生長の家千葉県教化部*1に勤める安久誠さんは、自宅のある佐倉市在住の30代が中心となって農産物を直売する活動に、ボランティアとして参加している。
そうした人々との繋がりを通して、「自分らしさ」が感じられると安久さんは話す。
*1 生長の家の布教・伝道の拠点

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撮影●遠藤昭彦

安久 誠(あぐ・まこと)さん
千葉県佐倉市・40歳・団体職員
取材●長谷部匡彦(本誌)

 地域の農家が生産した農産物を消費者に直接販売するイベントが、昨年(2022)9月に千葉県佐倉市で行われた。そのボランティアスタッフとして参加した安久誠さんは、ワークショップの出店者を募るチームリーダーを任せられた。

「前から地域のボランティア活動に興味を持っていたんですが、イベントで中心となって活動している方の、地元を盛り上げたいという熱い思いに心を動かされて、手伝うことになったんです。10代から50代までの他のボランティアの人たちと、出店してくださるお店を探し回りました。みんなで意見を出し合い、協力した時間は充実したものになりましたし、他の人の役に立てたことに大きな喜びを感じました」

 その活動のなかで、本来の「自分らしさ」とは、自分本位に楽しむことではなく、他への愛を実践するときに表現されていくものだと感じたという。

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引け目を感じていた学生時代

 
 東京で生まれ育った安久さんは、生長の家を信仰していた父親に連れられて中高生練成会*2に参加し、「人間は神の子で、本来素晴らしい存在である」という生長の家の教えを学んだ。
*2 合宿して教えを学び、実践するつどい

「目立たないところで、人の役に立つことをしていた父の背中を見て育ったので、いつか父のようになりたいと思うようになりましたが、いつも清く正しくなければいけないと感じていたんです。その頃から、生長の家の同年代の仲間がとても輝いているように見えて自分と比較してしまい、内心では引け目を感じるようになっていました」

 やがて高校生になると、思い思いに毎日を楽しんでいる同級生の姿に触発されて、自分で自分の心を縛る必要はないのだと感じるようになった。しかし、それまで自分を厳しく律してきた反動で、自分勝手に振る舞うようになり、周囲に迷惑をかけてしまうことがあった。

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「身近な人との人間関係を大切にしていきたいですね」(撮影●遠藤昭彦)

「人間関係で、一部の人と上手くいかなくなってしまうことがありました。大学生の時には、東京ドームの芝やブルペンを整備するバイトで、先輩から厳しく注意されたため、やる気を失って4カ月で辞めてしまったんです」

 東京ドームのバイトを辞めた後は、有機野菜などを販売する店でバイトを始めた。そして大学卒業後、その経験を生かして、東北・北関東にある大手スーパーに就職し、宮城県にある店舗で働きはじめた。

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かけがえのない時間

 
 宮城県に引っ越して間もない頃、安久さんは生長の家宮城県教化部を訪れた。そこで、当時教化部に勤めていた三浦光宏さんや、松田あゆみさん(現在共に生長の家国際本部勤務)、当時青年会*3委員長をしていた斎藤貴之さんから、青少年や小学生向けの練成会の手伝いを頼まれた。
*3 12歳から39歳までの生長の家の青年の組織

「教化部を訪れた時から、すぐに仲間として受け入れてもらえて、小学生練成会では、子どもたちの面倒を見る係の担当になりました。子どもたちが笑顔で喜んでくれるのが嬉しかったですね。青年会の人たちと夜遅くまで語り合うこともあって、自分にとってかけがえのない時間でした」

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 手伝いを通して信仰の仲間たちとの連帯感に喜びを感じる一方で、スーパーの仕事がうまくできず、悩むことが度々あった。

「就職を機に、それまでの自分を変えたいと思っていたんですが、思っていた以上に仕事ができず、上司からも指摘を受けて落ちこみました。そんな時に三浦さんから、『苦手なことがあっても、あなたは神の子なんだから、自分や周囲を讃嘆(さんたん)して、あせらず地道に頑張りなさい』と励まされました。相談にのってもらう内に気持ちが前向きになって、また頑張ろうと思えたんです」

 生まれ育った東京を離れ、初めての一人暮らしで不安を抱えていた安久さんにとって、宮城県で得た人間関係が心の支えになった。

居場所を求めて

 
 その後、店舗の配置替えで福島県、さらに栃木県へと異動になり、仕事が忙しくなったこともあって心の余裕をなくし、教化部に行き、生長の家の活動に参加することができなくなった。

「商品の売価変更の作業が追いつかず、苦情を受けてしまい、休日まで会社から電話がかかってきて心が休まることがなかったんです。誰にも相談できず、ストレスを抱えるようになりました」

 そんな時、仕事の接待で上司にスナックへ連れていかれ、そこに自分の心の居場所を感じたという。

「人との繋がりを求めていた私にとって、スナックは店員や客同士の仲がよくて、心が休まる場所でした。終業後や休日にも通うようになってしまい、生活がスナック中心になってしまったんです」

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「自然豊かな佐倉市の水辺や田んぼには、多くの野鳥が飛来してきます。冬の時期には白鳥を観察することもできるんですよ」(撮影●遠藤昭彦)

