A いかなる統治権力も、人権を保障するために「正義の法」に拘束されるという原理です。

 どの憲法にも共通して書かれているのが、その国の統治(とうち)のあり方ですが、近代立憲主義(人権を保障するため、憲法によって国家権力の濫用(らんよう)を防ぎながら国を統治する考え方)に基づいて作られている日本国憲法には、大きく2つの統治原理があります。1つは「個人の尊重」であり、もう1つは「法の支配」です。

「個人の尊重」とは、人間は皆、かけがえのない価値をもつ存在であり、その人格は等しく尊重されなければならないという、憲法の根底にある理念のことです。日本国憲法の三大原理と言われる「国民主権」「基本的人権の尊重」、さらには、個人の自由と生存は平和なくしては確保されないという意味において「平和主義」も、「個人の尊重」という理念から派生しています。

「法の支配」と「人の支配」

 では、もう一つの「法の支配」とはどういう意味でしょうか。

イラスト/石橋富士子

イラスト/石橋富士子

「法の支配」とは、中世イギリスに起源をもつ考え方で、国民の権利と自由を守るため、いかなる統治権力も「法」によって拘束(こうそく)されるとする、英米系法学の基本的原理のことです。それと対照的なのが、「人の支配」と言われるものです。これは統治権力者の独断的な、その時々の思いつきの判断によって、国家の重要な決定が行われることを言います。

 法の支配における「法」とは、人権を保障するための「正義の法」であり、それが成文化されたものが国家の基本法である憲法です。法の支配の原理によれば、国家は憲法に基づいて「個人の尊厳」を守るためにつくられ、「人権を保障する」ための手段として、国家機関には公権力が与えられます。

 日本国憲法には、法の支配が統治原理として採用されており、具体的には、「基本的人権の永久不可侵性」(11条、97条)、「憲法の最高法規性」(98条)、「法の適正な手続きの保障」(31条)、「裁判所の違憲立法審査権」(81条)などにあらわれています。