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食器棚を修繕したサイドボードは、現在はキッチンとリビングの仕切り台として活用している(写真/永谷正樹)

内田千里(うちだ・ちさと)さん(54歳)
名古屋市中川区
取材/原口真吾(本誌)

思い出の家具を心を込めて磨く

 
 内田千里さんは、処分されそうになっていた食器棚やテーブル、解体される建物で使われていた作業机などをもらい受けては、電動サンダー(研磨機)で磨いて蘇らせてきた。

「昔の家具って、木も作りもしっかりしているから、一見古ぼけていても、磨けばきれいになるんです」

 電動サンダーを初めて使ったのは、7年ほど前のこと。里山保全の間伐ボランティアに参加し、たくさんもらった輪切りの間伐材で、生長の家自然の恵みフェスタ*1用のコースターを作ろうと思い立ち、紙やすりで磨き始めたが、すぐに手が疲れてしまった。そんなとき、ホームセンターで電動サンダーをレンタルしていることを思い出し、おっかなびっくり借りて使ってみた。
*1 自然と調和したライフスタイルの具体例を地域の参加者と共有し、体験・体感する行事

「あっという間につやつや、すべすべになってびっくりしました。『わあ、すごくきれい!』ってあれこれと磨いているうちに、勢いで電動サンダーを買うことになりました。磨く魅力に目覚めると、不思議と古い物とのご縁をいただくようになりました」

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左上:夫の実家で使っていた頃の食器棚
右上:分解して丁寧にやすりをかける
左下:蜜蝋ワックスで仕上げる
右下:サイドボードに生まれ変わった
(写真提供:内田千里さん)

 令和元年に夫の実家をリフォームすることになり、古い食器棚を処分するという話を聞いた。義祖母の嫁入りの際に義祖父から贈られた90年以上も前の食器棚で、「捨てるにはもったいない。古いからこそカラーボックス等と違って、きっとしっかり作られていて丈夫なはず。サンダーで磨けばきれいになるに違いない」と思った。

 何かと家のものを作ってくれる夫に自宅のカラーボックスの代わりに活用するアイデアを相談すると、夫も乗り気になってくれ、食器棚を譲り受けて夫婦で修繕に取りかかった。

「食器棚をよく見て驚いたのは、釘が1本も使われていないことでした。作業はほとんど夫がしてくれたんですが、金具をはずして表面を磨き、蜜蝋ワックスで仕上げると、生まれ変わったように綺麗になったんです。最初はもっと明るい色だったのが、だんだん色が落ち着いてきて、こうした変化を楽しめるのもいいですよね」

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「普段の生活のなかで自分が手をかけたものを使うと、とても満たされた気持ちになります」(写真/永谷正樹)

 内田さんは長らく木製のカラーボックスを使っていたが、安価な製品はウッドチップを固めた繊維板を使用しており、古くなっても磨くことはできないため使い捨てになる。ゴミに出す際には粗大ゴミとなり、環境への負荷を考えると心が重くなっていた。

「大量生産された物と違って、丁寧に作られた物は、年を重ねるごとに味わいが深くなりますし、何より自分で手入れすると、見るだけで嬉しい気持ちになります。生長の家で、物はそれを作った方の愛念の現れでもあると学びましたし、今はそこに私の思いもプラスされていて、だからこんなにも幸せな気分になれるんだと思います」

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間伐作業で持ち帰った枝をハンガーラックに(写真/永谷正樹)

考えて、工夫して作る楽しさ

 
 内田さんは小学生の頃に生長の家の教えに触れた。中学2年生から青少年練成会*2に参加したり、生長の家の書籍を読んだりして、「心に強く思ったことは実現する」ということを学んだ。普段から明るい言葉を使って心を明るくし、劣等感を抱きがちな自分を変えようとしてきたが、なかなか変えることができずにいた。24歳で結婚すると、同居する夫の母方の祖母との不仲と子育てに悩むようになった。
*2 合宿形式で教えを学び、実践するつどい

「そんな時、谷口清超先生*3のご本に『明るい心の習慣は、練習さえすれば持つことができるようになります、上手になります』と書かれていて感動し、毎日自分を肯定する言葉と、祖母への感謝を口に出し続けました。すると自分を認められるようになり、祖母にも感謝できるようになったんです」
*3 前生長の家総裁、平成20年昇天

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(写真/永谷正樹)

 また、持続可能な未来のために、“買い過ぎない・持ち過ぎない”ライフスタイルへの転換が大切であると生長の家で学び、クラフト製作をするようになって、いかに大量生産、大量消費の文化に染まっていたかを痛感した。

「バブルを経験した私たちの世代は、大量生産、大量消費の弊害を意識することはあまりなく、どんな影響があるかなんて考えもしませんでした」

 家具を磨いていると、結婚した時に夫の母方の祖母が私たち夫婦のために仏壇を“洗って”持たせてくれたことを思い出した。

「洗うとは、一度解体して、磨いたり色を塗り、金箔や金具をつけ直すことですが、昔の人は他にも桐の箪笥を洗ったり、布団を打ち直したりと、今ある物を大切に使ってきたんですね」

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サンダーで表面の塗装を削る前の、色が濃かったテーブル(写真提供:内田千里さん)

譲ったり、譲られたり

 
 昨年は、実家から処分予定のテーブルを譲り受けたものの、色が濃すぎてあまり好みではなかった。

「その時も、電動サンダーで表面の塗装を削れば、木材そのままの色と木目が楽しめるかもと思いついたんです。やってみようと決めて、丸2日かけて削ってみたら、思った通り家の雰囲気と調和した明るい色になり大満足! 磨いた後は、食器棚の時と同じように蜜蝋ワックスで仕上げました」

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電動サンダーで表面の塗装を削ったあと。本来の色と木目が楽しめるように(写真提供:内田千里さん)

 また、昔、洋裁教室をしていた建物が解体される際に、そこで使われていた机と椅子をもらい受け、教化部*4に寄付したり、友人に譲ったりして、自宅用にもいくつか持ち帰った。
*4 生長の家の布教・伝道の拠点

「大工さんが作ったしっかりした物でしたが、自宅で使うにはサイズが大きかったので、夫に教えてもらいながら2つの机を解体して、サイズを小さくして蝶つがいをつけ、折りたたみ机に作り変えました。少しずつできることの幅が広がっているのが嬉しいです」

 クラフト製作や木工作業を楽しむうちに、「買う」から「修理・加工する」「別のもので代用する」へと意識が変わり、「古き良き物を大切にしていきたい」という気持ちが強くなっていった。そして、本当に気に入ったものに囲まれて暮らしたいという思いが深まり、人に譲った家具もある。

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洋裁教室で使われていた机を小さくリサイズ。小回りが利き、様々な用途に使える(写真/永谷正樹)

 そんな時に活躍するのが、スマートフォンのフリーマーケットアプリだという。これは新聞や情報誌などに掲載されている「譲ります・ください」コーナーの電子版に当たるもので、サイズや色、状態を写真でチェックすることができるので便利だ。

「譲っていただいた物を大切に使い、不用になったらきれいにして誰かに譲る。そういった動きが見直されていることに、とても良い時代になったと感じています。みんながやることで社会は変わっていきますから、家具を『洗い』ながら大切にしてきた昔からの感覚を、私も持ち続けたいと思います」