生長の家の教えによって父親への感謝に目覚め、結婚後は2児にも恵まれて、幸せな生活を送っていた。
ところが4年前、夫が脳腫瘍となり、心が打ちひしがれた。
術後の後遺症にも悩まされたが、そのことが「人間の実相(*1)は神の子である」という信仰を深めるきっかけとなった。

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O.M. 57歳・栃木県宇都宮市
撮影/堀 隆弘

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 短大卒業後、眼鏡販売店に勤めていた私は、男性上司との人間関係に悩む日々を送っていました。

 鬱々とした日々が続き、24歳になる頃に、生長の家の教えを信仰していた親戚から、宇治別格本山(*2)の練成会(*3)を勧められて参加しました。

 その座談会のなかで、上司との人間関係で悩んでいることを相談したところ、当時、私たちを指導して下さった楠本加美野先生(故人)に、「年上の厳しい男性を苦手に感じるのは、お父さんとの関係がうまくいっていないからじゃないですか」と言われ、ハッとしました。小学校教師の父はとても厳しく、「お前はダメなやつだ」と叱られてばかりだったのです。そんな父が嫌いで、高校生になってからは口も利かなくなっていました。

 練成会で行われた浄心行(*4)では、それまで父に対して抱えていたわだかまりを、配られた用紙にすべて書き出しました。そして皆で聖経(*5)を誦げる中でその紙が焼却された後、「お父さん、ありがとうございます。お母さん、ありがとうございます」と繰り返し唱えていると、父を憎む気持ちは、父の愛を求める気持ちの裏返しだったと気づいたのです。「私、お父さんに愛されたかったんだ」と率直に思えたとき、優しく育んでくれた母への感謝の気持ちもあふれてきました。

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 しかし、練成会が終わって帰宅すると、今までの親不孝な行いへの罪悪感が一気に押し寄せてきて、両親とまともに顔を合わせることもできず、すぐに自室にこもってしまいました。その夜、ベッドの上で横になり、「こんなに親不孝な悪いことばかりしてきた人間は、生きていてはいけないのでは?」と心の底から声を絞り出しました。

 その時、両親の姿が部屋の天井に浮かび、神様のように微笑みながら、「あなたにはこの問題を乗り越えて成長する力があるのよ、頑張りなさい!」と言って消えました。すると、赤ちゃんの私を抱っこしてくれている母の姿と、その隣で微笑んでいる父の姿が脳裏に浮かび、生まれた時から両親に愛されていたことに気づいて泣き伏しました。

 数日後に、感謝の気持ちを手紙に書いて父に渡すと、父は面食らった様子で手紙を受け取りました。その翌朝、少しためらいましたが父に握手を求めました。父は照れくさそうにしながらも嬉しそうで、私はあたたかな父の手に触れて、心が満たされるのを感じました。

 その後は、生長の家についてもっと学びたいという思いから、宇治別格本山の練成会に参加し、信仰を深めていきました。また、地元の愛知教区の青年会(*6)にも入り、熱心に伝道に励みました。

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夫に脳腫瘍が見つかる

 生長の家の伝道活動に打ち込む生活のなか、友人に誘われた婚活の集いで現在の主人と出会い、31歳の時に結婚しました。一男一女に恵まれ、結婚生活はとても順調でした。

 ところが平成28年、45歳になった主人に異変が起き始めました。日常生活の様々な場面で、居眠りをするようになったのです。さらに2年経つうちに、居眠りだけでなく物忘れも酷くなっていきました。

 深刻な脳の病気かもしれないと思い、脳外科を受診すると脳腫瘍が見つかりました。主人にそのような災難が降り掛かったことが信じられず、悪夢を見ているようでした。

 しかし同時に、「信仰を本物にするときが来たんだ」と思い直し、主人と二人で教化部長(*7)の個人指導を受けました。教化部長は、「神様に全てをお任せしなさい。人間は神の生命を受け継いだ神の子で、本来完全円満な存在ですから、病気に冒されるようなものではありません。創り主に任せたら良くなるに決まってる。大丈夫です」と繰り返し説いてくれました。

