乳酸菌、酵母菌、コウジカビをはじめ、人々の生活に馴染みの深い微生物は、農業とも深い関わりを持ち、植物の発育を支え、土作りに貢献している。全ての生物の恩人とも言われる微生物とはどういうものか、土壌にはどれほどの微生物がいるのか、さらには水田土壌と微生物との関係などについて、佐賀大学名誉教授の染谷孝さんに聞いた。

「遺伝子を調べる技術と蛍光染色という科学的手法が発達したおかげで、土の中で活動する微生物の1%しか知らなかったということが分かったんです」と語る染谷さん。佐賀大学の研究室で

「遺伝子を調べる技術と蛍光染色という科学的手法が発達したおかげで、土の中で活動する微生物の1%しか知らなかったということが分かったんです」と語る染谷さん。佐賀大学の研究室で

染谷 孝(そめや・たかし)さん(佐賀大学名誉教授)
1953年東京に生まれる。東京教育大学農学部生物化学工学科卒業、東北大学大学院農学研究科農芸科学専攻修了、農学博士。1994年から佐賀大学農学部助教授のち准教授を経て教授。2019年定年退職し名誉教授。引き続き招聘教授として、堆肥や野草に含まれる拮抗菌の解明と応用の研究に携わる。専門は土壌微生物学、環境微生物学。土壌微生物学や微生物資材に関する論文が多数あり、著書に『人に話したくなる土壌微生物の世界』(築地書館)がある。


微生物とは何か
身近にある微生物


──まず、微生物とはどんなものなのかということについて、教えていただけますでしょうか。

染谷 微生物とは、一般に肉眼では認識できない小さな生物のことを言います。

 図を見てください。生物は細胞からできていますが、細胞核のある①真核生物と、細胞核を持たない②原核生物の2つに大きく分類されます。①には動物・植物が入り、微生物としては有機物を分解する糸状菌(*1)や、酵母菌、キノコなどの菌類、細菌を捕食する繊毛虫(*2)、アメーバなどの原生動物、光合成を行う植物プランクトンの藻類が入ります。

 ②は、A=細菌(Bacteria=バクテリア)と、B=古細菌(Archaea=アーキア(*3))に大別され、Aには有機物の分解、光合成、無機物質の酸化を担うものがいて、球菌(*4)、放線菌(*5)、桿菌(*6)、シアノバクテリア(*7)などがあり、Bには極限環境に適応している菌が多く、メタン生成菌(*8)、超好熱菌(*9)、高度好塩菌(*10)などがあります。

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──私たちに身近な微生物というと、どんなものがありますか。

染谷 ヨーグルトなどの発酵食品を作る乳酸菌や納豆菌は細菌に、ビールやワイン、清酒を作る酵母菌は、菌類に属していますね。さらに、図を見れば分かるように、藻類も微生物で、単細胞で池や海に漂って光合成をする植物プランクトンがその代表です。クロレラやユーグレナ(ミドリムシ)は、健康食品などに応用されていますから、ご存じの方も多いと思います。

──新型コロナウイルス、インフルエンザも微生物なんでしょうか。

染谷 そうです。新型コロナウイルスや毎年冬になると猛威をふるうインフルエンザ、あるいはウシの病気である口蹄疫の病原体などは、ウイルスというかなり特殊な微生物です。なぜ特殊かというと、ウイルスは遺伝子とそれを包む殻だけでできていて、普通の生物の定義から外れている存在だからです。

 ウイルスは細胞を持たず、自分で栄養を取り込んでエネルギーを得る仕組みや、仲間を増やす仕組みを持っていません。それ自体では増えることができないため、他の生物の細胞に入り込んで自分の遺伝子と殻を作らせて初めて増殖します。

 しかも、ウイルスは乾燥させると結晶状態になり、水に戻すと活動を再開するなど、とても生物のようには見えないんです。そのため、ウイルスは微生物ではあるものの、生物と非生物の中間的な存在として考えられています。

