食料自給率が低く、食の大部分を海外に依存している上、農業就労者の減少という“二重のリスク”を抱えている日本── いま私たちは、食と農についてどう考え、どう行動すべきなのか、食と農の問題について研究している千葉商科大学人間社会学部准教授の小口広太さんに聞いた。

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「私たちは、食の選択を通じて農業や農業従事者、環境を守り、育むことができます。今必要なのは、食と農を繋げる実践的なアプローチをすることだと思います」と語る小口さん

小口広太(おぐち・こうた)さん
1983年、長野県塩尻市生まれ。千葉商科大学人間社会学部准教授。明治大学大学院農学研究科博士後期課程単位取得満期退学、博士(農学)。日本農業経営大学校専任講師等を経て、2021年から現職。専門は地域社会学、食と農の社会学。有機農業や都市農業の動向に着目し、フィールドワークに取り組んでいる。NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)理事。著書に『日本の食と農の未来 「持続可能な食卓」を考える』(光文社新書)、共著に『都市農業の変化と援農ボランティアの役割 支え手から担い手へ』(筑波書房)『有機農業大全 持続可能な農の技術と思想』(コモンズ)などがある。


食の確保が“自分事”から“他人事”へと変化


──まず、私たちを取り巻く食の現状について、どのように感じていらっしゃいますか。

小口 食は、私たちの暮らしの中では最も身近で、必要不可欠な営みですから、いつの時代でも、食の確保は、私たちが意識せざるを得ない、“自分事”でした。ところが、高度経済成長期になり、「生産者」「消費者」という言葉が使われるようになると、食の確保が次第に“他人事”になっていったんです。そして今は、コンビニだけで食を賄うことができ、パソコンの画面を見ながら、クリック一つで簡単に食品が届く便利な世の中になりました。

 そのため私たちは、「価格が高いか、安いか」「健康に良いか、悪いか」など、メディアから受け取る“商品としての情報”を意識することはあっても、食という大事な営みを意識することがほとんどなくなってきましたね。

 さらには、「生産者」と「消費者」という言葉が象徴するように、“食と農の距離”が物理的に広がったことで、食と農の繋がりが分からなくなってきました。どこで誰が、どんな方法で、どんな思いで作っているのか確認できないため、食と農の間でコミュニケーションがとれなくなってしまい、必然的に関心が薄れ、心理的な距離も広がってしまったというのが、食を取り巻く日本の現状だと感じています。

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千葉商科大学の研究室で

日本の食料自給率は38%
先進国の中で最低ランク


──日本の食料自給率は、とても低いと言われますね。

小口 日本の食料自給率(カロリーベース)は、1960年に79%あったものが、1968年以降は40%以下を推移し、「諸外国の食料自給率と穀物自給率の比較」によれば、2021年時点で38%にまで低下しています。

 カナダ、オーストラリア、アメリカ、フランス、ドイツ、スウェーデン、イギリスなどが軒並み高い割合を示し、自国の農業と国民の食料を守っていることと比較すると、日本の低さは際立っています。特に穀物自給率は、世界172の国・地域中、128番目で、OECD(経済協力開発機構)に加盟する38カ国の中では32番目です。

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この穀物自給率の低さが、食料自給率を全体的に押し下げ、小麦や大豆は1960年という早い段階で、それぞれ自給率39%、28%と低く、雑穀に含まれるトウモロコシは、0%です。

──穀物自給率が特に低いことの背景にあるのはなんでしょうか。

小口 小麦、大麦、トウモロコシ、綿花などの農産物の過剰生産に悩んだアメリカが、そうした余剰農産物の対外輸出戦略を促進したことや、農業の近代化政策によって穀物の輸入が奨励されたこと、食生活の欧米化(粉食、肉食の普及)に伴って、家畜の飼料用として穀物を大量輸入したことなどがあります。

 下の「主な食料の品目別自給率の推移」を見ると、2019年には牛肉35%、豚肉49%、鶏肉64%と高い数値(2021年には、牛肉45%、鶏肉65%)を示していますが、輸入飼料を考慮すると、それぞれ12%、6%、8%にまで急激に下がってしまいます。

