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昨年の冬に仕込んだ味噌を手に(撮影/堀 隆弘)

藤山佳江(ふじやま・よしえ)さん(51歳)
兵庫県加古川市
取材/原口真吾(本誌)

発酵から見えてくる自然と人の営み

 
 藤山佳江さんが「発酵」に興味を持ったのは、3年ほど前のこと。藤山さんが入部している「生長の家SNIオーガニック菜園部」のフェイスブックグループで、手づくり発酵食品の投稿を見かけたのがきっかけだった。さっそく本を購入し、発酵について調べてみると、発酵は土地の気候や作物と、深い関わりがあるものだと分かった。
 * 生長の家が行っているPBS(プロジェクト型組織)の一つ

「たまたまお米に生えた白いカビが、食べることができて、日持ちも良くなるとわかり、それを麹として絶やすことなく、現在まで継がれていると知りました。私たちは菌類や微生物の助け無しでは生きられないことを考えると、発酵の歴史は、自然と人の営みの歴史そのもののように思えたんです」

 ある本には、麹屋を営んでいる人の話として「麹菌たちが、わいわい、がやがや、おしゃべりをしているのを感じる」と書かれていた。曽祖父母が遺してくれた生長の家の本を高校生の頃から読み始め、「すべての生命は神のいのちの現れ」であることや、「人間も自然の一部であり、本来一体である」ということを学んでいたので、麹菌のいのちを、自分たちのいのちと同じものとしてとらえているような感性が、とても素敵だと感動した。

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「1週間ほど寝かせると発酵が進み、まろやかなポン酢になります」(撮影/堀 隆弘)

 麹屋は、かつてはどの地域にも2、3軒はあった。今ではほとんど見られなくなってしまったが、藤山さんが暮らす加古川市には、江戸時代から続く麹屋が残っている。昨年(2022)2月に生長の家の信徒仲間と参加した味噌づくりでは、応援の気持ちも込めて麹屋にあらかじめ地元産の米を持ち込み、つくってもらった米麹を使用した。

「子どもの頃は、毎年祖母が自家製味噌を仕込んでいて、米麹も手づくりしていました。『麹』は『糀』とも書きますが、その字の通り、お米にふわふわと花のように広がった様子が不思議で、心に残っています」

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ツルムラサキの発酵ポン酢和え(写真提供:藤山佳江さん)

人と菌の与え合い

 
 塩麹づくりから始めた藤山さんがまず感じたのは、感覚的にしっくりくる、その味わいだった。

「人間も自然の一部だから、自然な『食』が体になじむのは、当たり前なのかもしれませんね」

と藤山さんは微笑む。塩麹に必要なものは、塩と米麹、そして水だけ。混ぜ合わせてゆるくふたをした後は、1日1回混ぜながら常温で2週間ほどおく。ほんのりと甘い香りがしてきたら、できあがりの合図。

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塩麹や発酵食品を使った常備菜を、冷蔵庫にストックしている(撮影/堀 隆弘)

 塩麹を育てていると、菌類や微生物が人間のいのちを生かし、人間はその繁殖を手伝うという、与え合い、支え合いの世界に、感謝の気持ちが湧いた。藤山さんにとって発酵食品は、単なる健康効果や味付けのテクニックではなく、自然とつながる一つの窓となっている。

「自然とのつながりは私たちの存在の根元なのに、効率を優先しがちな日常の中で、どんどん失われているのを感じます。発酵食品づくりは、自然と調和し、限りある食糧を工夫して保存してきた、先人たちの自然観にふれる一つのきっかけになり、自然の恩恵に生かされていることが実感できます」

 藤山さんは、電気が止まれば成り立たなくなってしまう現代の生活の危うさも感じており、常温で保存できる発酵食品だけでなく、庭で野菜を育て、収穫した野菜を天日干しにしてストックするなど、できるところから災害への備えを進めている。

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庭の柿の木は彩りを添えてくれる(撮影/堀 隆弘)

手間をかけること

 
 便利さを追い求める社会は、自然とのつながりを希薄にし、大量の二酸化炭素が排出されて環境破壊の原因にもなっている。そのことを生長の家で学んだ藤山さんは、「買い過ぎない、持ち過ぎない」ことを意識し、手づくりを中心とした低炭素の生活を実践するようになった。それは一見、不便なようだが、その中に豊かさを感じる瞬間がある。

「便利さと豊かさは、イコールじゃないと思います。塩麹も、スーパーに行けば市販のものが手に入りますけど、それではよろこびはきっと感じられません。手間はかかっても、つくったり、育てたり。一つひとつの作業を楽しんで暮らす中で、ふと、『豊かだな』という気持ちが湧いてくるものではないでしょうか」

 はじめて発酵食品をつくるなら、お勧めは塩麹だという。だしなどを加えなくてもこれ一つで料理の味が決まり、洋食から塩スイーツまで、何にでも使える。たとえば火を通したキノコと塩麹を和えたものに、お湯を注ぐだけで即席のスープになるし、炒め物やオイル系のパスタなど、シンプルなものほど相性が良く、素材を引き立て、味に深みを加えてくれる。

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いただきものの柿やスダチ、カボス(撮影/堀 隆弘)

 そうした伝統的な発酵食品だけでなく、玉ねぎのすりおろしを加えた玉ねぎ塩麹や、米麹を使ったゆずドレッシングなど、さまざまなアレンジも楽しんでいる。3年前に行われた「SNIオーガニック菜園部 手づくりドレッシング・レシピコンテスト」では、しょうゆ麹に、甘酒としょうがのすりおろしを加えたオリジナルドレッシングがグランプリに輝いた。

「今は塩麹にゆずの果汁を加えた、ゆず塩麹を試しに仕込んでいます。オリジナルの発酵食品やドレッシングなど、新しいものをつくり出すよろこびを味わいながら、自然への感謝の思いを深めていきたいです」

 そう話す藤山さんは、どこまでも自然体だった。
 


 

“森の中のオフィス”食堂の醤油麹活用レシピ

 
ブリの醤油麹焼き 醤油麹は、 うま味いっぱいの 万能調味料! ●材料(4人分) ブリ切り身……4枚 醤油麹……40g ●作り方 ① バットにブリを入れ、醤油麹を絡めて漬け込む。途中、上下を返して1時間ほどなじませ、表面についた醤油麹をおおまかに取り除く。 ② ①のブリをグリルに入れて焼く。 ③ 皿に②を盛り付け、お好みで、焼いて塩を振ったかぶと椎茸、茹でてめんつゆで和えた水菜、甘酢生姜を添える。 Point 麹には、栄養素を分解する酵素が含まれており、タンパク質をアミノ酸に変えてうま味を増やします。またデンプンをブドウ糖に変えて甘くしますので、素材を美味しく変化させる調味料です。魚を漬け込んだ後の醤油麹は、野菜の煮物や煮魚などに使うと、うま味と甘みを補う調味料になります。 醤油麹の作り方は簡単です! ●材料 乾燥米麹……300g 醤油……450cc (乾燥米麹と醤油の割合は1:1.5を目安にする) ●作り方 ① 清潔な容器に、乾燥米麹、醤油を入れて混ぜ合わせる。軽くフタを開けて常温に置く。 ② 1日に1回上下を返すように混ぜて空気に触れさせる。約10日間繰り返し、麹の粒が指でつまんでつぶれるくらいまで発酵させる。 ③ 仕上がったら、冷蔵庫で保存する。