蛍光顕微鏡の出現によって未知の微生物が明らかに


──土壌微生物のことをお伺いしたいのですが、その前に土の定義について教えてください。

染谷 土は大変不思議な存在で、砂や粘土のような無機物のほかに、枯れ葉や植物の根のかけらのような有機物、それから微生物、微小な生物も存在しています。そのため、土の定義としては、「無機物、有機物、生物から成る天然物で、地表に存在し、植物の生育を物理的にも栄養的にも支えることができるもの」ということになります。

 その意味からすると、土が存在する星は今のところ地球だけで、月や火星の表面にも土砂のようなものがありますが、あれは土ではありません。

──土の中には、どれくらいの微生物が棲んでいるんでしょうか。

染谷 一般的に土の中にいる微生物を測定するには、栄養成分を寒天で固めた培地(寒天培地)を用いた希釈平板法を使います。培地を20~30度に保温したインキュベーター(培養装置)に入れ、1週間から数週間置いておくと、大小の微生物のコロニー、つまりもともと1個の細胞が、培地の栄養を利用して増え、数万個の細胞の塊になったものが発育してくるんです。こうして得た細菌などの微生物の数は、土壌の種類にもよりますが、土壌1グラムあたり約1億個に上ります。たった1グラムの土に、日本の人口に近い数の微生物が棲みついているわけなんです。

──すごい数ですね。

染谷 それが、ほんとはもっとすごいんです。1980年代頃から蛍光顕微鏡という新型の顕微鏡が発達し、それを使って土の中を調べてみたら、とんでもないことが分かったんです。1グラムの土壌の中には、1億どころかなんと約100億個もの微生物がいることが判明したんですね。

 このときに新しく発見された微生物はどんな種類で、どんな活動を行っているのか、いま、世界中の土壌微生物学者がしのぎを削って研究しているところです。

それぞれの特殊能力を生かし、土の中で“生物共同体”を作る


──代表的な土壌微生物には、どんなものがあるんでしょうか。また、その働きについても教えていただけますか。

染谷 土壌微生物の中でも比較的よく研究され、高校の生物の教科書にも載っているのが根粒菌です。

 根粒菌はマメ科植物と共生する細菌で、根の中に入り込み、根粒(*11)と呼ばれる5ミリ前後の小さな粒々を作ります。この中で根粒菌は、空気中の窒素ガスをアンモニア態窒素に変換します。これを窒素固定といって、植物はこのアンモニア態窒素を栄養源として利用するんですね。

 植物の3大栄養素は、N(窒素)、P(リン)、K(カリウム)で、このうちもっとも多い量を必要とするのが窒素なんですが、土壌ではたいていこの窒素が欠乏状態にあります。しかし、根粒菌と共生していれば、植物が利用できない窒素ガスをアンモニア態窒素に変換して利用できるんです。

──この場合、植物はどんな働きをするんですか。

染谷 植物は、光合成して得た栄養を根を通して根粒菌に与えます。しかも、土壌中には細菌を捕食するアメーバやゾウリムシなどの原生動物がウヨウヨしているんですが、さすがに根粒の皮を破っては入ってこられないので、根粒菌には、根粒がとても安全な棲み家になっているんです。

 このようにマメ科植物と根粒菌は、それぞれの特殊能力(光合成と窒素固定)を提供し合ってお互いが利益を受けるという、持ちつ持たれつの関係を築き、過酷な環境(痩せた土壌)でも生きていける“生物共同体”を作っているわけです。人間社会もこうありたいものだと思いますね。

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左側の顕微鏡で覗(のぞ)いた微生物がパソコンの画面に大きく映し出される

植物と共生して植物の生長を促す菌根菌


──植物の共生菌というと思い浮かぶのが菌根菌ですが、これはどんな働きをしているんでしょうか。

染谷 キンコンキンと、なんとなく愉快な名前ですが、これは、植物の根の細胞の中やその周辺に菌糸の先端を絡みつかせ、根の周囲にもさらに菌糸を張り巡らして、菌根と呼ばれるものを作ります。菌糸を土壌中に広く伸ばし、いわば植物の根の代理となって、土壌中に乏しいリン酸や微量養分、水分をかき集めて植物に与えます。植物の生長を促し、その見返りとして、植物から光合成産物(炭水化物)をもらうんです。