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 これだけを見ても、日本の食がいかに海外に依存しているかが、よく分かります。

大幅に減少した農業就業人口
農業従事者の高齢化も進む


──日本の農業就業人口については、どうなっているんでしょうか。

小口 農林水産省が5年ごとに実施している「農林業センサス」に基づいて私が作成した、「農業就業者と基幹的農業従事者数の推移」を見て下さい。農業就業人口とは「自営農業のみに従事した者、または自営農業以外の仕事に従事していても年間労働日数で自営農業が多い者」のことで、そのうち「ふだん仕事して主に自営農業に従事している者」が、基幹的農業従事者です。

 それを踏まえた上で農業就業人口を見ると、1960年度の1454万人から2016年には、200万人を切って192万人、2019年時点で168万人と、大幅に減少していることが分かります。

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 これを基幹的農業従事者数で見ると、1960年に1175万人だったのが、2020年には136万人となっており、農業就業人口と同様、大きく後退しています。さらに言えば、1950年は全就業人口のうち農業就業人口が47.1%を占めていましたが、2020年の基幹的農業従事者数(2020年から農業就業人口の集計は廃止)で比較すると、わずか2%という危機的状況になっています。

──その上、農業従事者の年齢も高くなっていると聞きますが。

小口 そうですね。年齢別基幹的農業従事者数の割合で言いますと、75歳以上が31.7%、65歳以上を含めると69.4%にもなり、平均年齢は67.8歳。30代以下は4.9%しかおらず、40代以下を含めても10.9%、特に総土地面積の約70%を占める中山間地域での高齢化が進んでいます。

 ちなみに、いま問題になっている耕作放棄地の面積は、1975年の13万1千ヘクタールから2015年には42万3千ヘクタールにまで増え、これは滋賀県の面積に匹敵する広さです。

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学生に配布する食品を集め、フードパントリー(食品の無料配布)を開催している小口さん

食料自給率低下の一因
農業の近代化が招いた結果


──そうした問題の背景には、どんな要因があると思われますか。

小口 農業はかつて「きつい」「汚い」「かっこ悪い」と言われていました。特に高度経済成長期以降、産業化と都市化が進み、企業で働くことが一般的になると、「工業に比べて農業は生産性が低い」「もう農業の時代ではない」「都市は進んでいて、農村は遅れている」といった意識や価値観が人々の中に醸成され、農業就業人口の減少に拍車がかかっていきました。

 もう一つ見逃せないのが、1961年に制定された「農業基本法」の影響です。この法律は、「他産業との生産性の格差が是正されるように、農業の生産性が向上することおよび農業従事者が所得を増大して他産業と均衡する生活を営む」という政策理念のもと、専業農家を増やすことを主眼に制定されました。

 それにより、生産性や農家の所得を伸ばすことに貢献はしたんですが、その半面、大部分の農家が兼業化したことや、農業の大規模化という近代化政策が進み、労働力も少なくて済むようになりました。そのため、農村の労働力が東京、大阪などの都市部へ流出し、農業の担い手不足の問題が生まれただけでなく、食料自給率低下の要因になってしまったんです。

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掘り出したジャガイモを手にする小口さんの長女。土をいじり、野菜を収穫することが、とてもいい情操教育になっているという

企業至上社会に綻びが生じ
農業に熱い眼差しが向けられる


──その一方で、ご著書の『日本の食と農の未来』には、いま、農業に向けられる眼差しが変わりつつあると書かれていますね。

小口 そうなんです。経済的・物質的な豊かさを追い求める社会に風穴を開けるかのように、農業に飛び込む人たちが増えているんです。

 長時間労働や過労死、通勤時間の増大、競争社会や企業の歯車になるような働き方への疑問が生まれ、企業至上社会に綻びが生じて、1980年代以降、非農家出身者の方が農村に移住して農業を始めるようになり、1990年代以降は社会的な広がりを見せるようになりました。

 さらに、1991年から93年頃にかけて起きたバブル崩壊によって、雇用の劣化が常態化し、企業で働くことが人生を保障する時代ではなくなりました。企業で働くことを絶対視せず、農業や農村で働くことを選択肢に入れ、農業を選び取る人が増えていったのです。さらには、地球環境問題や国際協力への関心が高まり、多くの人に“地球市民”という意識が芽生えたことも、農業を選択する引き金になっていると思います。