 仕事が疎(おろそ)かになっていたところに、同期入社した仲間が勤務先の店長として赴任してきた。その店長との折り合いが悪くなり、仕事に意欲をなくして退職した。

「スナックの人たちは真剣に悩みを聞いてくれたので感謝していますが、振り返ってみれば、自分が本来やるべきことから目を背(そむ)けていたんですね。宮城県にいた時は、練成会のお手伝いや青年会の人たちとのふれあいに心から喜びを感じていました。仕事にやり甲斐を感じ、自分らしく生きるにはどうすればいいかと自問するようになりました」

神の子として拝む

 
 平成27年の3月に、東京の実家に戻り、翌月に千葉県にあるスーパーで働き始めたが、生長の家の教えを学び直すなかで、縁あって翌年10月に千葉県教化部に転職した。

 そして教化部で働く傍ら、昨年(2022)5月に両親と佐倉市に移住し、農産物を直売するボランティア活動に参加するようになった。

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「住んでいる地域の歴史を知り、人との繋がりをつくることでアイデンティティを感じることができると思います」(撮影●遠藤昭彦)

「イベントで出店してくれた農家さんから聞いた話ですが、じつは一般の市場に出荷した方が、少ない労力で利益をあげることができるそうなんです。それでも、出店してくれるのは、お客さんと直に話せるのが嬉しいからと言っていました。自分らしさが感じられる、本当に価値ある生き方というのは、人との繋がりを大事にし、愛を表現していくなかで築かれていくのだと感じています」

 生長の家で学んだ「すべての人を神の子として拝み、神の愛を表現する」ことを大切にしていきたいと、安久さんは静かに微笑んだ。

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特集解説
“自分らしく生きる”にこだわらなくていい。
まずは、今置かれた場所で、
人格の向上を目指して努力してみよう

 
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 自分らしく生きるって素晴らしいことだ。仕事では“天職”といえるようなものに出合い、自分の長所を生かして活躍し、プライベートでは自分の価値観を大切にして、自然体で日々を過ごす。近年は、SNSやお洒落な雑誌でも「自分らしく」というワードは頻出するし、そんな生き方をしたいと願う人は多いのではないだろうか? 特に、自分らしさを発揮できる職を得ることは、本誌の主な読者層の皆さまには重大な関心事かもしれない。

 しかし、ここに一つの落とし穴がある。自分らしく生きる事にこだわり過ぎると、かえって迷い悩み、自分を苦しめるという逆説に陥るのだ。

“自分らしさ”は案外、不確か

 
 “自分らしさ"を最重要視する人は、例えば、今の自分の長所・短所や好みなどに基づいて職探しをしたり、与えられた仕事の選り好みをしたりすることがある。中には一年も満たずに職を転々とする人もいる。これは必ずしも悪いわけではないのだが、ともすると自分自身の可能性を狭めてしまう。なぜなら、このような“自分らしさ"は案外、コロコロと変わる不確かなものだからだ。

 自分はその仕事が得意だと思っていたのに、実際にやってみたら、自分よりもっと優れた人が沢山いて自信を失ったり、その反対に、苦手だと思っていたことに前向きに取り組んでみたら、才能が開花して、やり甲斐を感じたりするということもある。

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私たちが目指すべきもの

 
 “自分らしさ"が不確かなものであるならば、私たちは何を目指し、どのように生きればいいのか。私の一番のお勧めは、まずは目の前に与えられた仕事に懸命に取り組んでみることだ。そして、その仕事を通して人格を向上させるのである。目指すべき人格の参考になるのは、人類の長い歴史の中で培われ、不変・普遍のものとして宗教や倫理が古くから説いてきた、人としての在るべき姿だ。

 例えば、誠実・正直であること、物事に主体的に取り組むこと、先祖や父母に感謝すること等である。これらは一種の原則である。実りある人生にしようと様々なテクニックを使ったとしても、原則を外して長期的に上手くいくことはあり得ない。

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 もしあなたが今、就職活動をしていて「どんな仕事に就くべきか」と悩んでいるのなら、両親や尊敬する先生などが勧めてくれることに素直に従ってみるのも一案だ。当初はそれが“自分らしさ"を発揮できる場なのか分からなくても、上記の原則に沿って懸命に取り組むことで必ず道は開けてくる。生長の家創始者・谷口雅春先生は次のように述べられている。
* 昭和60年昇天

 樫の実は、樫の苗は今与えられたところで出来るだけのことをしたら、樫の大木となるのであって、梅の木になったり、柿の木になったりは致しません。その天分のとおりのものに生長することが出来るのです。だから、あなたも、何が自分の天分であるかがわからなくとも、今あるところで、どんな小さな報恩の仕事でも、人のためになることなら、何をしていましても一所懸命つくしていましたら屹度(きっと)、自然にあなたの天分のあることが出来るように、貴方自身も発達して来ますし、環境や境遇も自然にそうなって来るのであります。
(谷口雅春著・楠本加美野編、『あなたは無限能力者』156〜157ページ、日本教文社刊)

 表面的な“自分らしさ"に惑わされず、人格の向上を目指して着実な努力を重ねていると、やがて無理のない自然な形で、本当の“自分らしさ"を十二分に発揮できるようになるのである。

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Y.Y.
生長の家本部講師
1988年生まれ。大学(法学部)卒業後、高級喫茶店のマネージャー兼バリスタを経て、生長の家国際本部勤務。2019年から生長の家本部講師。