプラスチックから海を救う」をテーマに、流木のくぼみに多肉植物を植え、貝殻を散りばめた作品をシンボルとして展示した。流木は兵庫県香美町の香住海岸で拾ったもので、香住海岸を含む、京都府京丹後市から鳥取県鳥取市にわたる海岸は、山陰海岸ジオパーク(科学的に貴重な、あるいは美しい地質遺産を含む一種の自然公園)として、世界ジオパークネットワークによって認定されている。

「香住海岸の流木は、いつまでも美しい海であってほしいという願いを象徴するのにピッタリだと思いました」

感謝の教え

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上:流木のくぼみに多肉植物を植えたクラフト作品で、「自然の恵みフェスタ」で展示した物のミニチュア版/下:「作品作りに使えそうなものを見つけたら、つい拾ってしまいます」。近くの里山から集めた素材で作ったリースを指して

 瀬戸さんは生長の家の教えを母親から伝えられ、母親の「人間は神の子、無限の力、やればできる」という口ぐせは、学生時代、試験前に唱えると不安が吹き飛ぶ魔法の言葉だった。25歳で結婚して3人の息子が誕生したのを機に母親教室(*4)に参加し、常に物事の明るい面を見つめる「日時計主義」の生き方の大切さを学んだ。

 平成21年12月にはこんなことがあった。義母が乗車していたショートステイ介護サービスの送迎車が、雪道をスリップした対向車と正面衝突してしまった。ちょうど帰省していた三男が事故直後の現場を通りがかり、救急車と家族に連絡し、すぐに夫が駆けつけて、ショック状態の義母を励まし続けたが、そのまま帰らぬ人となった。

「ご先祖様の導きもあったのか、三男が現場を通りかかったことで、いち早く夫が事故現場に着き、義母を看取ることができました。さらに義母の葬儀がきっかけで長年仲違いをしていた夫と義兄が再会し、和解することができたんです。家族を調和に導いてくれた義母に感謝し、悲しみの中でも明るい面を見つめ、光を失わずにいられたのは、生長の家の教えを学んできたおかげだと感謝しています」

資源を循環させる暮らし

 昨年(2020)の夏はヘチマのグリーンカーテンに挑戦し、収穫した15個程の実からヘチマたわしを手作りした。SNIオーガニック菜園部(*5)に入部している瀬戸さんは、部員専用のフェイスブックページの投稿を参考にしたという。

海岸でプラスチックごみを拾う

海岸でプラスチックごみを拾う

「黄色になるまで完熟させれば皮が剥きやすくなると投稿で知り、完熟したヘチマを少し水につけておきました。そうしたら竹の子の皮を剥くように、パラッと取れたんです! 湯がいて作る方法に比べて、資源の節約になったのも嬉しかったですね。作ったヘチマと麻のたわしは息子の嫁たちにも送り、使い心地が良いと好評でした。自然由来の物を使うと、自然との距離が縮まって優しい気持ちになります。父は切り株で花台を作ったりするのが好きな人でしたから、その血筋でしょうか。自然を見ると愛着を感じ、何かを作りたいなという思いになるんです」

 瀬戸さんが子どもの頃は、服のほころびに布を当てるなど、何でも修繕し大切に使っていた。それがいつしかプラスチック製品が増え、使い捨て文化が広がっていった。瀬戸さんはプラスチックの使用を減らすだけでなく、自然素材のクラフト作りや、古布や浴衣のリメイクを楽しみ、愛着をもって物と長く付き合うことで、プラスチックに依存しないライフスタイルを心がけている。

「レジ袋が有料化されたり、廃棄されていた製品や原材料などを新たな資源として循環させるサーキュラーエコノミー(循環型経済)についてテレビでも報道されたりと、社会が変わりつつある事を実感しています。今年は食品用ラップを減らすため、蜜蝋ラップ作りに挑戦したいです」

*1 本誌の姉妹誌
*2 教えを学ぶつどい
*3 自然と調和したライフスタイルの具体例を地域の参加者と共有し、体験・体感する行事
*4 母親のための生長の家の勉強会
*5 SNIオーガニック菜園部は、生長の家が行っているPBS(プロジェクト型組織)の一つ