 現在では、当たり前のように「農業もいいな」「いつか農村で仕事をしたい」と言う人が増えているように感じています。

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新型コロナも後押しになり
仕事の選択肢に農業が入るように


──そうしたことを実感される体験がありましたか。

小口 私は2007年3月から1年間、大学院を休学して、埼玉県小川町にある霜里農場で有機農業の研修に行ったことがあります。住み込みで研修をしていた4人全員が20から30代で、1人は大学卒、3人は脱サラの人でした。

 私以外は全員非農家出身でしたが、何よりも驚いたのは、みんな自分が経営者となって農業を営む独立就農者を目指しているだけでなく、自然や地域と繋がる生き方を強く意識していたことです。そうした姿を目の当たりにして、私と同じ世代に価値観の変化が広がりつつあることを実感しました。

 また、こうした価値観の変化は、農家の後継者の間にも生まれ始めていて、「長男だから」「後継者だから」と農業を継ぐのではなく、自ら農業を選択している人が増えています。

──新型コロナの感染拡大も後押しになっていますか。

小口 ええ。新型コロナの感染拡大によって、都市生活の脆弱さが顕在化したのと、テレワークが普及し、都会に住んでいなくても仕事ができることが分かりました。そのため、都会を離れ、自然が豊かで空気もいい農村に移住する人が増え、その際の仕事の選択肢の一つに農業が入るようになったのは確かでしょうね。

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「皆さんが気軽に畑の土を耕し、種まき体験や収穫体験ができる社会が、一日も早く実現すればいいなと思っています」

ライフスタイルの転換として
有機農業の道を選択する


──前掲書には、先ほど話に出てきた独立就農者から有機農業が支持されているとありました。

小口 その話の前提として、日本における有機農業の現状を見ると、2020年の耕地面積に対する有機農業取組面積の割合は、世界平均1.6%で、イタリア16.0%、ドイツ10.2%、スペイン10.0%、フランス8.8%とヨーロッパの国々が高い割合を示しています。が、日本は0.6%で世界平均の3分の1程度に留まっています。

 こうした現状を見る限り、日本では有機農業の普及が遅れていると言わざるを得ませんが、取扱面積や農家数は増加傾向にあります。例えば取扱面積は、2010~20年の10年間で、1万6700ヘクタールから2万9200ヘクタールにまで増加しています。また、「農家の平均年齢・年齢構成」の有機農業者の平均年齢を見ると、有機農業者は59.0歳となっており、農家全体の平均年齢66.1歳より約7歳も若いことが分かります。

 では、なぜ独立就農者が有機農業を選択するのかといいますと、1980年代から顕著になったことですが、環境に負担をかけない農業を選択したいという思いが、有機農業の実践に結び付いているのではないかと思います。今もこうした傾向が続き、「農業をするなら有機農業に決めていた」という人が増えていて、当たり前のように有機農業を選択するようになってきています。

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──他にも、独立就農者が有機農業を選ぶ理由として挙げられるものはありますか。

小口 2000年代以降、有機農業や有機(オーガニック)農産物は、私たちの身近な存在となり、現在の20~30代の人たちが物心がつく頃には、少なからずそうした言葉を耳にしたり、口にしたりする機会があったわけです。ですから若い世代の人たちにとって、有機農業は特別なものではなく、実践の対象として肯定的に受け止められているんです。

 また、近年広がりつつある「田園回帰」の風潮ともシンクロし、「利益を追求し、経済を優先する社会よりも大地に根差した暮らしのほうが安心して生きられる」という考えから、ライフスタイルを変える一環として有機農業を実践する生き方を選択しているように思います。

 もう一つの要因として挙げられるのが、2011年に発生した東日本大震災と福島第一原子力発電所事故です。これを通して、都市生活の脆さ、食べ物が身近にあるのが本当の意味での安全な暮らしだと痛感した人たちが有機農業を志した、ということが言えると思いますね。