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 それからは、神想観(*8)を真剣に実修し、聖経を懸命に誦げるようになり、「人間・神の子、病本来無し」の教えを心に刻みつけていきました。おかげで主人も私も、神様に全托する気持ちで手術に臨むことができ、手術当日は病室で、二人で招神歌(かみよびうた)(*9)を唱えると安心感が広がり、手術も成功しました。

 ところが、これでもう大丈夫と思った矢先、手術からわずか2カ月後に脳腫瘍が再発してしまいました。あまりにも厳しい現実に打ちのめされ、以前お世話になった生長の家の講師に相談したところ、「現象の悪と見えるものは、全て現れては消えていく姿です。癒しの過程に過ぎないので安心して下さい」と教えられ、「絶対に良くなる」と思い直しました。

 その後、主人は東京の大学病院へ入院することとなり、2回目の手術も無事成功しました。しかし、脳腫瘍の手術後に高い確率で発生する、高次脳機能障害という後遺症に悩まされることになりました。昨日の事や、さっき食べた物さえ覚えていない記憶障害が起きるようになったのです。

 そうした後遺症による主人の変化は深刻でした。主人の勘違いで息子に怒ったり、5回も6回も同じことを私に聞いてくるようなことが頻繁にありました。そんなことが続くと、私もついイライラして主人につらく当たってしまい、そうすると主人も「俺のことを馬鹿にしているだろ」と言って、さらに不機嫌になるという悪循環で、家庭の雰囲気は暗くなっていきました。

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夫への感謝と愛に満たされて

 そんな辛い日々が続いた令和2年の夏、私の心が大きく変わるきっかけとなった出来事がありました。コロナ禍のため生長の家の誌友会(*10)がオンラインで開催されるようになり、その中でくも膜下出血で倒れたご主人を介護された方の体験談を聞いたのです。

 その方のご主人は後遺症で立ち上がることが出来ず、車椅子の乗り降りや食事、トイレの介助が必要で、物忘れも酷い状態でしたが、献身的な介護の結果、車椅子生活は続いているものの、日常生活に支障がないほどに回復されたというのです。

「昨日何を食べたなんてことは私が覚えていればいいことで、大事なことだけ覚えていてくれればいい。主人の実相は完全円満であり、必ず良くなる」という、その方の言葉に感動し、同時に深く反省しました。私は自分の目に映る不完全な主人ばかりを見て、神が創られた完全円満な主人の実相を見ることができていなかったと思ったのです。

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 それからは主人が怒りを表しても、それは移り変わる不完全な現象であって本来無く、神の子である主人の実相を見るようにしました。そして、「我が夫、神の子◯◯は身健かに、心美しく、相形(すがたかたち)美(うる)わしく、和顔愛語讃嘆に満たされたり」と祝福の祈りを続けました。

 私が主人への感謝と愛に満ちた心境になると、常に不機嫌だった主人が、「ママいつもありがとう。迷惑かけてるよね、アイラブユーだよ」と言ってくれるようになり、次第に手術以前の優しい主人に戻り、我が家に再び笑顔が溢れるようになりました。

 現在、主人の病状も安定し、以前のような物忘れも減りました。さらに仕事にも復帰し、週5日フルタイムで元気に頑張ってくれています。主人の脳腫瘍は、私の魂を磨いてくれる経験だったのです。

 これからも現象の奥にある実相を拝むことの大切さを心に留め、主人だけでなく周りの方々への感謝を忘れずに愛を表現して生活していきたいと思っています。

*1 神によって創られたままの完全円満なすがた
*2 京都府宇治市にある生長の家の施設。宝蔵神社や練成道場などがある
*3 合宿形式で教えを学び、実践するつどい
*4 過去に抱いた悪感情や悪想念を紙に書き、生長の家のお経『甘露の法雨』の読誦の中でその紙を焼却し、心を浄める行
*5 生長の家のお経の総称
*6 12歳以上40歳未満の生長の家の青年男女の組織
*7 生長の家の各教区の責任者
*8 生長の家独得の座禅的瞑想法
*9 神想観実修の時に唱える神をよぶ歌
*10 教えを学ぶつどい