 菌根菌は人工培養できない種類のものも多くて、なかなか研究が進みませんでした。しかし最近、遺伝子解析や蛍光染色の技術の発達によって研究が進み、例えば樹木の根は、菌根菌と共生することで初めてしっかりと吸水できるということが分かってきました。つまり、菌根菌なしには大木は育たないということが分かったんです。

──この菌根菌は、分類学的に言うとどうなるんでしょうか。

染谷 根粒菌は細菌に属しますが、菌根菌は菌類で、その多くは担子菌類といってキノコの仲間です。キノコは実は微生物なんですね。その証拠に、キノコを顕微鏡で見ると、細い菌糸の集合体であることが分かります。

 キノコには、木を腐らせて栄養にする腐生菌類と、植物と共生する共生菌類(菌根菌)があり、シイタケやエノキダケは前者に属し、枯れ木やオガクズを用いて人工栽培できるため、安く市販されています。しかし、マツタケやトリュフは後者なので、生きた特定の植物の根がないと発育せず、人工栽培ができないため、高価な食材になっているんですね。

持続可能な農業を実現する土壌中の微生物の働き


──ご著書の『人に話したくなる土壌微生物の世界』に、日本の水田土壌と微生物の関係について書かれたところがあり、大変興味を引かれました。これについて教えていただけますか。

染谷 同じ土で同じ作物を何年も繰り返し栽培していると、必ず連作障害という現象が起きるというのは、皆さんご存じだと思います。これはたいてい植物病原菌の蔓延か、ミネラルなどの微量養分の欠乏によって起きるんですが、弥生時代から2000年以上も単一作物を連作しているのに、ほとんど病気が出ない農地があります。それが日本の水田です。

──なぜそういうことが可能なんでしょうか。

染谷 その理由は、田面水として供給される水にミネラルなどの微量養分が含まれているということと、土壌伝染性の病害がほとんど発生しないからなんです。

 もう少し詳しく説明すると、水田には秋から冬にかけて落水されて水がありませんが、春の代掻きから盛夏まで水が入ります。この湛水期には、大気と水田土壌が田面水によって遮断されるため、土壌へ酸素の供給が抑えられる一方、土壌中の微生物は呼吸をして酸素を消費します。その結果、水田土壌は酸欠になって、酸素を含まない嫌気的状態になるんです。

 植物病原菌の多くは、糸状菌(カビ)ですが、そのほとんどは好気性菌といって、私たち人間と同様、酸素がないと生きられない生物なんです。そのため、嫌気的になった水田土壌で死滅してしまう。ですから、日本の水田で持続的な農業が可能な理由は、微生物の働きにあったというわけなんです。

 また、水田は食糧生産の場であるのはもちろん、洪水を防ぐだけでなく、気温や湿度を調節する機能も高いので、国土の保全に大きく貢献しています。

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希少な品種の野菜や果実が栽培されている佐賀大学農学部の温室で

微生物の大きな働き
汚染された環境の浄化


──微生物の大きな働きの一つに環境の浄化ということがあると思います。これについても教えていただけますか。

染谷 微生物にはさまざまな働きがあり、他の生物ではとても真似できないことをやってのけます。その代表的なものが、石油を分解するという能力です。

 これを利用して、土壌や海の浄化を進める技術が発達していて、これがすなわち微生物による環境浄化で、バイオレメディエーション(bioremediation、バイレメ)といいます。Bioは生物、remedyというのは、治す、治療するという意味の英語で、まさにバイオの力で環境を治すということです。

 日本で初めてバイレメが実施されたのは、1997年、日本海で石油タンカー・ナホトカ号が座礁したときです。石川県から鳥取県にわたる広範囲の海と沿岸が重油によって汚染され、漁業や海棲生物に甚大な被害が出ました。

 全国からボランティアが集まり、海岸に漂着した重油を柄杓を使って、人海戦術で回収する作業が繰り広げられたのですが、このとき実施されたのが、石油分解菌製剤の散布実験だったんです。