農業に従事する祖父の影響で
食と農の研究の道に進む


──ところで、ご自身が農業に関心を持たれるようになったきっかけはなんですか。

小口 私は、もともと長野県塩尻市の農家の出身です。祖父母は、米、アスパラガス、ブドウなどを栽培する専業農家で、父はサラリーマンをしていて、農繁期の人手が必要な時に母と一緒に手伝っていました。祖父母が亡くなった今は、定年後も仕事を続けている父と母が、自給用と私たち家族へのお裾分け用として畑を耕しています。

 1950年代前半に生まれた父は、都内の大学に進学し、Uターン就職しました。その際、祖父は「農業を継げ」とは言わず、就職を勧めたため、農業の道には進まなかったと言います。

 まして私の世代になると、農業は祖父母がするものという意識が強く、農業は仕事の選択肢にすら入らず、私は横浜の大学に進学したわけです。しかし、自然とともに農業に従事する祖父の姿を、地に足が着いた憧れの生き方として見ていたため、その影響で食と農の問題を研究する道に進んだように思います。

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地元の農業に興味を持ち
地元の農家と繋がることが大切


──今後、食料の自給率を少しでも上げるために、私たちができることとは何でしょうか。

小口 私がいつも言っているのは、「自分が今暮らしているところに、どういう農家があって、どういうものを作っているのか探してみましょう」ということです。田舎に限らず都市であっても、そこには必ず土を耕してなんらかの農産物を作っている人がいるわけですが、関心を持たないことが多いと思います。

 事実、東京都や私が住んでいる横浜市で行ったアンケート調査によると、地元の農産物を購入したことがあるという人はたくさんいますが、それを作った農家さんと話したりしたことがあるのは1割か2割程度で、消費者と地元の生産者との接点がないんです。これはおそらく農村地域でも同様で、そこに農業はあっても、農家の人と話したことがないという人がほとんではないでしょうか。

 ですからぜひ、地元の農業と農家に興味を持ち、作業している姿を見かけたら声をかけて、繋がりを持ってみてくださいとお勧めしています。ただ地元産の農産物を食べるだけではなく、どんな人が、どんな思いで作ったのかを知れば、おいしさも一層増すというものです。

 私の知り合いにも、地元の直売所で農産物を買い、それを作った農家の人と話すうちに、農業への興味が広がり、援農ボランティアに参加するようになったという人がいます。地元の農家の人たちと繋がりを持つだけでなく、一緒に作業して手助けができれば、なおいいと思います。

 何より大切なのは、畑がある人は畑で、ない人は市民農園や、ベランダでのプランター栽培でもいいですから、自分で土を耕して何かを育ててみるということです。そうしたことをしている人たちからは、「農業を仕事にして行うのは本当にすごいこと」「農家に感謝しなければいけない」「野菜が生長している姿を見ると嬉しい」といった声が聞かれます。

 土をいじり、作物を育てることで、農業という仕事を尊び、感謝する気持ちが生まれ、農業への関心が高まっていきます。ぜひ、多くの皆さんにチャレンジしていただきたいと思います。

世界の食料の8割は
小規模・家族農業から生まれる


──私たち一人ひとりが自分で土を耕し、何かを育てることが、食料自給率を上げることに結びついていくわけですね。

小口 おっしゃる通りです。世界の食料の8割は、小規模・家族農業によって生産されているわけですから、持続可能な食料生産の鍵は、ここにあるんです。こうした小規模・家族農業では、自給を重視しながら、自分たちの手の届く範囲で外部の資源への依存が少なく生産することができます。エネルギー消費も少なくて済み、有機農業などの環境に配慮した農業にも取り組みやすいという特徴があります。

 時代遅れだと言われていた小規模・家族農業が、実は持続可能な農業の実現にあたって、もっとも有効な手段であることが分かってきました。ですからこれからは一層、小規模・家族農業の役割を評価し、育てていくとともに、地域の中での多様な農と農業の担い手への理解、助け合いのシステムを構築し、食料自給率を高めていくことが重要だと思っています。
(2022年8月3日、インターネットを通して取材)

聞き手/遠藤勝彦(本誌) 写真/堀 隆弘