──その結果は、どうだったんですか。

染谷 こうした場合、分解を促進するために界面活性剤(*12)と栄養塩類(*13)が併用されることが多いんですが、このときは生態系への悪影響を考慮して、使用されませんでした。しかし、自然のままだと8週間でも40%しか浄化されなかった重油が、石油分解菌製剤を散布処理した区画では、3~6週間後には、ほぼゼロにまで下がるという効果が得られたんです。

シアノバクテリアが果たした地球生命への大きな貢献


──前掲書では、地球に棲むほぼすべての生物の恩人としてシアノバクテリアが紹介されていましたね。

染谷 シアノバクテリアは、以前は藍藻と呼ばれて藻類の一種、つまり単細胞の植物だと考えられていたんですが、詳しい遺伝子解析の結果、細菌の仲間であることが判明しました。

 シアノバクテリアは、光合成を行って酸素を作って放出し大気を改変するほか、種類によっては窒素固定能力を持っていて、土を肥沃にしてくれます。単細胞の球菌状のものや、細長い細胞が一列につながって数ミリから数センチの長さの糸状の形態を取るものなどさまざまで、その代表的なものはユレモと呼ばれ、水田や小川、池などで普通に見ることができます。

 地球上で最初の生命が生まれたのは約38億年前ですが、シアノバクテリアは25億年前、海に出現しました。その当時の大気には酸素がほとんどなく、危険な宇宙線や紫外線が降り注ぎ、地表では生物が生きられなかったんですが、シアノバクテリアが出現して光合成をしたことで大気中の酸素が徐々に増え、その酸素をもとに、約10億年後に紫外線などをカットするオゾン層ができたんです。

──そのおかげで、生物が地表で生きられるようになったということですね。

染谷 そうです。そこで初めて生物の陸上進出が可能になり、まずシアノバクテリアや地衣類(*14)が繁栄しました。地衣類はシアノバクテリアと菌類の共生体で、乾燥や低温に強く、さらにシアノバクテリアには窒素固定をする種類もあるので、地表を覆い尽くしながら、彼らの死骸が土壌有機物となって土壌を豊かにしていったんです。

 その結果、今から5億年前に初めて植物や動物が地表に進出し、爆発的な進化が起こって現在の繁栄となったわけです。その意味でシアノバクテリアは、地球の大気を改変して生命が暮らせるようにしてくれたテラフォーマー(惑星大気改造者)、大恩人だと言っていいと思います。

──お話を伺って、人間の暮らしには微生物の働きが欠かせないことがよく分かりました。本日はありがとうございました。

(2022年4月1日、インターネットを通して取材)

*1=糸状の菌糸で生活する微生物で、一般的にカビと呼ばれている
*2=単細胞動物の一群。全身に繊毛という毛を持ち、これを使って移動する。ゾウリムシ、ラッパムシ、ツリガネムシなど
*3=生物の主要な系統の一つで、以前は細菌の一群と考えられていたが、後に別個の生物群と判明した
*4=個々の細胞の形状が球形を示す原核生物のこと
*5=カビのように菌糸や胞子を生じる細菌
*6=個々の細胞の形状が細長い棒状または円筒状を示す原核生物 
*7=藍色細菌ともいう。かつては藍藻と呼ばれていたが、近年、細菌に属する原核生物であることが明らかになった
*8=酢酸や水素をエネルギー源にしてメタンを作り出す嫌気性の微生物
*9=温泉や深海の熱水域など90℃以上の高温環境で生育する微生物
*10=塩分濃度の高い環境(塩湖など)で生育する微生物 
*11=細菌との共生によって植物の根に生じる瘤(こぶ)のこと
*12=分子内に水になじみやすい部分と油になじみやすい部分を持ち、水と油を混和させる物質の総称
*13=植物プランクトンや微生物が増殖するために必要なリン酸、窒素などの塩類の総称
*14=菌類と藻類がお互いに利益を受けながら共生している生物共同体

聞き手/遠藤勝彦(本誌) 写真/髙木あゆみ